241 / 283
28-7
しおりを挟む
すると、黒崎が声を立てて笑い出した。まるでさっきの話は冗談だと言っているかのようだ。黒崎には元気で居てもらいたい。
「今の話は冗談だったのかよ?」
「違う。心配症で、泣き虫だと思ったからだ。……お前、言っていただろう。ピアニストの夢を諦めるなと。80歳になった時に夢が叶っていればいいと。……早めに取り組むことにした。それだけだ」
「そうなんだ……」
「……反対なのか?」
「ううん……っ。良かったなって思ったんだよ……」
今の自分には、黒崎がやってきたことがどんなことなのか、想像するしかできない。それでも、頑張ってきたことは分かる。
「泣くな。それまでに会社がつぶれている可能性があるんだぞ?」
「……ええ?」
「そういうこともある。引退が早くなるかもしれないな」
黒崎が意地悪そうに笑っているから冗談だと分かった。しんみりしたままにしたくないから、言い返してやった。
「大きな船だろー?人が乗っているんだから、沈ませるなよ~っ」
「せめて近くの岸にたどり着かせる。後は知らない」
「なんだよ~。カッコよく引退しろよ~」
黒崎が無責任なことをするわけがない。大人しく引退させてもらえるだろうか?レストランの会社を経営しそうにも思えた。そう考えているうちに、涙が止まった。
「ピアニストになった後、レストランを作ったらどうかな?また黒崎ホールディングスみたいにさ。たくさん作るんじゃなくて、一軒だけ作るんだ。うちの家の近所にさ」
「……もうやりたくない」
「ケツを叩くからね!そうなったら雇ってよ~」
「ケツを叩かれるから嫌だ」
「なんだよ~っ」
コソコソとジャレ合っていると、黒崎が真剣な顔に変わった。そして、彼の両手に頬を包み込まれて、お互いに視線を合わせた。
「夏樹。お前は8月のコンテストに向けて頑張れ。ボーカルレッスンを受けて、バンドの練習をしっかりやれ。当日は100%の力を出せ。普段は80%でも、ここぞという時に全力を出すんだ。これが力の使いどころだ」
「うんっ。俺……」
「応援する。出来る限りの協力をする。やっと見つけたものだからな」
「うん!頑張るよ!」
「失敗を恐れるな。訪れてもいない未来を不必要に怖がるな」
「うんっ。新しいチャレンジをするよ」
「……よし」
お互いに頷きあった後、軽く唇を合わせた。卒業式の日に礼拝堂でも永遠を誓った。今日のキスは、これから先も一緒に頑張って歩くと誓い合うものだ。すると、天井近くの窓から日が差し込んできた。
「いいことだな」
「そうだね!帰ろうか」
「帰りにアイビー書店へ寄る。手作りうちわのキットを買え」
「うへへ……」
今度はどんな物を作ってやろう?きっと今の自分は、黒崎のように意地悪そうな笑みを浮かべているのだろう。眉間に皺を寄せた黒崎の手を引いて、教会から出た。選択した未来が叶うと良いと思いながら。
「今の話は冗談だったのかよ?」
「違う。心配症で、泣き虫だと思ったからだ。……お前、言っていただろう。ピアニストの夢を諦めるなと。80歳になった時に夢が叶っていればいいと。……早めに取り組むことにした。それだけだ」
「そうなんだ……」
「……反対なのか?」
「ううん……っ。良かったなって思ったんだよ……」
今の自分には、黒崎がやってきたことがどんなことなのか、想像するしかできない。それでも、頑張ってきたことは分かる。
「泣くな。それまでに会社がつぶれている可能性があるんだぞ?」
「……ええ?」
「そういうこともある。引退が早くなるかもしれないな」
黒崎が意地悪そうに笑っているから冗談だと分かった。しんみりしたままにしたくないから、言い返してやった。
「大きな船だろー?人が乗っているんだから、沈ませるなよ~っ」
「せめて近くの岸にたどり着かせる。後は知らない」
「なんだよ~。カッコよく引退しろよ~」
黒崎が無責任なことをするわけがない。大人しく引退させてもらえるだろうか?レストランの会社を経営しそうにも思えた。そう考えているうちに、涙が止まった。
「ピアニストになった後、レストランを作ったらどうかな?また黒崎ホールディングスみたいにさ。たくさん作るんじゃなくて、一軒だけ作るんだ。うちの家の近所にさ」
「……もうやりたくない」
「ケツを叩くからね!そうなったら雇ってよ~」
「ケツを叩かれるから嫌だ」
「なんだよ~っ」
コソコソとジャレ合っていると、黒崎が真剣な顔に変わった。そして、彼の両手に頬を包み込まれて、お互いに視線を合わせた。
「夏樹。お前は8月のコンテストに向けて頑張れ。ボーカルレッスンを受けて、バンドの練習をしっかりやれ。当日は100%の力を出せ。普段は80%でも、ここぞという時に全力を出すんだ。これが力の使いどころだ」
「うんっ。俺……」
「応援する。出来る限りの協力をする。やっと見つけたものだからな」
「うん!頑張るよ!」
「失敗を恐れるな。訪れてもいない未来を不必要に怖がるな」
「うんっ。新しいチャレンジをするよ」
「……よし」
お互いに頷きあった後、軽く唇を合わせた。卒業式の日に礼拝堂でも永遠を誓った。今日のキスは、これから先も一緒に頑張って歩くと誓い合うものだ。すると、天井近くの窓から日が差し込んできた。
「いいことだな」
「そうだね!帰ろうか」
「帰りにアイビー書店へ寄る。手作りうちわのキットを買え」
「うへへ……」
今度はどんな物を作ってやろう?きっと今の自分は、黒崎のように意地悪そうな笑みを浮かべているのだろう。眉間に皺を寄せた黒崎の手を引いて、教会から出た。選択した未来が叶うと良いと思いながら。
0
あなたにおすすめの小説
経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!
中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。
無表情・無駄のない所作・隙のない資料――
完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。
けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。
イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。
毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、
凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。
「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」
戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。
けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、
どこか“計算”を感じ始めていて……?
狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ
業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!
冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される
マンスーン
BL
王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。
泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。
まさか「好き」とは思うまい
和泉臨音
BL
仕事に忙殺され思考を停止した俺の心は何故かコンビニ店員の悪態に癒やされてしまった。彼が接客してくれる一時のおかげで激務を乗り切ることもできて、なんだかんだと気づけばお付き合いすることになり……
態度の悪いコンビニ店員大学生(ツンギレ)×お人好しのリーマン(マイペース)の牛歩な恋の物語
*2023/11/01 本編(全44話)完結しました。以降は番外編を投稿予定です。
とあるおっさんのVRMMO活動記
椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。
念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。
戦闘は生々しい表現も含みます。
のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。
また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり
一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が
お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。
また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や
無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が
テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという
事もございません。
また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。
死ぬほど嫌いな上司と付き合いました【完結】
三宅スズ
BL
社会人3年目の皆川涼介(みながわりょうすけ)25歳。
皆川涼介の上司、瀧本樹(たきもといつき)28歳。
涼介はとにかく樹のことが苦手だし、嫌いだし、話すのも嫌だし、絶対に自分とは釣り合わないと思っていたが‥‥
上司×部下BL
イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話
タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。
瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。
笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる