アイアンエンジェル~あの日の旋律

夏目奈緖

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 午前10時。

 控え室にいる。今、みんなとステージのモニターを眺めている。コンテストの開始時刻を迎え、本日のゲストが登場した。このコンテストの出身バンドが出演する。そのひとつが、ベテルギウスだ。

「ベテルギウスが出てきた!」
「そっか。このコンテストの出身だったよね?」
「あれ?ミールが出ていないよね?」

 観たいと思っていたバンド名がなかった。すると、司会者のアナウンスの後、ベテルギウスの演奏が始まった。かっこいいと思い、俺達はモニターに釘付けになった。悠人はギタリストの植本さんと交流がある。バイト先の楽器店の常連客だそうだ。

「悠人。楽器店に植村さんが来ていたんだよね?」
「そうだよー。ギター教室をやったんだ。オーナーの知り合いなんだ」
「はあ……、同じステージに立てるんだね~」

 感慨深く頷いていると、ステージが終わった。その後、予定とは違うバンドが登場した。ディアドロップだった。観客の歓声が大きくなった。みんなが驚いているようだ。

 モニター画面越しにひときわ目を引くのが、ギタリストの佐久弥だ。ミステリアスな雰囲気と、とてつもなく演奏技術が高くて有名な人だ。遠藤さんからは、本当はざっくばらんな人だと聞いた。聡太郎は佐久弥のファンだ。見られて嬉しそうにしている。悠人と聡太郎が並んで話し始めた。

「本当はミールが出る予定でしたよね?」
「海外から帰国する空港で、乗り継ぎトラブルだそうだよ。佐久弥が審査員の一人だという関係で、今回、ディアドロップが出演したそうだよ」
「桜木さんは佐久弥の大ファンですよね!……なつきー。こっちだよ」
「ありがとう。わあ~、生で観られるんだね。すごいなあ」

 悠人から手を引かれて、モニターの前に座った。そこへ、聡太郎から不思議そうな顔を向けられた。どうしたのだろうか。

「夏樹君。佐久弥は佐伯久弥さんと言って、黒崎ホールディングスと交流があるんだよ」
「マジで?」
「デビューする前は、実家のサエキ酒造の営業担当をしていたんだ」
「黒崎さーーん。そうなの?……なになに?わああ~」
「おおおーー!すごいぞーー」
「どれどれ……」
「ああ……」

 ディアドロップの演奏が始まり、藤沢と並川さんが歓声をあげた。聡太郎がモニターを見つめていると、悠人が無言になった。集中しているのだろう。そっとしておくことにした。すると、聡太郎が言った。

「今日は楽しもう。みんなが観に来てくれているんだよ。カチコチの笑顔だと心配されるよ。失敗してもフォローする。悠人君が近くにいるようにするからね。大丈夫だよー」
「あ、ありがとう……」

 今日は両親と伊吹が来てくれる。万理は受験勉強の関係で来られなかった。お義父さんと深川さんもきてくれている。枝川さんと如月にも会った。伊吹が探していたから、枝川さんが逃げていた。そして、森本と山崎と真羽も来てくれて、さっき会ってきたところだ。

 今日は、真羽の従兄弟で歌手の羽音はおんさんも来てくれている。本名を葛野蒼一朗かずらのそういちろうさんと言って、悠人のおばあちゃんの家の近くに実家があり、悠人が顔見知りだと知り、驚いたことがある。羽音さんはデビューする前は、実家の近くの田んぼで歌の練習をしていて、悠人は小学生の時、歌を聴きにいっていたそうだ。

 真羽から差し入れを貰った。個装になった蜂蜜だ。一回分ずつ入っている物で、喉に良い。学食で差し入れして貰ったことがある。さっき舐めてみると、喉がすっきりした。その蜂蜜をもう一個舐めていると、聡太郎から声をかけられた。

「ステージにそなえて、喉を休めたほうがいい。黒崎さんと歩いてくるといいよ。けっこう暑いけど。気晴らしになるよ」
「ここを離れない方がいいよね?みんなと一緒の方が……」
「夏樹、外へ行くぞ」
「うん……」
「いってらっしゃーい」

 黒崎から肩を抱かれた。そして、聡太郎に見送られて控え室を出た。彼は全く緊張していないように感じて、すごいと思った。本人は否定していたけれど、並川さんが断言していた。聡太郎は緊張していないのだと。俺に出来ることは頑張ることだ。そう思って、大きく深呼吸をした。
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