アイアンエンジェル~あの日の旋律

夏目奈緖

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 午前10時。

 時間どおりに説明会が始まった。司会者が今日のタイムスケジュールをマイク越しに説明していった。講義形式で行なわれるとホームページにあった。質疑応答の時間が用意されているから、個別でも聞くことができるという。

 100人の参加者が緊張感に包まれている。服装は様々で、大学にいる時のようなTシャツ姿の学生もいた。普段はどんな子なのか知るために、今日の説明会では服装は自由で構わないと、申し込み説明欄に書いてあった。今回が初めての試みだと黒崎が言っていた。

「まず最初に、常務取締役兼、営業企画部部長よりご挨拶を……」

 司会者の簡単な紹介の後、壁の方に立っていた人物がマイクの前に立った。その人は優しい笑顔を浮かべている。黒崎だった。

「……みなさん。こんにちは」

 黒崎がはっきりとした声で挨拶をすると、参加者がそれぞれ座ったまま頭を下げた。声に出して挨拶をしている人は、まばらだった。それを眺めて、黒崎が笑い声を立てた。嫌味さの欠片もない。

「元気がないですね?朝ごはんを抜いてきた方は、挙手を願います」

 会場内から小さな笑いが起きた後、元気のいい男子学生が手を挙げた。そのことでも笑いが起きた。黒崎がマイク越しに、その子をイジり始めた。

「君は元気がいいね。……本当は食べてきたんだろう?」
「寝坊をしたので、本当に」
「ここの1階にある、Charlotte's kitchenをお勧めするよ。説明会が終わった後にどうぞ。わが社自慢のメニューがあるよ」
「奢って下さい!」
「……社員価格で提供するよ」
「えー?」

 一気に会場内の空気が明るくなり、活気づいた。黒崎の魔法の一つだ。いつも物静かだし、口数も少ない方なのにと不思議になった。うるさい、早く来い、いらない。そんな短くて素っ気ない言葉のオンパレードの姿を知っているのは、この会場内では自分だけだ。そう思うと胸がドキドキして、壇上の黒崎を見ることが出来なくなった。

 たった数分間の会話の後、別の社員さんがマイクの前に立ち、説明を始めた。その後の質疑応答タイムでは、まるで大学内にいるかのような、賑やかな空気が流れていった。
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