アイアンエンジェル~あの日の旋律

夏目奈緖

文字の大きさ
253 / 283

30-7

しおりを挟む
 さっそく仕事内容の説明を受けた。枝川さんは、向かい合っている時には真面目な人になっていた。初めて会った時はふざけた人だったのに。用意していた質問に、テンポよく答えてもらった。

(すごいなあ。すぐに切り替えられるんだなあ……)

 しかし、全ての質問が終わった後、一瞬にして、くだけた人に戻った。すっかりタメ口になっている。ムードメーカーだと黒崎から聞いた通りだと思った。枝川さんと話している他の社員さん達もリラックスしている。参加者が緊張しているから、さっきまでお互いに張り詰めた空気になっていた。すると、枝川さんが言った。

「夏樹君。お昼は常務と一緒?よかったら僕も入れてほしい」
「すぐに帰るので。まだ今度……」
「下のカフェで食べよう。常務が心配しているんだよね?僕と一緒なら安全だから。帰りは、駅かタクシーまで送っていくよ」
「黒崎さんに聞かないと……」
「僕は安全だよ」
「いえ、お構いなく……」

 黒崎との約束事通りに返事を返していった。それでも詰められていく。手強い人だと知った。すると、枝川さんが、俺の後ろで待っている如月の方へ視線を向けた。

「そうか。如月君も一緒なら来てくれるよね?如月くーん、お昼を食べようよ」
「喜んで!」
「知り合いだったんですか?」
「いや、初めて会った」
「俺もです」

 枝川さんと如月が首を横に振った。どうして枝川さんは如月の名前を知っていたのだろう。キョトンとしていると、枝川さんが苦笑いをした。

「人の名前と顔を覚えるのが必須なんだよ。2人の鬼上司から叩き込まれて……。あ……」

 鬼上司、その単語を口にした枝川さんが口をつぐんだ。俺の横へ視線を向けている。振り返ると、その鬼上司である黒崎が立っていた。彼は怒っていなくて、意地悪そうに笑っていた。枝川さんが、ヤバイといった顔になり、黒崎が歩いてきて、彼の隣に立った。枝川さんが視線を泳がせている。

「枝川。問題発言だぞ」
「申し訳ありませんっ。夏樹君を笑わせようと……」
「……その前だ」
「みんなで食べると楽しいかと……。勝手に誘ってすみませんでした」
「そうじゃない。参加者の学生にナンパをするな。社としての問題だ」
「はい、気をつけますっ」

 枝川さんがテーブルの上で、頭をペコペコ下げた。何もここまで謝らなくてもいいと思った。それだけ黒崎が恐ろしい目に遭わせているのだろうか。周りの社員さん達が笑っている。

「黒崎さん、枝川さんは気を遣ってくれたんだよ」
「お前がそう言うなら許してやる。……枝川、charlotte's kitchenへ4人分の席の予約を入れておけ。今すぐここでだ」
「それこそ上司の問題発言では!?」
「……これでおあいこだ」
「はいっ」
「……如月君。事後承諾だが、構わないだろう?一緒に食事をしよう」
「もちろんです!」
「勧めた以上、奢る。昼食中はプライベートだ。問題ない」
「ありがとうございます」
「枝川はオフィスに戻る必要がある。代わりに俺がここを担当する。質問がまだだろう?如月君、こちらへどうぞ」
「はい!」

 黒崎に促されて、如月が慌てて椅子に座った。電話を終えた枝川さんへ、社員さんが声をかけていた。

「枝川さん。R&W社の高野さんがお越しです」
「分かった」
「この後は常務が担当なさるそうです」
「そうか……」

 また後でと言い残して、枝川さんが会議室を出て行こうとした。その時は、黒崎に舌を出す仕草をしていた。それに気づいた黒崎が、意地悪そうな笑い声を立てた。そっか、こういう感じなのかと納得した。お互いに打ち解けていることを知った。

「この件は……」
「では、こっちは……」

 自分の質問は終わった。残りの時間をどうしようか?周りを見ると、帰り支度をしている人や、参加者同士で会話をしているグループがいた。他の社員さんにも質問をしようと、改めて列に並んでいる人もいる。

(どうしようかな?……今のうちにトイレに行こう)

「黒崎さん。トイレに行ってくるよ」
「ここを出て右へ真っ直ぐに行くとある。迷子になったら放送をかけるぞ」
「……」

 ここが家なら言い返すが、久しぶりに優等生のふりをして、にっこり笑った。そして、優しい笑顔を返された後、トイレへと向かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

