176 / 283
24-8(黒崎視点)
しおりを挟む
12時半。
営業企画部のオフィスでは昼休憩の時間に入った。役員室も不在札が立ち初めて、今、3人の役員がデスクに向かっている。メールを返しているのだろう。その光景を見ていると、若手社員から声をかけられた。
「……常務。先日の提案書のことですが」
「……こちらへ13時に」
「はい!」
役員室の変更後、社員達が自由に話が出来る空気が出来がった。今までは、幹部クラスの者としか接する機会がなかった。せっかくのアイデアがありながらも、こちらへ届かないまま埋もれてしまっていた。多少の反発が起きたが、深川副社長や役員達の協力があり、実現した。合併という大きな節目が、いい方向に進んだ。
デスクに置いてあるデジタルフォトフレームへ視線を向けた。夏樹の写真がスライドショーで表示されている。着ぐるみパジャマの撮影、マンションの家庭菜園、アントを抱いているもの、卒業式での姿だ。左手のアップには指輪がある。
(写真もいいが、実物はもっと可愛い。今日も頑張れる。こっちのアルバムを再生しよう……)
タッチパネルを操作して、『夏樹と友達』のフォルダーを選択した。イベリコ豚丼のソースを口に付けているもの、唇を尖らせているもの、悠人と並んで話している姿の写真だ。それらを見ていると、ふと、早瀬のことが思い浮かんだ。
(あの早瀬がなあ……。元気のいい子に目が向くとは。いい子だからだ……)
視線の先には早瀬の姿がある。外から戻ってきたばかりだ。フォトフレームを手にして、彼の元へと向かった。どう切り出そうか。悠人の写った写真を見せた後の反応が楽しみだ。その早瀬の方を向くと、表情が曇っていた。携帯を眺めながらだ。
(悠人君とケンカか?ああいう顔をするのは珍しい。……夏樹から連絡がないぞ)
いつもなら学食で食事をした後、ラインを送ってくる。確認すると、まだ届いていない。妙に不安が胸をよぎった。
「早瀬。何かあったんだろう?」
「あ、常務……」
俺の方の気配に気づいていなかった。その場で夏樹にラインを送ると学食にいると返事が入り、ビデオ通話をかけた。すると、すぐに夏樹が出た。
画面に映し出されたのは山盛りの黒米と、チキン南蛮だった。数人分のざわめきが入った後、夏樹の笑い声が聞こえて、その姿が映し出された。元気そうにしている。
「何かあったのか?」
「わあ……、黒崎さんの魔力だね。どんな力を使ったんだよ?」
「何があったんだ?」
「バレるから言うよ。二時限目の直前に、生徒から絡まれたんだよ。それは解決済みだよ。険悪ムードの中、悠人が相手にマフィンを口に詰め込んで笑いが取れたんだ。森本と山崎も助けてくれたよ。その2人とは、これからよろしくって握手したよ」
「そうか。帰ってから詳しく聞かせろ」
「うん。心配かけてごめんね」
笑っているが、目が沈んでいた。俺の方から何も言わないでおいた。ポーカーフェイスをされるのを避けるためだ。沈んでいることには気づかないふりをして、画面の中の山盛りサラダに視線を向けた。
「その山盛りサラダとチキン南蛮は、森本君の分か?」
「悠人の分だよ。森本が計算したら、3000カロリーあるんだってさ。俺の2倍は食べているよ」
「4倍だろう。今夜は遅くなるから、親父の家で食事しろ。寂しくないから、しっかりと食べられるだろう」
「了解!……お茶漬けにしないってば。ちゃんと食べるよ~。悠人と森本と山崎を映そうか?」
「ああ。頼む」
夏樹が呼びかけた後、3人が映り込んだ。悠人と山崎が人懐っこい笑顔を浮かべ、森本は相変わらずの冷静ぶりだ。こうしてみると、対照的な3人だと感じる。静と動だ。夏樹はその間に入る。
「こんにちは。いつも夏樹がお世話になっているね」
「お久しぶりです。大したことはなかったので」
「こんにちは。大丈夫でしたよ」
