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7月4日、木曜日。午前5時。
目が覚めると、カーテンの隙間から白んでいる空が見えていた。我が家からの景色ではない。いつも見えている木がないからだ。
「習慣だなあ……」
目覚まし時計がないのに、自然に目が覚めた。怪我をしているというのに。アンも黒崎もいない。寂しい気持ちになった。
小さな人形が枕元に置いてあった。ウサギのジュリエットだ。にっこりと笑っているような顔をしている。シャルロットは唇を尖らせているから、対照的で面白い。
「……黒崎さん、ちゃんと食べたかな?寝たかな?ライン、入っているかな?」
おそらく入っていないだろう。俺のことを起こさないようにするために。スマホを見ても入っていなかった。黒崎のことが心配だ。お義父さんとアンも。
「こっちから送ろうかな?まだ寝ているかも?うーん、どうしようかな?……あ、黒崎さん」
悶々としていると、ドアの向こうから音がした。そして、静かにドアが開き、スーツ姿の黒崎が入って来た。
「……起きていたのか」
「こんなに朝早くから面会できるんだね」
「……ご家族の方は、原則としてお見舞い時間の規制はありません、だ。……痛みはどうだ?」
「今は痛くないよ。熱っぽさもないし」
「よかった。退院後から、5日間の休みを取る。それまで必ず見舞いに来る」
「ありがとう……。晩ご飯は食べた?朝ごはんは?寝たよね?」
「いきなり質問責めか。昨夜は伊吹君と一緒だった。朝食は後で済ます」
「ごめんね……」
「夏樹」
「なに?」
「親父から聞いた。花壇で転ぶ前に、下着を追いかけて走ったそうだな?歩いていれば、ここまでの怪我にはならない」
「池へ落ちたら嫌だったもん……」
「……足が速い分、走る時には気を付けろ。いや、もう走るな。……ああ、泣くな。泣かせるつもりはない」
「……ごめん」
「すまなかった。こんな時に言うことじゃなかった。機嫌を直してくれ」
「もう機嫌を取らないって言っていたじゃん」
「いじめるな。おいで……」
「うん……」
黒崎から抱き寄せられて、腕の中に包まれた。自然と額を肩に寄せると、ずきっと痛みが起きた。怪我をしている左側が触れたからだろう。
「いたた……っ」
「大丈夫か?」
背中を撫でてくれた手が優しくて、視界がボヤけてきた。心配をかけるから泣きやみたいのに、シーツに水玉模様が出来ていく。情けないと思っている。
「思い切り泣け」
「……っ」
「さっきから腹が鳴っているぞ?これぐらい元気になってもらえてよかった」
「うん……っ」
「このパネルで、食事を和食にするか洋食かを選べるそうだ。今朝の分は美味そうだ。見てみろ……」
「うん……」
ベッドサイドにあるパネルを見た。食事の種類を選べるシステムだ。魚の味噌焼き、そぼろあん、五穀米のような画像があった。たしかに美味しそうだ。洋食はキノコのポタージュがある。なんだか元気が出てきた。
「美味しそうだね。和食にしようかな~。ポタージュもいいなあ。昼ご飯はなんだろう?」
「ああ……」
まだ右手に点滴を受けているから、黒崎が代わりにパネルを操作してくれた。明日の分も眺めつつ、家でも食べたい、外食したい、これが美味そうだと、口々に言い合った。
いつもの日常が戻ったように感じて、ホッとした。さっそく和食を選んでタップし、食べられるから良かったと言って、笑い合った。
目が覚めると、カーテンの隙間から白んでいる空が見えていた。我が家からの景色ではない。いつも見えている木がないからだ。
「習慣だなあ……」
目覚まし時計がないのに、自然に目が覚めた。怪我をしているというのに。アンも黒崎もいない。寂しい気持ちになった。
小さな人形が枕元に置いてあった。ウサギのジュリエットだ。にっこりと笑っているような顔をしている。シャルロットは唇を尖らせているから、対照的で面白い。
「……黒崎さん、ちゃんと食べたかな?寝たかな?ライン、入っているかな?」
おそらく入っていないだろう。俺のことを起こさないようにするために。スマホを見ても入っていなかった。黒崎のことが心配だ。お義父さんとアンも。
「こっちから送ろうかな?まだ寝ているかも?うーん、どうしようかな?……あ、黒崎さん」
悶々としていると、ドアの向こうから音がした。そして、静かにドアが開き、スーツ姿の黒崎が入って来た。
「……起きていたのか」
「こんなに朝早くから面会できるんだね」
「……ご家族の方は、原則としてお見舞い時間の規制はありません、だ。……痛みはどうだ?」
「今は痛くないよ。熱っぽさもないし」
「よかった。退院後から、5日間の休みを取る。それまで必ず見舞いに来る」
「ありがとう……。晩ご飯は食べた?朝ごはんは?寝たよね?」
「いきなり質問責めか。昨夜は伊吹君と一緒だった。朝食は後で済ます」
「ごめんね……」
「夏樹」
「なに?」
「親父から聞いた。花壇で転ぶ前に、下着を追いかけて走ったそうだな?歩いていれば、ここまでの怪我にはならない」
「池へ落ちたら嫌だったもん……」
「……足が速い分、走る時には気を付けろ。いや、もう走るな。……ああ、泣くな。泣かせるつもりはない」
「……ごめん」
「すまなかった。こんな時に言うことじゃなかった。機嫌を直してくれ」
「もう機嫌を取らないって言っていたじゃん」
「いじめるな。おいで……」
「うん……」
黒崎から抱き寄せられて、腕の中に包まれた。自然と額を肩に寄せると、ずきっと痛みが起きた。怪我をしている左側が触れたからだろう。
「いたた……っ」
「大丈夫か?」
背中を撫でてくれた手が優しくて、視界がボヤけてきた。心配をかけるから泣きやみたいのに、シーツに水玉模様が出来ていく。情けないと思っている。
「思い切り泣け」
「……っ」
「さっきから腹が鳴っているぞ?これぐらい元気になってもらえてよかった」
「うん……っ」
「このパネルで、食事を和食にするか洋食かを選べるそうだ。今朝の分は美味そうだ。見てみろ……」
「うん……」
ベッドサイドにあるパネルを見た。食事の種類を選べるシステムだ。魚の味噌焼き、そぼろあん、五穀米のような画像があった。たしかに美味しそうだ。洋食はキノコのポタージュがある。なんだか元気が出てきた。
「美味しそうだね。和食にしようかな~。ポタージュもいいなあ。昼ご飯はなんだろう?」
「ああ……」
まだ右手に点滴を受けているから、黒崎が代わりにパネルを操作してくれた。明日の分も眺めつつ、家でも食べたい、外食したい、これが美味そうだと、口々に言い合った。
いつもの日常が戻ったように感じて、ホッとした。さっそく和食を選んでタップし、食べられるから良かったと言って、笑い合った。
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