アイアンエンジェル~あの日の旋律

夏目奈緖

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24-8(黒崎視点)

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 12時半。

 営業企画部のオフィスでは昼休憩の時間に入った。役員室も不在札が立ち初めて、今、3人の役員がデスクに向かっている。メールを返しているのだろう。その光景を見ていると、若手社員から声をかけられた。

「……常務。先日の提案書のことですが」
「……こちらへ13時に」
「はい!」

 役員室の変更後、社員達が自由に話が出来る空気が出来がった。今までは、幹部クラスの者としか接する機会がなかった。せっかくのアイデアがありながらも、こちらへ届かないまま埋もれてしまっていた。多少の反発が起きたが、深川副社長や役員達の協力があり、実現した。合併という大きな節目が、いい方向に進んだ。

 デスクに置いてあるデジタルフォトフレームへ視線を向けた。夏樹の写真がスライドショーで表示されている。着ぐるみパジャマの撮影、マンションの家庭菜園、アントを抱いているもの、卒業式での姿だ。左手のアップには指輪がある。

(写真もいいが、実物はもっと可愛い。今日も頑張れる。こっちのアルバムを再生しよう……)

 タッチパネルを操作して、『夏樹と友達』のフォルダーを選択した。イベリコ豚丼のソースを口に付けているもの、唇を尖らせているもの、悠人と並んで話している姿の写真だ。それらを見ていると、ふと、早瀬のことが思い浮かんだ。

(あの早瀬がなあ……。元気のいい子に目が向くとは。いい子だからだ……)

 視線の先には早瀬の姿がある。外から戻ってきたばかりだ。フォトフレームを手にして、彼の元へと向かった。どう切り出そうか。悠人の写った写真を見せた後の反応が楽しみだ。その早瀬の方を向くと、表情が曇っていた。携帯を眺めながらだ。

(悠人君とケンカか?ああいう顔をするのは珍しい。……夏樹から連絡がないぞ)

 いつもなら学食で食事をした後、ラインを送ってくる。確認すると、まだ届いていない。妙に不安が胸をよぎった。

「早瀬。何かあったんだろう?」
「あ、常務……」

 俺の方の気配に気づいていなかった。その場で夏樹にラインを送ると学食にいると返事が入り、ビデオ通話をかけた。すると、すぐに夏樹が出た。

 画面に映し出されたのは山盛りの黒米と、チキン南蛮だった。数人分のざわめきが入った後、夏樹の笑い声が聞こえて、その姿が映し出された。元気そうにしている。

「何かあったのか?」
「わあ……、黒崎さんの魔力だね。どんな力を使ったんだよ?」
「何があったんだ?」
「バレるから言うよ。二時限目の直前に、生徒から絡まれたんだよ。それは解決済みだよ。険悪ムードの中、悠人が相手にマフィンを口に詰め込んで笑いが取れたんだ。森本と山崎も助けてくれたよ。その2人とは、これからよろしくって握手したよ」
「そうか。帰ってから詳しく聞かせろ」
「うん。心配かけてごめんね」

 笑っているが、目が沈んでいた。俺の方から何も言わないでおいた。ポーカーフェイスをされるのを避けるためだ。沈んでいることには気づかないふりをして、画面の中の山盛りサラダに視線を向けた。

「その山盛りサラダとチキン南蛮は、森本君の分か?」
「悠人の分だよ。森本が計算したら、3000カロリーあるんだってさ。俺の2倍は食べているよ」
「4倍だろう。今夜は遅くなるから、親父の家で食事しろ。寂しくないから、しっかりと食べられるだろう」
「了解!……お茶漬けにしないってば。ちゃんと食べるよ~。悠人と森本と山崎を映そうか?」
「ああ。頼む」

 夏樹が呼びかけた後、3人が映り込んだ。悠人と山崎が人懐っこい笑顔を浮かべ、森本は相変わらずの冷静ぶりだ。こうしてみると、対照的な3人だと感じる。静と動だ。夏樹はその間に入る。

「こんにちは。いつも夏樹がお世話になっているね」
「お久しぶりです。大したことはなかったので」
「こんにちは。大丈夫でしたよ」

 森本と山崎が微笑んだ。しっかりしている子達だ。夏樹が何をやらかしても、取り乱すことがない。そして、悠人がテーブルの上の手を下ろし、姿勢を正した。さらに静かにこちらへと向き直り、軽く頭を下げてきた。

「お久しぶりです。先月はお騒がせしました」
「とんでもない。面白いものを見せてもらったよ」
「はい……」

 悠人が笑った。落ち着きがない印象が変わった。話し方がしっかりしており、落ち着いている。食べかけのチキン南蛮も黒米も、綺麗に食べていることが分かった。感じの良い子だと思った。
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