アイアンエンジェル~あの日の旋律

夏目奈緖

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 お義父さんの家を出て、我が家の近くまでやって来た。自分の背丈の高さの、飾り付けがされた笹のそばへたどり着くと、外灯からの光が差し込み、足元には影が出来ていた。アンを地面に降ろして、二人で夜空を見上げた。

「晴れたね~」
「ああ、天気予報が外れてよかった」
「東は……、あの方向だよ。見えるかな?」
「あれじゃないか?」
「あったー!」

 東の方向の空には、周りよりも大きく輝く星が浮かんでいた。天の川をはさんで向かい合うようにして光っている。織姫星はこと座のベガ、彦星はわし座のアルタイルだ。

「光の速さでも15年もかかるほどの距離だよ。七夕の夜にだけ近づくっていうことはないんだよね。デートできないのが実情だよ。昔の人は、たらいに水を張って二つの星を映したんだ。水をかき混ぜて、二つの光を一つにしてあげたそうだよ。ロマンチックだよね?」
「たしかに。その当時は、もっとよく星が見えていたんだろう。今じゃ見えない星もあるだろう」
「そうだろうね。あの光は俺たちが生まれる前のものだよ。タイムマシーンみたいだね。1年前の夜、俺、入院していたね。翌朝に退院するのが分かっていたけど、寂しかったよ」
「その翌朝には迎えに行っただろう?」
「うん!今夜は2人で観られているね」
「あの時は、ここに住むことになるとは思っていなかった」
「俺も同じだよ~」
「……」

 照れくさくなったのだろう。黒崎が無言になった。でも、重苦しくない。何も言葉を交わさなくても通じるからだ。せっかくの七夕の夜だから、ここで抱きつくべきだろう。

「黒崎さーん」
「どうした?」
「黒崎さーん」

 名前を呼んでも、生返事しかしてこない。さすが焦れてきたから、自分から抱きついてやった。Tシャツ越しに感じる体温、匂い、心臓の鼓動を感じた。そして、大好きな人の大事な体へ、両腕を巻き付けた。

「こら、左手を動かすな」
「テーピングしているから平気だよ。今夜はいいじゃん」
「いつでも抱きつけるだろう」
「黒崎さんが抱きしめてくれないからだよ~っ」
「うるさい。……これでいいか?」

 力強い腕が背中に回された。このまま額を肩に寄せたいものの、痛みがあるから我慢した。そんな俺の様子を見て、黒崎が苦笑した。

「……甘ったれ」
「いいじゃん。この流れでイチャイチャしようよ」
「だめだ。額の抜糸が済んでからにしろ」
「ええ!?それこそダメだよ~っ」
「あのなあ。数日間の我慢だ。体力だって……」
「くっつくほうがいい。治りが早くなるよ」
「……」

 その答えはキスで返された。最初は軽く触れ合い、少しずつ啄み合って、深くつながった。そして、お互いのため息が熱くなった後、ゆっくりと唇と離した。

「先に風呂に入れ。久しぶりに湯船に浸かれ」
「うん。足を伸ばすよ。その後は……」
「なんのことだ?ああ、見てみろ、夏の大三角だ……」
「見えるよ。来年には『黒崎夏樹』になっているんだね。もう馴染んでいるよ。黒崎さんって呼ばれているもん」
「たしかにな」

 もう一度、キスをした。夜空には、はくちょう座のデネブ、ベガ、アルタイルが輝いている。来年も一緒に観ようと約束して、我が家に入った。中山夏樹として門を入り、黒崎夏樹として生活していく。そして、この温かい家を守っていくと、強く心に決めた。
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