雪を溶かすように

春野ひつじ
BL
人間と獣人の争いが終わった。 和平の条件で人間の国へ人質としていった獣人国の第八王子、薫(ゆき)。そして、薫を助けた人間国の第一王子、悠(はる)。二人の距離は次第に近づいていくが、実は薫が人間国に行くことになったのには理由があった……。 溺愛・甘々です。 *物語の進み方がゆっくりです。エブリスタにも掲載しています

いつかコントローラーを投げ出して

せんぷう
BL
 オメガバース。世界で男女以外に、アルファ・ベータ・オメガと性別が枝分かれした世界で新たにもう一つの性が発見された。  世界的にはレアなオメガ、アルファ以上の神に選別されたと言われる特異種。  バランサー。  アルファ、ベータ、オメガになるかを自らの意思で選択でき、バランサーの状態ならどのようなフェロモンですら影響を受けない、むしろ自身のフェロモンにより周囲を調伏できる最強の性別。  これは、バランサーであることを隠した少年の少し不運で不思議な出会いの物語。  裏社会のトップにして最強のアルファ攻め  ×  最強種バランサーであることをそれとなく隠して生活する兄弟想いな受け ※オメガバース特殊設定、追加性別有り .

貢がせて、ハニー!

わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。 隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。 社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。 ※この物語はフィクションです。 ※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8) ■2025.12.14 285話のタイトルを「おみやげ何にする? Ⅲ」から変更しました。 ■2025.11.29 294話のタイトルを「赤い川」から変更しました。 ■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました! ■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。 ■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。

【完結】嘘はBLの始まり

紫紺
BL
現在売り出し中の若手俳優、三條伊織。 突然のオファーは、話題のBL小説『最初で最後のボーイズラブ』の主演!しかもW主演の相手役は彼がずっと憧れていたイケメン俳優の越前享祐だった! 衝撃のBLドラマと現実が同時進行! 俳優同士、秘密のBLストーリーが始まった♡ ※番外編を追加しました!(1/3)  4話追加しますのでよろしくお願いします。

後宮に咲く美しき寵后

不来方しい
BL
フィリの故郷であるルロ国では、真っ白な肌に金色の髪を持つ人間は魔女の生まれ変わりだと伝えられていた。生まれた者は民衆の前で焚刑に処し、こうして人々の安心を得る一方、犠牲を当たり前のように受け入れている国だった。 フィリもまた雪のような肌と金髪を持って生まれ、来るべきときに備え、地下の部屋で閉じ込められて生活をしていた。第四王子として生まれても、処刑への道は免れられなかった。 そんなフィリの元に、縁談の話が舞い込んでくる。 縁談の相手はファルーハ王国の第三王子であるヴァシリス。顔も名前も知らない王子との結婚の話は、同性婚に偏見があるルロ国にとって、フィリはさらに肩身の狭い思いをする。 ファルーハ王国は砂漠地帯にある王国であり、雪国であるルロ国とは真逆だ。縁談などフィリ信じず、ついにそのときが来たと諦めの境地に至った。 情報がほとんどないファルーハ王国へ向かうと、国を上げて祝福する民衆に触れ、処刑場へ向かうものだとばかり思っていたフィリは困惑する。 狼狽するフィリの元へ現れたのは、浅黒い肌と黒髪、サファイア色の瞳を持つヴァシリスだった。彼はまだ成人にはあと二年早い子供であり、未成年と婚姻の儀を行うのかと不意を突かれた。 縁談の持ち込みから婚儀までが早く、しかも相手は未成年。そこには第二王子であるジャミルの思惑が隠されていて──。

【完結】君を知らないまま、恋をした

一ノ瀬麻紀
BL
体調を崩し入院した篠宮真白(しのみやましろ)は、制限のある生活を送ることになった。 そんな中、真白は自由に走り回れるもう一つの世界を知る。 そこで過ごす時間は、思うように動けなかった真白にとって、大切なものだった。 仮想空間での出会いや経験を通して、真白の世界は少しずつ広がっていく。 そして真白が本当の気持ちに気づいた時、すべてが繋がり始める――。 ※ タイトル及びあらすじ変更しました。(2/10)

思い出して欲しい二人

春色悠
BL
 喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。  そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。  一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。  そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。

処理中です...