森本と山崎が微笑んだ。しっかりしている子達だ。夏樹が何をやらかしても、取り乱すことがない。そして、悠人がテーブルの上の手を下ろし、姿勢を正した。さらに静かにこちらへと向き直り、軽く頭を下げてきた。
「お久しぶりです。先月はお騒がせしました」
「とんでもない。面白いものを見せてもらったよ」
「はい……」
悠人が笑った。落ち着きがない印象が変わった。話し方がしっかりしており、落ち着いている。食べかけのチキン南蛮も黒米も、綺麗に食べていることが分かった。感じの良い子だと思った。
営業企画部のオフィスでは昼休憩の時間に入った。役員室も不在札が立ち初めて、今、3人の役員がデスクに向かっている。メールを返しているのだろう。その光景を見ていると、若手社員から声をかけられた。
「……常務。先日の提案書のことですが」
「……こちらへ13時に」
「はい!」
役員室の変更後、社員達が自由に話が出来る空気が出来がった。今までは、幹部クラスの者としか接する機会がなかった。せっかくのアイデアがありながらも、こちらへ届かないまま埋もれてしまっていた。多少の反発が起きたが、深川副社長や役員達の協力があり、実現した。合併という大きな節目が、いい方向に進んだ。
デスクに置いてあるデジタルフォトフレームへ視線を向けた。夏樹の写真がスライドショーで表示されている。着ぐるみパジャマの撮影、マンションの家庭菜園、アントを抱いているもの、卒業式での姿だ。左手のアップには指輪がある。
(写真もいいが、実物はもっと可愛い。今日も頑張れる。こっちのアルバムを再生しよう……)
タッチパネルを操作して、『夏樹と友達』のフォルダーを選択した。イベリコ豚丼のソースを口に付けているもの、唇を尖らせているもの、悠人と並んで話している姿の写真だ。それらを見ていると、ふと、早瀬のことが思い浮かんだ。
(あの早瀬がなあ……。元気のいい子に目が向くとは。いい子だからだ……)
視線の先には早瀬の姿がある。外から戻ってきたばかりだ。フォトフレームを手にして、彼の元へと向かった。どう切り出そうか。悠人の写った写真を見せた後の反応が楽しみだ。その早瀬の方を向くと、表情が曇っていた。携帯を眺めながらだ。
(悠人君とケンカか?ああいう顔をするのは珍しい。……夏樹から連絡がないぞ)
いつもなら学食で食事をした後、ラインを送ってくる。確認すると、まだ届いていない。妙に不安が胸をよぎった。
「早瀬。何かあったんだろう?」
「あ、常務……」
俺の方の気配に気づいていなかった。その場で夏樹にラインを送ると学食にいると返事が入り、ビデオ通話をかけた。すると、すぐに夏樹が出た。
画面に映し出されたのは山盛りの黒米と、チキン南蛮だった。数人分のざわめきが入った後、夏樹の笑い声が聞こえて、その姿が映し出された。元気そうにしている。
「何かあったのか?」
「わあ……、黒崎さんの魔力だね。どんな力を使ったんだよ?」
「何があったんだ?」
「バレるから言うよ。二時限目の直前に、生徒から絡まれたんだよ。それは解決済みだよ。険悪ムードの中、悠人が相手にマフィンを口に詰め込んで笑いが取れたんだ。森本と山崎も助けてくれたよ。その2人とは、これからよろしくって握手したよ」
「そうか。帰ってから詳しく聞かせろ」
「うん。心配かけてごめんね」
笑っているが、目が沈んでいた。俺の方から何も言わないでおいた。ポーカーフェイスをされるのを避けるためだ。沈んでいることには気づかないふりをして、画面の中の山盛りサラダに視線を向けた。
「その山盛りサラダとチキン南蛮は、森本君の分か?」
「悠人の分だよ。森本が計算したら、3000カロリーあるんだってさ。俺の2倍は食べているよ」
「4倍だろう。今夜は遅くなるから、親父の家で食事しろ。寂しくないから、しっかりと食べられるだろう」
「了解!……お茶漬けにしないってば。ちゃんと食べるよ~。悠人と森本と山崎を映そうか?」
「ああ。頼む」
