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昨日から、我が家でご飯を食べている。それまでは外食するか、お義父さんが家に居るときは食べに行っていた。まだ無理をするなと言われたものの、料理をするのが習慣になっているから、やらないと体のリズムに違和感が起きた。そういうわけで、短時間でできる簡単なものを作っている。
キッチンに立っていると、必ず一度は黒崎がやって来る。フラつきがないか、頭痛がないか、手が痺れないかと気にしている。頭を打ったことで、後から後遺症が出ることがあるらしい。心配のタネを増やしてしまった。
あの日以来、しっかり足元を見て歩くようにしている。キョロキョロしたいときには立ち止まっている。退院後は転んでいない。
「黒崎さん。お昼はどこで食べる?」
「レストランを予約した。美味いと言っていた店だ」
「やった~」
「持って行く絵本を車に置いてくる」
「一緒に2階へ行くよ」
「部屋にある段ボールだろう?」
「そうだけど。一緒に行く」
「……」
「いいじゃん……、アンも行くって」
「甘ったれ」
黒崎が苦笑して、椅子から立ち上った。その腕にしがみついて、2階へ上がった。今日は午後から聖加世病院へ出向く。絵本を届けるためだ。入院中に持って行った絵本が、子供たちにウケがよかったらしい。読まなくなったものの中で綺麗な本を選んで、届けることにした。
寝室と書斎が並ぶ一番端が、俺の部屋になっている。大きな本棚が壁沿いに並んでいるから、黒崎が呆れ笑いをした。また絵本が増えたじゃないかと言いながら。
「絵本部屋だな。棚を増やして正解だったな」
「狭くなったけどね。取りやすくなったよ」
「これで落ちてきて頭に当たる心配がない」
「……うっうっ」
耳に痛いことを言われた。詰め込んだ絵本が溢れて落ちてきていた。今回のことで棚を増やすことにした。安全対策だと言われたから、頷くしかなかった。
隅っこに置いてある段ボールのそばまで行くと、黒崎が机の上を見た。そこには、自分で書いたストーリーを印刷したものを置いてある。この家に引っ越してきてから始めた趣味だ。
「絵本のストーリーが仕上がったのか」
「まだ直しているんだ」
「リビングでやればいいのに。気が散るか?」
「ううん。恥ずかしいからさ……。声に出して確認しながら書いているんだよ」
「なるほど。イラストを描いてやろうか?」
「マジで?」
「『マジ』だ。せっかくだから製本しないか?」
嬉しい申し出だ。いつか黒崎に描いてもらいたいと思っていた。忙しいから遠慮していたのに。
「手作り絵本のキットが売っているんだ!アイビー書店で見つけたよ」
「……帰りに寄ろう」
「忙しいだろ?無理は……」
「ピアノ以外の趣味がほしい。夢のある表現をしてやる」
「嬉しいよ。パティシエさんにある話だよね。こんな素敵なデコレーションをしたのはどんな人だろう?って思ってネットを見たら、ごついオジサンだったとか。黒崎さんにも当てはまるね。本人は怖い顔でさ……」
「おい……」
「聞き流してよ~」
照れくさいから茶化した。こういう時は下唇を引っ張られてしまう。それができないように、唇を口の中にしまいこんだ。それでも伸びてくる手をかわしながら、先に下へ降りて行った。
「こら、走るな」
「ひょれのひようーが、ひゃひがひゃひゃいひょ~。え?わわわっ」
「……おい!」
「……セーフ!」
最後の一段を踏み外してしまったけれど、無事に床に着地できてホッとした。しかし、安心は出来なかった。大魔王からのお説教という時間が訪れたからだった。
キッチンに立っていると、必ず一度は黒崎がやって来る。フラつきがないか、頭痛がないか、手が痺れないかと気にしている。頭を打ったことで、後から後遺症が出ることがあるらしい。心配のタネを増やしてしまった。
あの日以来、しっかり足元を見て歩くようにしている。キョロキョロしたいときには立ち止まっている。退院後は転んでいない。
「黒崎さん。お昼はどこで食べる?」
「レストランを予約した。美味いと言っていた店だ」
「やった~」
「持って行く絵本を車に置いてくる」
「一緒に2階へ行くよ」
「部屋にある段ボールだろう?」
「そうだけど。一緒に行く」
「……」
「いいじゃん……、アンも行くって」
「甘ったれ」
黒崎が苦笑して、椅子から立ち上った。その腕にしがみついて、2階へ上がった。今日は午後から聖加世病院へ出向く。絵本を届けるためだ。入院中に持って行った絵本が、子供たちにウケがよかったらしい。読まなくなったものの中で綺麗な本を選んで、届けることにした。
寝室と書斎が並ぶ一番端が、俺の部屋になっている。大きな本棚が壁沿いに並んでいるから、黒崎が呆れ笑いをした。また絵本が増えたじゃないかと言いながら。
「絵本部屋だな。棚を増やして正解だったな」
「狭くなったけどね。取りやすくなったよ」
「これで落ちてきて頭に当たる心配がない」
「……うっうっ」
耳に痛いことを言われた。詰め込んだ絵本が溢れて落ちてきていた。今回のことで棚を増やすことにした。安全対策だと言われたから、頷くしかなかった。
隅っこに置いてある段ボールのそばまで行くと、黒崎が机の上を見た。そこには、自分で書いたストーリーを印刷したものを置いてある。この家に引っ越してきてから始めた趣味だ。
「絵本のストーリーが仕上がったのか」
「まだ直しているんだ」
「リビングでやればいいのに。気が散るか?」
「ううん。恥ずかしいからさ……。声に出して確認しながら書いているんだよ」
「なるほど。イラストを描いてやろうか?」
「マジで?」
「『マジ』だ。せっかくだから製本しないか?」
嬉しい申し出だ。いつか黒崎に描いてもらいたいと思っていた。忙しいから遠慮していたのに。
「手作り絵本のキットが売っているんだ!アイビー書店で見つけたよ」
「……帰りに寄ろう」
「忙しいだろ?無理は……」
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「おい……」
「聞き流してよ~」
照れくさいから茶化した。こういう時は下唇を引っ張られてしまう。それができないように、唇を口の中にしまいこんだ。それでも伸びてくる手をかわしながら、先に下へ降りて行った。
「こら、走るな」
「ひょれのひようーが、ひゃひがひゃひゃいひょ~。え?わわわっ」
「……おい!」
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