アイアンエンジェル~あの日の旋律

夏目奈緖

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24-13

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 17時半。

 山崎さんからの差し入れを食べて過ごしながら、悠人と大学のことを話した。フルーツタルトやドーナツ、林檎、ぶどう、お煎餅が乗った皿は空になり、悠人が満腹になったお腹を抱えていた。お互いの心の中がすっきりした。

「夏樹、ありがとう」
「こっちこそありがとう。俺も溜まっていたんだよ。恋愛相談に乗ったこともしたこともなかったんだ。今は結婚生活の悩みだよ。まだ大したことないんだろうけど」
「結婚生活か……。さすがに友達には相談できないだろ?」
「うちのお母さんに相談しているよ。夜食はどんなものがいいとか。進路のことは、黒崎さんと話すよ」
「そっか。俺も相談に乗れるぐらいに頑張るよ」
「今のままで十分、乗ってもらっているよ。晩ご飯を食べて行ってよ。黒崎さんが遅くなるから一人だし。寂しいよ。あ、電話に出るよ」
「うん」

 黒崎から電話が掛かってきた。いつもは帰る間際なのに。珍しいことだ。きっと今日のことで心配を掛けたのだろう。悠人のことも気になっているかも知れない。キッチンへ移動しながら電話に出た。

「もしもし?」
「家に居るか?悠人君は一緒か?」
「うん。ずっと一緒だったよ。どうしたんだよ?」
「早瀬から悠人君と連絡が取れないと聞いたからだ。お前に習って、お節介をすることにした。今から早瀬が迎えに行くから、悠人君を引き止めてくれ」
「珍しいね。本人の意思を確認してからにするよ。ゆうとー?」
「……待て、何も言うな。帰るに決まっているだろう?」
「そうだけどさ。強引だろ?」
「話ができないとこのままになる。玉砕するなら早い方が良い。あとで電話する。30分でいい」
「あ、切れちゃったよ。あ~あ……、ホントに強引だよ……」

 こういう人だから、前に進めるのかな?そう思いながらリビングへ戻ると、悠人が寝息を立てていた。

(黒崎さんの魔力だ。眠り魔法が使えるのか)

 悠人のことを早瀬さんに任せる決心がついたから、棚からタオルケットを取り出して、彼の体に掛けた。以前の黒崎なら、こんなお節介をしなかったと思う。今まで他の人と自分との線をキッチリ引いていた人だ。恋人同士になった俺のことでさえ、線を引くことで懐に入れようとしなかった。心の中にはドアまで存在し、その向こうにいたのは、心優しい人だった。すると、悠人が寝返りを打った。何かつぶやいている。

「裕理さん……、むにゃ」
「ああ、寝言か……」

 夢にまで出てくる存在なのか。しかも、悪夢ではなさそうだ。寝ながら笑っているからだ。

「絵本を読みたくなった。取ってこよう」

 早瀬さんが迎えに来るまでの間に読もうと思った。悠人のことを起こさないように、そーっと、リビングから出た。
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