夏樹が呼びかけた後、3人が映り込んだ。悠人と山崎が人懐っこい笑顔を浮かべ、森本は相変わらずの冷静ぶりだ。こうしてみると、対照的な3人だと感じる。静と動だ。夏樹はその間に入る。
「こんにちは。いつも夏樹がお世話になっているね」
「お久しぶりです。大したことはなかったので」
「こんにちは。大丈夫でしたよ」
森本と山崎が微笑んだ。しっかりしている子達だ。夏樹が何をやらかしても、取り乱すことがない。そして、悠人がテーブルの上の手を下ろし、姿勢を正した。さらに静かにこちらへと向き直り、軽く頭を下げてきた。
「お久しぶりです。先月はお騒がせしました」
「とんでもない。面白いものを見せてもらったよ」
「はい……」
悠人が笑った。落ち着きがない印象が変わった。話し方がしっかりしており、落ち着いている。食べかけのチキン南蛮も黒米も、綺麗に食べていることが分かった。感じの良い子だと思った。
0
あなたにおすすめの小説
若頭の溺愛は、今日も平常運転です
なの
BL
『ヤクザの恋は重すぎて甘すぎる』続編!
過保護すぎる若頭・鷹臣との同棲生活にツッコミが追いつかない毎日を送る幼なじみの相良悠真。
ホットミルクに外出禁止、舎弟たちのニヤニヤ見守り付き(?)ラブコメ生活はいつだって騒がしく、でもどこかあったかい。
だけどそんな日常の中で、鷹臣の覚悟に触れ、悠真は気づく。
……俺も、ちゃんと応えたい。
笑って泣けて、めいっぱい甘い!
騒がしくて幸せすぎる、ヤクザとツッコミ男子の結婚一直線ラブストーリー!
※前作『ヤクザの恋は重すぎて甘すぎる』を読んでからの方が、より深く楽しめます。
とある執事の日常 ~お嬢様の中身は恐らくギャル~
冬兎
ファンタジー
うちのお嬢様は絶対におかしい。
「道路やばくない? 整備しよ」
「孤児院とか作ったら?」
「困ってる人助けるのなんか当たり前っしょ」
貴族令嬢らしからぬ口調で突拍子もない提案を次々とぶつけてくるお嬢様、レティシア・リオネール。執事の俺、クラウスは今日も彼女の無茶振りに振り回される。
不思議なことに、お嬢様の理想論は必ず実現し効果を発揮する。
孤児院は完成し、医療制度は整い、領地は驚異的に発展していく。
元勇者の伯爵様、脳筋騎士団長、くのいちメイド長、双子の妹たち――
濃すぎる面々に囲まれながら、俺は今日もお嬢様の思いつきを形にしていく。
気づけば、振り回されることに悦びを感じ始めている俺はもう手遅れかもしれない。
R8.1.20 投稿開始
死ぬほど嫌いな上司と付き合いました【完結】
三宅スズ
BL
社会人3年目の皆川涼介(みながわりょうすけ)25歳。
皆川涼介の上司、瀧本樹(たきもといつき)28歳。
涼介はとにかく樹のことが苦手だし、嫌いだし、話すのも嫌だし、絶対に自分とは釣り合わないと思っていたが‥‥
上司×部下BL
悠と榎本
暁エネル
BL
中学校の入学式で 衝撃を受けた このドキドキは何なのか
そいつの事を 無意識に探してしまう
見ているだけで 良かったものの
2年生になり まさかの同じクラスに 俺は どうしたら・・・
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
純白のレゾン
雨水林檎
BL
《日常系BL風味義理親子(もしくは兄弟)な物語》
この関係は出会った時からだと、数えてみればもう十年余。
親子のようにもしくは兄弟のようなささいな理由を含めて、少しの雑音を聴きながら今日も二人でただ生きています。
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。
紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※表紙をAI君に描いてもらいました。(2026.2.21)
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる