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お義父さんには、3階の中庭で待ってもらった。この病室内で、黒崎との2人で話したいと頼んだ。シンと静まり返った中、黒崎がベッドの端に腰掛けて向かい合った。
俺の方から、黒崎家の養子になると決めたことを伝えた。てっきり驚くか怒りだすかと思っていたのに、眉間に皺を寄せて目を閉じて、大きなため息をつかれた。
「あの、黒崎さん……」
「あのなあ……」
「決めたんだ……」
「中山夏樹じゃなくなるんだぞ?生まれた時からの名前だぞ?親が増えただけだろうが、中山ではなくなるのは……」
「俺の名前は『夏樹』だよ。お母さんのお腹で寝ていた時に、付けてもらった名前だよ。……俺の名前が『中山夏樹』だよって教えてもらっても、家族や友達、保育園の先生からは、『夏樹君』って呼ばれていたんだ。……中山夏樹は、テストの答案用紙に書く名前だよ。名字が何であろうと夏樹だよ。お義父さんの息子になって、黒崎さんの弟みたいなものになるんだ。もう一人じゃないよ。……俺のことも、一人にしないでよ」
「俺のためなのか?」
「俺の意志で黒崎さんを選んだ。黒崎さんのためでもある。これから2人で歩いて行くなら、家族にならないと。病気の時はどうする?お義父さんだって心配しているんだ。受け入れてほしい」
「……夏樹」
「……うん?」
「同じことを考えていた。落ち着いた頃に話そうと思いながら、言い出せなかった。黒崎の家に縛り付けるようで迷っていたからだ。中山さんから奪い取るようにも感じた」
「黒崎さん……。ありがとう」
お礼を言うだけで精一杯だ。せめて笑顔だけでも浮かべた。まだ渋い顔をしているから、この話を教えようと思った。これなら迷いが消えるだろう。
「うちのお母さんは、結婚して名字が変わったんだ。なつやまあきから、なかやまあきだよ。離婚して俺が母方の名字に変えたら、夏山夏樹になるから、結婚生活に耐えたんだってさ……」
「そうか……」
「どう?俺の名前が役立ったよ」
「ああ……」
黒崎が吹き出すのを堪えていた。俺も同じ状態になった。
「仲良し家族の秘密兵器だったのか」
「そうだよ。お父さんが狙って付けたんだよ」
「そうか……」
「そうだよ。黒崎さん……、これからも一緒だよ」
左手は動かせないし、右手には点滴の針が刺さっている。抱きしめることが難しいから、動かせる両足に力を入れて腰を上げた。そして、伸びあがり、黒崎の頬にキスをした。
「抱きしめてもいいか?」
「もちろんだよ」
温かな腕の中に抱き寄せられて、黒崎の肩に顔を埋めた。少しだけ震えていた。泣いているのかな?見ない方がいいのかな?そう思っていると、体が離れて視線を合わされた。優しくて、ホッとするような表情をしていた。
「ありがとう。与えられてばかりだ」
「ううん。黒崎さんがいるから、今の楽しい生活があるんだよ」
「子供の頃のことだ。七夕の願い事で、短冊に『弟か妹がほしい』と書いていた。12歳で黒崎の家を出るまで、毎年だった」
「叶ったじゃん。弟とは違うかもしれないけど」
「こんなにいくつも叶い続けていると、しっぺ返しが来そうだ」
「ふふん。大魔王の魔力で打ち返せよ!」
「ああ、やってやる」
「俺は門番として先に見張っているよ」
笑い声を立てながら、お互いの体温と匂いを感じた。しばらく寄り添ったままで静かにしていると、黒崎が傷に触れないように頬を撫でながら、ゆっくりと話してくれた。
「中山のご両親に連絡を取った。明日の朝イチの飛行機で来て下さるそうだ。伊吹君からも連絡があった。夕方、ここへ来てくれる。養子の件は俺から話す」
「俺からも話すよ」
「……その後で、親父も含めて話す」
「……うん」
その後、中庭で待っているお義父さんのことを、黒崎が呼びに行った。この病室へ戻ってきた時の2人の表情は、とても穏やかなものだった。
俺の方から、黒崎家の養子になると決めたことを伝えた。てっきり驚くか怒りだすかと思っていたのに、眉間に皺を寄せて目を閉じて、大きなため息をつかれた。
「あの、黒崎さん……」
「あのなあ……」
「決めたんだ……」
「中山夏樹じゃなくなるんだぞ?生まれた時からの名前だぞ?親が増えただけだろうが、中山ではなくなるのは……」
「俺の名前は『夏樹』だよ。お母さんのお腹で寝ていた時に、付けてもらった名前だよ。……俺の名前が『中山夏樹』だよって教えてもらっても、家族や友達、保育園の先生からは、『夏樹君』って呼ばれていたんだ。……中山夏樹は、テストの答案用紙に書く名前だよ。名字が何であろうと夏樹だよ。お義父さんの息子になって、黒崎さんの弟みたいなものになるんだ。もう一人じゃないよ。……俺のことも、一人にしないでよ」
「俺のためなのか?」
「俺の意志で黒崎さんを選んだ。黒崎さんのためでもある。これから2人で歩いて行くなら、家族にならないと。病気の時はどうする?お義父さんだって心配しているんだ。受け入れてほしい」
「……夏樹」
「……うん?」
「同じことを考えていた。落ち着いた頃に話そうと思いながら、言い出せなかった。黒崎の家に縛り付けるようで迷っていたからだ。中山さんから奪い取るようにも感じた」
「黒崎さん……。ありがとう」
お礼を言うだけで精一杯だ。せめて笑顔だけでも浮かべた。まだ渋い顔をしているから、この話を教えようと思った。これなら迷いが消えるだろう。
「うちのお母さんは、結婚して名字が変わったんだ。なつやまあきから、なかやまあきだよ。離婚して俺が母方の名字に変えたら、夏山夏樹になるから、結婚生活に耐えたんだってさ……」
「そうか……」
「どう?俺の名前が役立ったよ」
「ああ……」
黒崎が吹き出すのを堪えていた。俺も同じ状態になった。
「仲良し家族の秘密兵器だったのか」
「そうだよ。お父さんが狙って付けたんだよ」
「そうか……」
「そうだよ。黒崎さん……、これからも一緒だよ」
左手は動かせないし、右手には点滴の針が刺さっている。抱きしめることが難しいから、動かせる両足に力を入れて腰を上げた。そして、伸びあがり、黒崎の頬にキスをした。
「抱きしめてもいいか?」
「もちろんだよ」
温かな腕の中に抱き寄せられて、黒崎の肩に顔を埋めた。少しだけ震えていた。泣いているのかな?見ない方がいいのかな?そう思っていると、体が離れて視線を合わされた。優しくて、ホッとするような表情をしていた。
「ありがとう。与えられてばかりだ」
「ううん。黒崎さんがいるから、今の楽しい生活があるんだよ」
「子供の頃のことだ。七夕の願い事で、短冊に『弟か妹がほしい』と書いていた。12歳で黒崎の家を出るまで、毎年だった」
「叶ったじゃん。弟とは違うかもしれないけど」
「こんなにいくつも叶い続けていると、しっぺ返しが来そうだ」
「ふふん。大魔王の魔力で打ち返せよ!」
「ああ、やってやる」
「俺は門番として先に見張っているよ」
笑い声を立てながら、お互いの体温と匂いを感じた。しばらく寄り添ったままで静かにしていると、黒崎が傷に触れないように頬を撫でながら、ゆっくりと話してくれた。
「中山のご両親に連絡を取った。明日の朝イチの飛行機で来て下さるそうだ。伊吹君からも連絡があった。夕方、ここへ来てくれる。養子の件は俺から話す」
「俺からも話すよ」
「……その後で、親父も含めて話す」
「……うん」
その後、中庭で待っているお義父さんのことを、黒崎が呼びに行った。この病室へ戻ってきた時の2人の表情は、とても穏やかなものだった。
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