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すると、早瀬がデスクの前を横切ろうとしているのに気づいた。秘書室へ向かおうとしているのだろう。だからわざと、悠人と話していることが聞こえるように言った。
「いや、本心だよ。早瀬が動揺するのは珍しいことだ。あの後も付き合いが続いているんだろう?いじめられていないか?」
「いえ、大丈夫です。親切にしていただいていますから」
軽く受け流された。夏樹と仲良くなったのが頷ける。悠人の声が耳に届いたのだろうか。早瀬がこちらを向いたから呼んだ。
「悠人君とビデオ通話しているぞ」
「そうですか。秘書に用があるので」
「……気になるくせに」
早瀬が表情を変えずに通り過ぎた時、森本が悠人の空のグラスに水を注いだ。そして、悠人の笑い声が聞こえてきた。
「森本、いつもありがとう。寮に来いよ」
「一緒に寝るのは避けたい」
これは誤解をしそうな会話だと見守ると、早瀬がそばに来た。ちょうど画面に映り込んだようで、悠人の顔が強張った。さらに、夏樹が画面に覆いかぶさってきた。
「黒崎さんっ。このままだと、悠人が食べ終わらないから切るよ~」
「授業まで時間があるぞ?」
「黒崎さんっ」
叱られて諦めようとしたが、早瀬と悠人の会話が始まった。思ったよりも険悪な空気が出ており、このまま会話を見守ることにした。早瀬の顔が他の社員から見えないように、ホワイトボードを移動させておいた。
「……悠人君。帰りに迎えに行く」
「来なくていい。3時限目で終わりだし」
「だったら寮まで迎えに行く」
「いいってば!」
「怒られようなことはしてない。約束を守ったぞ」
「キスだけだって約束だろ。嘘つき!」
「キスしかしていない」
「これが?本当に?」
「そうだよ」
「変質者!いじめっ子上司に怒られろ!」
これは面白い表現だ。早瀬が変質者であり、俺はいじめっ子なのか。咄嗟に出て来るのなら、普段から口にしているという証だ。話に割って入るのは悪いと思いながらも、茶々を入れたくなった。
「『いじめっ子上司』とは、僕のことかな?」
「わわっ。すみません……っ」
「黒崎さん!他の奴らが声をかけてきたから!じゃあね!帰りにラインするよ!」
夏樹の背後に他の学生が立っていた。夏樹の姿に阻まれて、画面の向こうの様子がうかがえない。早瀬が悠人へ連絡を取ろうとしている。
「分かった。帰りは気をつけろ」
「りょーかい!大好きだよ。頑張ってね!」
最後は蕩けるような笑顔を向けられて、通話が終わった。こういう時間が堪らなく心地いい。学食内での楽しそうな姿を知ることが出来た。なんて可愛いのか。そばにいる早瀬に声をかけると、ため息が返ってきた。
「相手に振り回される気持ちが分かっただろう?」
「ええ、十分に」
「今度の日曜日、うちに来てくれるだろう?家庭菜園の畑を準備する。悠人君も手伝ってくれるそうだ。仲直りしろ」
「悠人は用があると……」
「そうなのか?畑に来るからじゃ無いのか?約束済だと聞いている」
「うまくいきません……」
「裕理。応援する」
「ありがとう、圭一さん」
「……上手くいくといい」
学生時代の関係に戻って下の名前で呼び合い、会話をした後、お互いの業務に戻った。
デスクに向かい、フォトフレームの夏樹を見つめた。いつの間にか仲間が増えている。俺も同じだ。その代わり、一緒に過ごす時間が減ってきている。知らないところで寂しい思いをさせているだろう。俺の知らない顔があるのは嫌だ。そう思って閉じ込めようとするのは、悪い癖だと自覚している。
(閉じこめると負担をかける。外に出すと心配だ……)
