アイアンエンジェル~あの日の旋律

夏目奈緖

文字の大きさ
233 / 283

27-28

しおりを挟む
 19時。
 
 お義父さんの家で晩ご飯を食べている。今夜は山崎さんが作ってくれた。とても美味しい。しばらくお世話になるのが嬉しいと思った。でも、毎日は悪いから、外食もすることにした。

「夏樹ちゃん。外食でまかなうのはいいが、家で体を休める方が良い。数日間のことだ。ここに居なさい」
「ありがとう。さすがに下着の洗濯は自分でするよ。乾燥までOKだし。黒崎さんが畳んでくれるから……」
「そうか?他に不便なことはないか?お風呂はどうする?」
「背中は黒崎さんに洗ってもらうよ」
「おい……」
「そんなに恥ずかしのかよ?」
「あのなあ……」

 よっぽど恥ずかしかったのだろう。黒崎が何かを言うのをやめて、ビールを飲み始めた。なんだか可愛らしく見えて、テーブルの下で足を蹴ってやった。今は反撃されないのは分かっている。こんなチャンスを逃すわけがない。

「そうか。泣かすぞ」
「わあ~、クソガキ発言だね~」
「何でもない」
「黒崎さんってば、うへへ」
「やっぱり泣かす」
「いたた……、いたい!」

 テーブルの下で、黒崎から両足で右足を挟まれた。そして、ギュッと力を入れられて痛みが走った。ちょうど隣に座っているから、右手で彼の体を押しのけようとした。でも、上手く力が入らない。

「これはどうだ?」
「いたい!暴力亭主!」
「これは?」
「ひゃひゃひゃっ。まだご飯を食べているよ~」
「もう終わっている」
「やめろよ~」
「お仕置き終了だ。タルトが来たぞ」
「食べる!」

 黒崎からくすぐられてしまった。すると、お義父さんがフルーツタルトとレアチーズタルトを持ってきてくれた。小さめのサイズだから2個食べられる。思いきり頬張っていると、黒崎から意地悪そうに笑われた。

「輪郭が変わっているぞ。冬眠前のリスだな」
「ひゃんひゃひょ。ひょういひーひゃらひひんだひょ」
「美味いのは分かっている」
「ひゅひょひゃひひゃんひょ、ひゃひぇろよ」
「俺はいい。甘いものは食わない」

 そんな俺たちのジャレ合いを、お義父さんが向かいから見ていた。笑い声を立てて、タルトを口に運んでいる表情は、優しいお父さんだと思った。

 もしも22年前にこんな時間があれば、今頃はみんなでテーブルを囲っていたのだろうか?お義父さん、真琴ママ、二葉、黒崎と拓海さんと晴海さんとの6人で。もちろん、朝陽に心の中で謝った。

(ごめんね。幸せなんだ。ありがとう……)

 ママが出て行かなかったら、朝陽が生まれていないだろう。ここにみんながいたら良いのにと思った。すると、お義父さんがテラスから外を見て言った。

「夏樹ちゃん。雲が消えているよ。今夜は七夕だ。そろそろいい時間じゃないか?」
「隆さんも一緒に星を観ようよ」
「2人の邪魔をしたくない。行きなさい」
「うん!ありがとう」
「……」

 黒崎は何も言わなかった。ダイニングの窓から夜空を覗き込むようにして、静かに外を眺めていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

血のつながらない弟に誘惑されてしまいました。【完結】

まつも☆きらら
BL
突然できたかわいい弟。素直でおとなしくてすぐに仲良くなったけれど、むじゃきなその弟には実は人には言えない秘密があった。ある夜、俺のベッドに潜り込んできた弟は信じられない告白をする。

雪を溶かすように

春野ひつじ
BL
人間と獣人の争いが終わった。 和平の条件で人間の国へ人質としていった獣人国の第八王子、薫(ゆき)。そして、薫を助けた人間国の第一王子、悠(はる)。二人の距離は次第に近づいていくが、実は薫が人間国に行くことになったのには理由があった……。 溺愛・甘々です。 *物語の進み方がゆっくりです。エブリスタにも掲載しています

貢がせて、ハニー!

わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。 隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。 社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。 ※この物語はフィクションです。 ※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8) ■2025.12.14 285話のタイトルを「おみやげ何にする? Ⅲ」から変更しました。 ■2025.11.29 294話のタイトルを「赤い川」から変更しました。 ■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました! ■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。 ■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。

【完結】嘘はBLの始まり

紫紺
BL
現在売り出し中の若手俳優、三條伊織。 突然のオファーは、話題のBL小説『最初で最後のボーイズラブ』の主演!しかもW主演の相手役は彼がずっと憧れていたイケメン俳優の越前享祐だった! 衝撃のBLドラマと現実が同時進行! 俳優同士、秘密のBLストーリーが始まった♡ ※番外編を追加しました!(1/3)  4話追加しますのでよろしくお願いします。

後宮に咲く美しき寵后

不来方しい
BL
フィリの故郷であるルロ国では、真っ白な肌に金色の髪を持つ人間は魔女の生まれ変わりだと伝えられていた。生まれた者は民衆の前で焚刑に処し、こうして人々の安心を得る一方、犠牲を当たり前のように受け入れている国だった。 フィリもまた雪のような肌と金髪を持って生まれ、来るべきときに備え、地下の部屋で閉じ込められて生活をしていた。第四王子として生まれても、処刑への道は免れられなかった。 そんなフィリの元に、縁談の話が舞い込んでくる。 縁談の相手はファルーハ王国の第三王子であるヴァシリス。顔も名前も知らない王子との結婚の話は、同性婚に偏見があるルロ国にとって、フィリはさらに肩身の狭い思いをする。 ファルーハ王国は砂漠地帯にある王国であり、雪国であるルロ国とは真逆だ。縁談などフィリ信じず、ついにそのときが来たと諦めの境地に至った。 情報がほとんどないファルーハ王国へ向かうと、国を上げて祝福する民衆に触れ、処刑場へ向かうものだとばかり思っていたフィリは困惑する。 狼狽するフィリの元へ現れたのは、浅黒い肌と黒髪、サファイア色の瞳を持つヴァシリスだった。彼はまだ成人にはあと二年早い子供であり、未成年と婚姻の儀を行うのかと不意を突かれた。 縁談の持ち込みから婚儀までが早く、しかも相手は未成年。そこには第二王子であるジャミルの思惑が隠されていて──。

【完結】君を知らないまま、恋をした

一ノ瀬麻紀
BL
体調を崩し入院した篠宮真白(しのみやましろ)は、制限のある生活を送ることになった。 そんな中、真白は自由に走り回れるもう一つの世界を知る。 そこで過ごす時間は、思うように動けなかった真白にとって、大切なものだった。 仮想空間での出会いや経験を通して、真白の世界は少しずつ広がっていく。 そして真白が本当の気持ちに気づいた時、すべてが繋がり始める――。 ※ タイトル及びあらすじ変更しました。(2/10)

思い出して欲しい二人

春色悠
BL
 喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。  そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。  一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。  そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。

処理中です...