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午前10時。
緩やかな坂の中にある住宅街を上がると、まるで森のような場所が見えて来た。奥の方には洋館が建ち、その東の方にはノスタルジックな外観の家がある。俺達の家だ。フロントガラス越しに見た時、もう1か月以上も留守をした気分になったほど、懐かしい思いが込み上げて来た。
もう家に着いたというのに、足元がそわそわして落ち着かない。黒崎から笑われても大人しくできなかった。後部座席には、お義父さんの家で働いてくれている人達へのお土産を乗せている。カツサンドやお菓子類だ。お礼といってもこれぐらいしか思いつない。大学は、帰宅後、1週間休むことになっている。黒崎が仕事の間は、お義父さんの家で過ごすことになった。お世話になる。
「山崎さんが楽しみにしてくれている。初めて食べるそうだ。お前は笑顔を見せてやってくれ。……世話になるのは気にするな。親父の家で過ごしてもらう方が安心していられるそうだ」
「ありがたいよ……。本当の息子みたいにしてくれているんだ。みんな……。久しぶりに黒崎さんの車に乗ったよ~」
「落ち着いたら遠出をしよう。10月30日に合わせて、旅行へ行くか?」
「黒崎さーん。今日は何の日?」
「……七夕だ」
「他にあるだろー?」
「良いことも悪いこともあった日だった」
「あ……、そうだった」
去年の七夕、俺は怪我をした。その後は自宅療養をして、黒崎に世話をかけていた。俺が謝ると、黒崎が頭を撫でてくれた。
「気まずくさせるつもりじゃない。すまなかった。過去は過去だ。血を流すたびに強くなっていくと思って口にしたことだ」
「うん」
「おかげで今じゃ強すぎる。ゴミを捨ててこい、掃除の邪魔だ、下着一枚で歩くな、ヒゲが痛い、シップ臭い、ギックリ腰、エロじじい、すけべじじい。いろいろと言われている。数えきれない」
「だってさ~、黒崎さんがさ~、あれこれと……」
「早く帰って、俺の事を尻に敷いてくれ」
「黒崎さん……っ」
思いがけない言葉に、胸と痛くなった。ハンドルを握って前を向いている黒崎の唇が動いた。愛している。そう言ってくれた。俺は感極まって体が動き、黒崎の首周りに両腕を回して抱きついた。
黒崎が門の前に車を停車した。俺が抱きついてきたから危なくて運転できないからだ。早く帰りたいのに、俺は反対の事をしている。それが分かっているのに、離れられなかった。すると、黒崎が言った。
「寂しかった」
「黒崎さんー!」
「こら、あぶない」
「黒崎さ~ん」
「ほら、着いたぞ」
今度こそ大人しく離れると、車が門の中へ入った。数日ぶりに帰る我が家の門だ。帰ってきた。住み始めてまだ2か月なのに、随分と昔から住んでいる気分だ。そして、我が家に入る前に、お義父さんの家に向かった。
緩やかな坂の中にある住宅街を上がると、まるで森のような場所が見えて来た。奥の方には洋館が建ち、その東の方にはノスタルジックな外観の家がある。俺達の家だ。フロントガラス越しに見た時、もう1か月以上も留守をした気分になったほど、懐かしい思いが込み上げて来た。
もう家に着いたというのに、足元がそわそわして落ち着かない。黒崎から笑われても大人しくできなかった。後部座席には、お義父さんの家で働いてくれている人達へのお土産を乗せている。カツサンドやお菓子類だ。お礼といってもこれぐらいしか思いつない。大学は、帰宅後、1週間休むことになっている。黒崎が仕事の間は、お義父さんの家で過ごすことになった。お世話になる。
「山崎さんが楽しみにしてくれている。初めて食べるそうだ。お前は笑顔を見せてやってくれ。……世話になるのは気にするな。親父の家で過ごしてもらう方が安心していられるそうだ」
「ありがたいよ……。本当の息子みたいにしてくれているんだ。みんな……。久しぶりに黒崎さんの車に乗ったよ~」
「落ち着いたら遠出をしよう。10月30日に合わせて、旅行へ行くか?」
「黒崎さーん。今日は何の日?」
「……七夕だ」
「他にあるだろー?」
「良いことも悪いこともあった日だった」
「あ……、そうだった」
去年の七夕、俺は怪我をした。その後は自宅療養をして、黒崎に世話をかけていた。俺が謝ると、黒崎が頭を撫でてくれた。
「気まずくさせるつもりじゃない。すまなかった。過去は過去だ。血を流すたびに強くなっていくと思って口にしたことだ」
「うん」
「おかげで今じゃ強すぎる。ゴミを捨ててこい、掃除の邪魔だ、下着一枚で歩くな、ヒゲが痛い、シップ臭い、ギックリ腰、エロじじい、すけべじじい。いろいろと言われている。数えきれない」
「だってさ~、黒崎さんがさ~、あれこれと……」
「早く帰って、俺の事を尻に敷いてくれ」
「黒崎さん……っ」
思いがけない言葉に、胸と痛くなった。ハンドルを握って前を向いている黒崎の唇が動いた。愛している。そう言ってくれた。俺は感極まって体が動き、黒崎の首周りに両腕を回して抱きついた。
黒崎が門の前に車を停車した。俺が抱きついてきたから危なくて運転できないからだ。早く帰りたいのに、俺は反対の事をしている。それが分かっているのに、離れられなかった。すると、黒崎が言った。
「寂しかった」
「黒崎さんー!」
「こら、あぶない」
「黒崎さ~ん」
「ほら、着いたぞ」
今度こそ大人しく離れると、車が門の中へ入った。数日ぶりに帰る我が家の門だ。帰ってきた。住み始めてまだ2か月なのに、随分と昔から住んでいる気分だ。そして、我が家に入る前に、お義父さんの家に向かった。
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