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車から降りた後、転ばないように気をつけて庭の石畳を歩いて行った。すぐそこに玄関のドアが見えている。走ればすぐにたどり着くが、今日からは走らないと決めている。黒崎とも約束した。それでも、急ぎ足になってしまう。
「……ただいまー!」
「……こら、走るな」
黒崎から肩を引かれて止められた後、しっかりと手を握られた。そして、お義父さんの家の玄関前に立った。すると、インターフォンを押す前に、扉が開かれた。待ってくれていたのは、お義父さんだった。お義父さんにダイブするように抱きつくと、左手に痛みが走って呻いた。
「……夏樹ちゃん。おかえり」
「ただいまー!待ってくれていたの?いたた……。忘れていたよ~」
「まったく……」
家に帰ってこられた嬉しさで、額の怪我と左手の捻挫のことを忘れていた。黒崎がため息をつくと、お義父さんが奥へ向けて声を掛けた。すると、山崎さんがアンを連れて出てきてくれた。そして、俺を見た瞬間、アンが走ってきた。
「アンー!ただいま!」
アンが飛びついてきた。今は抱き上げるのが難しいから、しゃがみこんで膝の上に乗せた。ベロベロと顔を舐められた。大歓迎といった様子だ。
「わわ~、舐めすぎだよ……」
「夏樹ちゃんが留守の間、スリッパと一緒に寝ていたよ。今夜から必要なさそうだ」
「スリッパ?」
「トラ足のスリッパのことだ。アンが寝るときに枕にしていたから持ってきた。そこに転がっている」
「さっきまで、夏樹ちゃんの靴下で遊んでいたんだよ……」
「……っ」
階段のそばには、スリッパと靴下が転がっていた。この子にも心配を掛けどおしだ。悲しい思いをさせないと決めていたのに、今回もそうさせてしまった。今日の自分は泣いてばかりだ。山崎さんにお礼を言う方が先なのに、嗚咽が漏れて、まともに言葉にならない。
「夏樹さん……」
「山崎さん……、ありがとうございました……」
彼女が来てくれなかったら、どうなっていただろう。黒崎が帰って来るまで、あのままだったかもしれない。アンが泣いても何もすることができずにいた。
「あの時、アンちゃんの鳴き声が聞こえたから……」
「ありがとう……っ」
涙と鼻水でグシャグシャなのに、山崎さんの体にすがりついた。何度も背中をさすってくれた。まるで、母がそばにいるようだ。
「リビングへ行こう。座っておけ」
「うん……」
「夏樹ちゃんの好きなレアチーズタルトを買って来た。マフィンも用意している」
「ありがとう。帰って来られて良かったよ……」
リビングへ向かうと、開けっぱなしの入口からは、甘い匂いが漂っていた。テラス窓からは光が差し込んでいる。5月に引っ越してきたばかりなのに、ここに居場所が出来ていた。きっとこの先も、ずっと暮らし続ける場所なのだろう。ホッとして体の力が抜けて、黒崎が支えてくれた。
「……ただいまー!」
「……こら、走るな」
黒崎から肩を引かれて止められた後、しっかりと手を握られた。そして、お義父さんの家の玄関前に立った。すると、インターフォンを押す前に、扉が開かれた。待ってくれていたのは、お義父さんだった。お義父さんにダイブするように抱きつくと、左手に痛みが走って呻いた。
「……夏樹ちゃん。おかえり」
「ただいまー!待ってくれていたの?いたた……。忘れていたよ~」
「まったく……」
家に帰ってこられた嬉しさで、額の怪我と左手の捻挫のことを忘れていた。黒崎がため息をつくと、お義父さんが奥へ向けて声を掛けた。すると、山崎さんがアンを連れて出てきてくれた。そして、俺を見た瞬間、アンが走ってきた。
「アンー!ただいま!」
アンが飛びついてきた。今は抱き上げるのが難しいから、しゃがみこんで膝の上に乗せた。ベロベロと顔を舐められた。大歓迎といった様子だ。
「わわ~、舐めすぎだよ……」
「夏樹ちゃんが留守の間、スリッパと一緒に寝ていたよ。今夜から必要なさそうだ」
「スリッパ?」
「トラ足のスリッパのことだ。アンが寝るときに枕にしていたから持ってきた。そこに転がっている」
「さっきまで、夏樹ちゃんの靴下で遊んでいたんだよ……」
「……っ」
階段のそばには、スリッパと靴下が転がっていた。この子にも心配を掛けどおしだ。悲しい思いをさせないと決めていたのに、今回もそうさせてしまった。今日の自分は泣いてばかりだ。山崎さんにお礼を言う方が先なのに、嗚咽が漏れて、まともに言葉にならない。
「夏樹さん……」
「山崎さん……、ありがとうございました……」
彼女が来てくれなかったら、どうなっていただろう。黒崎が帰って来るまで、あのままだったかもしれない。アンが泣いても何もすることができずにいた。
「あの時、アンちゃんの鳴き声が聞こえたから……」
「ありがとう……っ」
涙と鼻水でグシャグシャなのに、山崎さんの体にすがりついた。何度も背中をさすってくれた。まるで、母がそばにいるようだ。
「リビングへ行こう。座っておけ」
「うん……」
「夏樹ちゃんの好きなレアチーズタルトを買って来た。マフィンも用意している」
「ありがとう。帰って来られて良かったよ……」
リビングへ向かうと、開けっぱなしの入口からは、甘い匂いが漂っていた。テラス窓からは光が差し込んでいる。5月に引っ越してきたばかりなのに、ここに居場所が出来ていた。きっとこの先も、ずっと暮らし続ける場所なのだろう。ホッとして体の力が抜けて、黒崎が支えてくれた。
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