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28-1 黒崎の未来の選択
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7月15日、日曜日。午前10時。
黒崎家のリビングでは、ピアノの旋律と歌声のハーモニーが流れている。黒崎の演奏に合わせて低音から高音域へのサビのフレーズを歌いあげた。バンドコンテストで歌う予定のものだ。曲のサビにかけて高音になるから、お腹に手を当てて、軽く息を吸い込んだ。そして、向こうの壁と天井へ響かせるイメージで発声した。
ステージでは2曲、演奏できる。ハードロックとバラードを選んだ。どちらも悠人の作曲に俺が歌詞を書いた。黒崎は今週いっぱい、仕事の休みを取ってくれた。その間、こうして練習につきあってくれている。
「るるる~……、our trespasses~、 forgive us ~……、our trespasses~、lalala~、angel of~」
歌声に絡みつくようにピアノが流れ、離れ、低音に変化した。だんだんと高音に戻り、黒崎からアイコンタクトを受けた。それを返して発声した。
「……lalala~、angel of iron~~」
歌い終えた後、ピアノの最後の音色が響いた。そして、演奏と歌が終わった後、お互いに息をついた。今朝から4回目の演奏だった。
「ふう~」
「休憩しよう」
「うん。どうだった?」
「最初より良くなった。ただ……、サビの途中で声がつまっている。譜面通りだとズレがある。ボーカルレッスンを受けたらどうだ?」
「うーん、勿体なくない?高いだろうし……」
「10冊の仕掛け絵本より安い」
「う……っ」
耳が痛い。黒崎に買って貰いすぎだと反省した。先週のことだ。黒崎から意地悪をされて大泣きした。許してあげる為に、前から欲しかった仕掛け絵本を取り寄せてもらい、プレゼントしてもらった。ベッドで過ごしていたから退屈だったし、大人しくしている方が黒崎は安心して仕事ができる。そういう理由もあった。
黒崎が選ぶ俺へプレゼントは、絵本、スイーツ、うさぎのグッズ、園芸用品が多い。俺が欲しがる物をメインにしている。しかし、去年までは勝手が分からずに、黒崎は思いつくままに選んでいたようだ。その頃多かったプレゼントは、黒崎が俺に身につけさせたいアクセサリーや服だった。それが今では90度ぐらい変化して、アットホームなものになった。俺はその方がくつろげて良いと思っている。2人で出かける先も変化した。スーパー、ホームセンターの園芸用品売り場、書店だ。湾沿いのドライブもある。そして、食事をする店は和食系だ。
黒崎は俺と付き合い出す前までは、プライベートがほとんどなくて、寝る為に帰るマンションで、やっとくつろいでいた状況だった。寝るときだけ、ラフな姿になっていた。寝る以外はスーツ姿しかしていなかった。
そういう状況だったのに、今はTシャツ姿だ。たまに上半身裸で庭をウロつくこともある。すっかりくだけた男性になった。そういうわけで、ご近所さんのファンクラブメンバーが増えてしまった。スーツ姿の時は近寄りがたいほどのオーラを纏っているのに、休日スタイルでは、くだけている。このギャップがたまらないそうだ。俺もそう思って、自然と笑みが浮かんだ。黒崎がくつろげて嬉しいからだ。
「……どうした?痛みが起きたのか?」
「……ううん。平気だよ。あんたがくだけた人になったから、良かったなって思ったんだ。けっこう楽だろ?グダグダするのは慣れないかもしれないけど、相手が構えなくていいからさ。気軽に話しかけられるのは、とてもいいことだよ~」
「お前からそういう話が出て来るのは驚きだ。シャルロットのように、人を横目で睨みつけていたくせに。バンドをやる決心までした」
「沙耶さんがビックリしていたね。俺達を見てさ。養子の話だけじゃなくて、俺達の雰囲気が変わったからだよ」
「もっと驚かせてやれ。せっかくいい曲を書いている。コンテストに出るなら、ボーカルとして出来るだけの練習を重ねろ。遠藤さんから、ボーカル教室を教えてもらっただろう?体験レッスンを予約する。大学の休学中がいい」
「ありがとうー」
「1か月後だ。頑張れ」
