アイアンエンジェル~あの日の旋律

夏目奈緖

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 教会に到着した。ここは出入りが自由であり、患者さんや見舞い客関係なく訪れるそうだ。

 教会の入口の扉が開放されていた。天井近くまであるステンドグラスからは光が差し込んでいる。長い椅子が並んでいる光景が懐かしく思えた。

「懐かしいな~、この雰囲気。礼拝に行きたいと思っていたんだ」
「卒業してから5か月しか経っていないのか」
「そうだよね。もっと前のことみたいだよ。早く座ろうよ」

 黒崎に早く座るように促した。前から真ん中あたりの列を選んだ。そして、彼が腰かけた後、くっついて座った。

「おい。暑いぞ」
「いいじゃん。あ、演奏が始まったよ」
「懐かしいな」
「うん……」

 パイプオルガンからは、耳に馴染んでいる旋律が流れてきた。初めて開明高校で礼拝に参加した時は、何も感じなかった。聖書を読むことと讃美歌を覚えることが大変だと思っていた。行ける学校が開明しかないから仕方ないと思って、しぶしぶ参加していた。いつの頃だろう?寝る前に祈り始めたのは。あの静かなひと時だけが、心を落ち着かせる時間だった。

(そういえば、あの日の夢のことを話していなかったな。どうしようかな?)

 怪我をして倒れた時のことだ。白い花が広がった場所で、金髪の人と、拓海さんらしい人に会った。目が覚めた時にお義父さんに話したものの、ますます泣き出してしまったから、黒崎には話さないでいた。拓海さんに会ったことを話したい。

「黒崎さん。話したいことがあるんだけど」
「どうした?」
「あのさ……、お義父さんには話したんだけど。怪我をした日に、病室で目が覚めるまで、夢を見ていたんだ」
「ああ、親父から聞いた」
「そうだったんだ?」
「拓海兄さんが出てきたんだろう?親父が大泣きしたから、俺に話せなかったんだろう?」
「うん……」

 小さく頷くと、黒崎から頭を抱き寄せられた。額の傷はくっついているから、ほとんど痛みがない。それでも優しく抱き寄せられて、彼の肩にもたれ掛かった。

「俺には、夢の中では一度も会いに来なかったぞ」
「拗ねているのかよ?黒崎さんが泣くかもしれないと思って、会いに来なかったんだよ。俺はいつも泣いているからいいだろうって思ったんだよ……」

 オルガンからの旋律が教会内を響き渡っている。それが次第に小さくなり、演奏が終わった。前の列に座っている人たちが立ちあがった。

「俺たちも出ようか」
「……夏樹」
「なに?」
「これからの話をする」
「うん」
「今の仕事は、あと15年続ける。……49歳の誕生日に引退する」
「ええ!?」

 驚いて、思わず声を上げてしまった。周りの人も驚いている。慌てて頭を下げて謝った後、黒崎へ向き直った。体中が痺れているし、喉まで渇いてきた。

「黒崎さん!具合が悪いの?」
「いいや。今のところ健康体だ。喘息以外は」
「だったら……なんで?嫌なことがあった?黒崎さんが言うぐらいだから、よっぽどだよね?」
「……ん?」
「黒崎さん……っ」

 こんな時に泣いてどうする?なのに、涙がにじみ出てきた。しっかりしないといけないのに。黒崎からの言葉を待つ間、心配で声が出なくなった。
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