夏樹はどこにも行かない。閉じ込めたくなる衝動を抑え込んでいる。時間通りに部下が訪れた後、午後の業務を開始した。
「いや、本心だよ。早瀬が動揺するのは珍しいことだ。あの後も付き合いが続いているんだろう?いじめられていないか?」
「いえ、大丈夫です。親切にしていただいていますから」
軽く受け流された。夏樹と仲良くなったのが頷ける。悠人の声が耳に届いたのだろうか。早瀬がこちらを向いたから呼んだ。
「悠人君とビデオ通話しているぞ」
「そうですか。秘書に用があるので」
「……気になるくせに」
早瀬が表情を変えずに通り過ぎた時、森本が悠人の空のグラスに水を注いだ。そして、悠人の笑い声が聞こえてきた。
「森本、いつもありがとう。寮に来いよ」
「一緒に寝るのは避けたい」
これは誤解をしそうな会話だと見守ると、早瀬がそばに来た。ちょうど画面に映り込んだようで、悠人の顔が強張った。さらに、夏樹が画面に覆いかぶさってきた。
「黒崎さんっ。このままだと、悠人が食べ終わらないから切るよ~」
「授業まで時間があるぞ?」
「黒崎さんっ」
叱られて諦めようとしたが、早瀬と悠人の会話が始まった。思ったよりも険悪な空気が出ており、このまま会話を見守ることにした。早瀬の顔が他の社員から見えないように、ホワイトボードを移動させておいた。
「……悠人君。帰りに迎えに行く」
「来なくていい。3時限目で終わりだし」
「だったら寮まで迎えに行く」
「いいってば!」
「怒られようなことはしてない。約束を守ったぞ」
「キスだけだって約束だろ。嘘つき!」
「キスしかしていない」
「これが?本当に?」
「そうだよ」
「変質者!いじめっ子上司に怒られろ!」
これは面白い表現だ。早瀬が変質者であり、俺はいじめっ子なのか。咄嗟に出て来るのなら、普段から口にしているという証だ。話に割って入るのは悪いと思いながらも、茶々を入れたくなった。
「『いじめっ子上司』とは、僕のことかな?」
「わわっ。すみません……っ」
「黒崎さん!他の奴らが声をかけてきたから!じゃあね!帰りにラインするよ!」
夏樹の背後に他の学生が立っていた。夏樹の姿に阻まれて、画面の向こうの様子がうかがえない。早瀬が悠人へ連絡を取ろうとしている。
「分かった。帰りは気をつけろ」
「りょーかい!大好きだよ。頑張ってね!」
最後は蕩けるような笑顔を向けられて、通話が終わった。こういう時間が堪らなく心地いい。学食内での楽しそうな姿を知ることが出来た。なんて可愛いのか。そばにいる早瀬に声をかけると、ため息が返ってきた。
「相手に振り回される気持ちが分かっただろう?」
「ええ、十分に」
「今度の日曜日、うちに来てくれるだろう?家庭菜園の畑を準備する。悠人君も手伝ってくれるそうだ。仲直りしろ」
「悠人は用があると……」
「そうなのか?畑に来るからじゃ無いのか?約束済だと聞いている」
「うまくいきません……」
「裕理。応援する」
「ありがとう、圭一さん」
「……上手くいくといい」
学生時代の関係に戻って下の名前で呼び合い、会話をした後、お互いの業務に戻った。
デスクに向かい、フォトフレームの夏樹を見つめた。いつの間にか仲間が増えている。俺も同じだ。その代わり、一緒に過ごす時間が減ってきている。知らないところで寂しい思いをさせているだろう。俺の知らない顔があるのは嫌だ。そう思って閉じ込めようとするのは、悪い癖だと自覚している。
(閉じこめると負担をかける。外に出すと心配だ……)
夏樹はどこにも行かない。閉じ込めたくなる衝動を抑え込んでいる。時間通りに部下が訪れた後、午後の業務を開始した。
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