アイアンエンジェル~あの日の旋律

夏目奈緖

文字の大きさ
182 / 283

24-14

しおりを挟む
 18時半。

 我が家の庭では、早瀬さんと悠人が喧嘩をしている。ついさっき早瀬さんが悠人のことを車で迎えに来てくれたのに、悠人が阻んで車に乗ろうとしない。

「いやだ、乗らない!」
「乗ってくれ。話がしたい」
「俺には話がない」
「悠人君に話がなくても構わない」
「一人で帰る。夏樹、門から出してよ」
「悠人、ここは大人になろうよ。車に乗って出ないと、門は開けないよ」

 我が家の門は機械で作動する。リモコンは俺が持っている。悠人が泣きそうな顔になったから胸が痛んだ。黒崎に送ってもらおうか。そんなことまで考えた。そういう俺のことを見て、早瀬さんが言った。

「夏樹君。今は心を鬼にしてほしい」
「うん。そうするよ。悠人、そういうことだから。ちゃんと2人で話し合おうね」

 門に縋りついている悠人の体を抱きかかえて、早瀬さんへ差し出した。

「やだってば!行かない!帰る!」
「悠人君、保育園児が嫌がっているように見えるよ?保育園の門の前で、行きたくない、帰る!って、駄々をこねている光景を見かけたことはない?」
「……」

 悠人が押し黙った。彼は子ども扱いされることを嫌うから、逆効果だと思った。だから口を挟もうとすると、早瀬さんが意地悪そうに笑った。それは見たことがない顔だったから驚いて、出遅れてしまった。

「ゆうとくーん?恥ずかしいよねー?お友達の前だよー?笑われるよー?」
「早瀬さん!?」

 二度驚いた。こんなに意地悪そうな顔を見たのは初めてだからだ。黒崎よりも意地悪度が上かもしれない。悠人の様子はというと、さっきとは雲泥の差がある程、大人しくなっていた。顔を真っ赤にして、早瀬さんのことを睨みつけている。そして、早瀬さんは悠人のことを愛おしんでいるかのような眼差しに変わった。

(本気で好きなんだな。上手くいくといいけど……。悠人は誰とも付き合いたくないって言ってた……)

 これ以上は邪魔になるだろう。玄関に置きっぱなしだった悠人の荷物を、早瀬さんへ渡した。

「夏樹君、ありがとう」
「どういたしまして、じゃあね!」

 後部座席へ荷物を入れた後、悠人が大人しく早瀬さんの車に乗り込んだ。手元のリモコンを操作して門を開くと、二人を乗せた車が出て行った。

(悠人が嫌がることはしないだろう……。黒崎さんがいたら、どんな話をしただろうな)

 さっきから黒崎のことが頭に浮かんでいる。会いたくて堪らなくなっている。

「連絡してみよう。心配しているだろうし。早く帰ってこないかな?」

 我が家の玄関のドアを開けた。黒崎を選んで良かったと思った。思い切って対岸に向けてジャンプした結果、そのドアの向こうには、二人と一匹が住む家が存在した。そして、その家を訪れるのは、お義父さんや友達だ。今夜も疲れて帰ってくる人のために、美味しい夜食を用意することにした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

若頭の溺愛は、今日も平常運転です

なの
BL
『ヤクザの恋は重すぎて甘すぎる』続編! 過保護すぎる若頭・鷹臣との同棲生活にツッコミが追いつかない毎日を送る幼なじみの相良悠真。 ホットミルクに外出禁止、舎弟たちのニヤニヤ見守り付き(?)ラブコメ生活はいつだって騒がしく、でもどこかあったかい。 だけどそんな日常の中で、鷹臣の覚悟に触れ、悠真は気づく。 ……俺も、ちゃんと応えたい。 笑って泣けて、めいっぱい甘い! 騒がしくて幸せすぎる、ヤクザとツッコミ男子の結婚一直線ラブストーリー! ※前作『ヤクザの恋は重すぎて甘すぎる』を読んでからの方が、より深く楽しめます。

死ぬほど嫌いな上司と付き合いました【完結】

三宅スズ
BL
社会人3年目の皆川涼介(みながわりょうすけ)25歳。 皆川涼介の上司、瀧本樹(たきもといつき)28歳。 涼介はとにかく樹のことが苦手だし、嫌いだし、話すのも嫌だし、絶対に自分とは釣り合わないと思っていたが‥‥ 上司×部下BL

悠と榎本

暁エネル
BL
中学校の入学式で 衝撃を受けた このドキドキは何なのか そいつの事を 無意識に探してしまう 見ているだけで 良かったものの 2年生になり まさかの同じクラスに 俺は どうしたら・・・

イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話

タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。 瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。 笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。

ある日、友達とキスをした

Kokonuca.
BL
ゲームで親友とキスをした…のはいいけれど、次の日から親友からの連絡は途切れ、会えた時にはいつも僕がいた場所には違う子がいた

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

純白のレゾン

雨水林檎
BL
《日常系BL風味義理親子(もしくは兄弟)な物語》 この関係は出会った時からだと、数えてみればもう十年余。 親子のようにもしくは兄弟のようなささいな理由を含めて、少しの雑音を聴きながら今日も二人でただ生きています。

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※表紙をAI君に描いてもらいました。(2026.2.21) ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。

処理中です...