アイアンエンジェル~あの日の旋律

夏目奈緖

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 5月5日、日曜日。午前10時。

 2泊3日の帰省が、あっという間に終わった。今日の昼過ぎの飛行機で発つ。その前に、もう一度実家へ寄った。自分の部屋に置いてあった本を取りに行くために。実家に置いて来たものが多いなか、ずっと気になっていたものだ。
 
 空港へ向かうタクシーの車内で、紙ぶくろから本を取り出した。お気に入りの絵本3冊だ。黒崎が買った同じ絵本がマンションに置いてあるから、あえて持って来なかった。でも、自分が見ていた分も手元に欲しくなったから、今日、持ってきた。

「あんたの好きな絵本だよ~」
「……読んでよかった。前向きになれた」
「うん。今の生活のことだよね?」

 黒崎からの返事は頷きだけだった。しんみりした空気の中、あの爆弾発言に触れておこう。黒崎が動揺していたから面白い。

 実家の家族との5人で食事に行った時のことだ。”どうして圭一君のことが好きだったのかしら?”と、言われて驚いた。万理が黒崎のことを好きだったなんて気づかなかったからだ。その時の話をすると、黒崎がため息をついた。

「そりゃあね。万理から見ても、あんたはカッコいいと思うよ。でも、恋愛感情まで持つとは思えないよ。外見がヤバイから、近づくレベルじゃないもん。キャーー。それだけだよ。ビビるもん。中身は良くなって来たけど。最初の頃なんてさ……。答辞の内容、聞いただろ?」
「……夏樹、忘れてくれ」

 黒崎が窓の外を眺め始めた。可愛がっている妹分からフラれて、ショックを受けている。昨日もそうだった。俺という存在がいても、複雑な思いがあるそうだ。

 万理と二葉が連絡を取るようになり、ご飯を食べに行くようになった。沙耶さんも一緒に。黒崎の話題が出ては、あんな男には引っかかるなと言い、コケ下ろされているそうだ。それも知ったわけだ。

「本当の事だもん。誰もあんたに言わなかっただけ」
「お前には言われ続けた。怖い見た目、オッサン。俺が減るから見るなとまで言われた」
「うん。今でもそうだよ。認めろよ。いたたた……、暴力亭主!伊吹お兄ちゃんに告げ口するからね。あの暑苦しい人と話をしろよ~。あれ、お兄ちゃんからだ」

 噂をすれば影ということか。予定を話してあったから気を遣ったのだろう。ラインで連絡して来た。それを読んで胸が熱くなり、急に自分もやる気がでた。

 聡太郎がヴァイオリンの練習を再開するそうだ。中学生の時に使っていた楽器が欲しくて探しているけれど、そのヴァイオリンの品番を忘れてしまい、写真だけが残っている状況だと書いてあった。

「黒崎さん、聡太郎君が……、ヴァイオリンを始めるそうだよ!」
「良かった。楽器を保管していたのか?」
「ううん。当時のヴァイオリンを探しているんだって。写真でしか残っていなくて。……そうだ、悠人のバイト先のオーナーさんが知っているかも。楽器店だよ。顔が広いって聞いているよ」
「そうか。良い返事が聴けるといい。いいバイト先だな。バンドをやっている悠人君なら詳しいだろう」
「うん。ギターとベースの取り扱いが多いけれど、いろんな楽器が置いてあるそうだよ」
「なるほど。早瀬にも聞いておく」
「お願いします。そうだ。この間のお使いの時に、早瀬さんから聞いたんだよ。新しい出会いがあったんだって。まだ会ったばかりだって言っていたよ」
「また同じタイプか……」
「どんな人が好みなんだよ?」
「落ち着いた人が好きだ。騒がしいタイプを好きにならない。お前のような、落ち着きのないタイプもだ」
「なんだよ~。仲間がいるんだからね。悠人は俺の上をいくんだよ」
「来週はバンドの練習があったな?迎えに行く。悠人君に会いたい」
「紹介するよ。悠人も会いたがっているよ」

 タクシーが空港の方へ入って行った。遠くの方で飛び立つ飛行機を眺めながら、今日帰った後の予定を話し合った。新しい居場所に、俺達の思い出も引っ越して来た気分になった。空港に到着した後、その3冊の絵本を抱えて、タクシーから降りた。こうして一日が過ぎていった。
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