「うんっ」
怪我の治り具合が良くて、元気になってきた。大学には、2週間の休学届を出した。来週いっぱいまで休みだ。大事を取って無理をしないことにした。
黒崎家のリビングでは、ピアノの旋律と歌声のハーモニーが流れている。黒崎の演奏に合わせて低音から高音域へのサビのフレーズを歌いあげた。バンドコンテストで歌う予定のものだ。曲のサビにかけて高音になるから、お腹に手を当てて、軽く息を吸い込んだ。そして、向こうの壁と天井へ響かせるイメージで発声した。
ステージでは2曲、演奏できる。ハードロックとバラードを選んだ。どちらも悠人の作曲に俺が歌詞を書いた。黒崎は今週いっぱい、仕事の休みを取ってくれた。その間、こうして練習につきあってくれている。
「るるる~……、our trespasses~、 forgive us ~……、our trespasses~、lalala~、angel of~」
歌声に絡みつくようにピアノが流れ、離れ、低音に変化した。だんだんと高音に戻り、黒崎からアイコンタクトを受けた。それを返して発声した。
「……lalala~、angel of iron~~」
歌い終えた後、ピアノの最後の音色が響いた。そして、演奏と歌が終わった後、お互いに息をついた。今朝から4回目の演奏だった。
「ふう~」
「休憩しよう」
「うん。どうだった?」
「最初より良くなった。ただ……、サビの途中で声がつまっている。譜面通りだとズレがある。ボーカルレッスンを受けたらどうだ?」
「うーん、勿体なくない?高いだろうし……」
「10冊の仕掛け絵本より安い」
「う……っ」
耳が痛い。黒崎に買って貰いすぎだと反省した。先週のことだ。黒崎から意地悪をされて大泣きした。許してあげる為に、前から欲しかった仕掛け絵本を取り寄せてもらい、プレゼントしてもらった。ベッドで過ごしていたから退屈だったし、大人しくしている方が黒崎は安心して仕事ができる。そういう理由もあった。
黒崎が選ぶ俺へプレゼントは、絵本、スイーツ、うさぎのグッズ、園芸用品が多い。俺が欲しがる物をメインにしている。しかし、去年までは勝手が分からずに、黒崎は思いつくままに選んでいたようだ。その頃多かったプレゼントは、黒崎が俺に身につけさせたいアクセサリーや服だった。それが今では90度ぐらい変化して、アットホームなものになった。俺はその方がくつろげて良いと思っている。2人で出かける先も変化した。スーパー、ホームセンターの園芸用品売り場、書店だ。湾沿いのドライブもある。そして、食事をする店は和食系だ。
黒崎は俺と付き合い出す前までは、プライベートがほとんどなくて、寝る為に帰るマンションで、やっとくつろいでいた状況だった。寝るときだけ、ラフな姿になっていた。寝る以外はスーツ姿しかしていなかった。
そういう状況だったのに、今はTシャツ姿だ。たまに上半身裸で庭をウロつくこともある。すっかりくだけた男性になった。そういうわけで、ご近所さんのファンクラブメンバーが増えてしまった。スーツ姿の時は近寄りがたいほどのオーラを纏っているのに、休日スタイルでは、くだけている。このギャップがたまらないそうだ。俺もそう思って、自然と笑みが浮かんだ。黒崎がくつろげて嬉しいからだ。
「……どうした?痛みが起きたのか?」
「……ううん。平気だよ。あんたがくだけた人になったから、良かったなって思ったんだ。けっこう楽だろ?グダグダするのは慣れないかもしれないけど、相手が構えなくていいからさ。気軽に話しかけられるのは、とてもいいことだよ~」
「お前からそういう話が出て来るのは驚きだ。シャルロットのように、人を横目で睨みつけていたくせに。バンドをやる決心までした」
「沙耶さんがビックリしていたね。俺達を見てさ。養子の話だけじゃなくて、俺達の雰囲気が変わったからだよ」
「もっと驚かせてやれ。せっかくいい曲を書いている。コンテストに出るなら、ボーカルとして出来るだけの練習を重ねろ。遠藤さんから、ボーカル教室を教えてもらっただろう?体験レッスンを予約する。大学の休学中がいい」
「ありがとうー」
「1か月後だ。頑張れ」
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