アイアンエンジェル~あの日の旋律

夏目奈緖

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 午前7時半。

 コンテスト会場に到着した。今、出場者の控え室へ向かっている。都内の湾岸近くにある野外ステージが今回の会場だ。駐車場やステージ脇では、運営スタッフがバタバタと行き交っている。

 午前10時からスタートだ。全国から応募されたバンドの中から出場できるのは32組であり、上位入賞すれば、さらに大きなコンテストに出られる。それはミッシュアップコンテストという。ベテルギウスというバンドも見出された。それを目指しているバンドマン達の緊張感が伝わってきて、いっそう胸がドキドキした。

 控え室までやって来た。各部屋のドアには、バンド名が書かれた紙が貼り付けられていた。順番に見て行くと、自分のバンド名を見つけた。メンバー以外は3人まで、スタッフとして入室がOKされている。黒崎と早瀬さんに付き添ってもらった。

「黒崎さん。あったよ!IRON ANGEL……」
「悠人君の声がするぞ」
「おはようー」

 ガチャ!ドアを開けると、ギターの音色が聴こえてきた。悠人がギターを弾きながら、会場のモニターを見ていた。聡太郎と早瀬さんもいた。

「夏樹、こっちだよー」
「おはよう!」
「おはよう。全員揃ったね。今日の確認をしよう」

 並川さんが立ち上り、彼の周りにメンバーが集まった。

 ミーティングでは、今日のタイムスケジュールと機材のことなどを話し合った。何度もスタジオで練習してきたとはいえ、今日はいつもと場所が違うし観客もいる。緊張している俺のことを、メンバーが励ましてくれた。

 出番まで小さめの音なら練習ができるので、そうすることにした。早瀬さんが練習に付き合ってくれている。悠人がベースを弾きながら聡太郎と音を合わせている。それをドラムの並川さんが確認している。藤沢は早瀬さんからギターのフレーズを習っている。お互いにギターを持ち、フレーズを弾き合っている。

「16分音符のフレーズだよ」
「こっちですね……」
「リズムが……、タラタタラタタラ……3つ刻み、最後は2つ刻み、いくよ……」
「タラタタラタタラ……」

 早瀬さんが手でリズムを取った。それに合わせて藤沢がフレーズを弾いた。その後、すぐに早瀬さんも弾き始めた。

「これをもっと速く弾く。こうなる……」
「わあーー、手が……」
「大丈夫だよ」
「タラタタラタタラ……」

 部屋のドアは全開にする決まりだ。前を通りかかった別のバンドの人が、早瀨さんのことに注目している。彼を見て、スゲーと言っている人もいた。黒崎の方を向くと、軽く頷いていた。早瀨さんのライブを観に行ったことがあるそうだ。

「久しぶりに演奏を聴いた。5年前のライブが最後だった」
「そうなんだ……。あ、悠人が入った」

 悠人がベースからギターに持ち替えて、早瀬さんと一緒に弾き始めた。いつもは見ているこっちが恥ずかしいほどの熱々のカップルなのに、今は雰囲気が違う。真剣にフレーズを確認して集中している。

「夏樹!ベースとリズムを合わせよう!」
「うん!」

 バンドで歌うには、ベースとの絡みが大事だ。悠人が俺に分かりやすいように、足元でリズムを取ってくれる時もある。同じ年でも、ずっと先に進んでいると思う。

「ゆうとー。俺も頑張るよ!」
「なつきー。そんなに固くならないでいいから。楽しもうよ」
「ありがとう!」

 ジーンズのウエストには、お馴染みのうちわを差し込んである。これがあるから大丈夫だ。緊張しながらも、楽しい練習時間が過ぎていった。
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