アイアンエンジェル~あの日の旋律

夏目奈緖

文字の大きさ
269 / 283

31-7(黒崎視点)

しおりを挟む
 13時半。

 これから夏樹たちの出番が始まる。野外ステージの観客席であるA8ブロックに到着した。中山の両親、伊吹、深川さん、枝川、如月、森本、山崎、真羽が観に来ている。真羽の隣には、歌手の羽音さんがいる。このコンテストにはスカウトマンが多数来ているらしい。さっきの控え室の周辺は全体が緊張感に包まれていた。

 関係者席には遠藤さんの姿があった。その隣に立っている男性がカメラマンに指示を出し、多くのスタッフが大きく動き出した。

 すると、そばにいた伊吹から挨拶された。ここへ着いた時から真面目な姿をしている。親父や深川さんの前では丁寧に対応し、枝川には無理難題を押し付けていた。桜木の写真をアップで撮ってこいとものだった。そして、枝川が向こうに行くと、伊吹から声をかけられた。

「この次ですよ。アイロン・エンジェル!」
「……IRON ANGELだぞ?」
「熱い愛を押し付ける。アイロンです。……聞き流してください」
「……始まったわよ!名前が呼ばれたわ~」

 中山の義母が歓声を上げた。慌ててステージへ視線を向けると、スタッフの手によって、悠人のベースがスタンドに立てられた。そして、慌ただしさが静まり、司会者のアナウンスが響き渡った。

「次のバンドは……、IRON ANGEL!!」

 司会者からバンド名が告げられた直後、ステージの照明が暗く落ちた。演奏が始まると同時に、白いストロボ照明が光った。そして、ドラム音が響くと、ギターの音色が会場中に響き渡った。

「炎天下の中……、ありがとうございます!!」

 いきなり響き渡ったドスの聞いた声に驚いた。そして、ステージの脇から、赤い衣装をひるがえした人物が出て来た。それは夏樹だった。赤い浴衣を羽織っている。

「アイアン・エンジェル!開幕ーー!!」
「かいまくーー!」

 夏樹と悠人の声が重なった。夏樹が空に向かって声を大きく張り上げると、ステージ前方から、4つの煙が吹き上がった。

 ワーーー!

 観客がざわめいた後、大歓声が上がった。激しいドラム音が鳴り響き、夏樹が観客を煽った。どこからこんな声が出るのか。初めて聴いた。低音の荒っぽい声だ。

「いくぞーー!まだいけるかー!……おらーー!」

 アイアンエンジェルーー!

 何度もコールが上がり、会場内が沸き立った。

 これがアマチュアバンドのステージなのか?信じられない。これが真実だと実感したのは、高揚した早瀬の様子を見たからだ。ヴォーカルの手には、あのうちわが握られている。だから、あの子は夏樹だと分かった。満開の笑顔を観客へ向けて、大きく腕を広げていた。まるで飛んで行きそうに見えた。ステージの演出がさらに派手になった。俺のそばでは遠藤さんが指示を出し、カメラマンが一斉にステージを撮っている。

 遠藤さんのそばには高宮さんがいる。このバンドコンテストのプロデューサーだそうだ。さっき遠藤さんから紹介された。さらに彼が指示を出した後、夏樹達のそばにカメラが寄っていた。アップで映しているようだ。まさかスカウトされるのだろうか。そう思った瞬間、背中に汗が流れた。夏樹が遠くに行くような気がしたからだ。しかし、俺の元に戻ってくると言っていた。最高の笑顔をしている彼のことを、眩しい思いで見つめた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!

中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。 無表情・無駄のない所作・隙のない資料―― 完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。 けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。 イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。 毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、 凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。 「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」 戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。 けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、 どこか“計算”を感じ始めていて……? 狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ 業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!

とある執事の日常 ~お嬢様の中身は恐らくギャル~

冬兎
ファンタジー
うちのお嬢様は絶対におかしい。 「道路やばくない? 整備しよ」 「孤児院とか作ったら?」 「困ってる人助けるのなんか当たり前っしょ」 貴族令嬢らしからぬ口調で突拍子もない提案を次々とぶつけてくるお嬢様、レティシア・リオネール。執事の俺、クラウスは今日も彼女の無茶振りに振り回される。 不思議なことに、お嬢様の理想論は必ず実現し効果を発揮する。 孤児院は完成し、医療制度は整い、領地は驚異的に発展していく。 元勇者の伯爵様、脳筋騎士団長、くのいちメイド長、双子の妹たち―― 濃すぎる面々に囲まれながら、俺は今日もお嬢様の思いつきを形にしていく。 気づけば、振り回されることに悦びを感じ始めている俺はもう手遅れかもしれない。 R8.1.20 投稿開始

悠と榎本

暁エネル
BL
中学校の入学式で 衝撃を受けた このドキドキは何なのか そいつの事を 無意識に探してしまう 見ているだけで 良かったものの 2年生になり まさかの同じクラスに 俺は どうしたら・・・

イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話

タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。 瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。 笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

ある日、友達とキスをした

Kokonuca.
BL
ゲームで親友とキスをした…のはいいけれど、次の日から親友からの連絡は途切れ、会えた時にはいつも僕がいた場所には違う子がいた

純白のレゾン

雨水林檎
BL
《日常系BL風味義理親子(もしくは兄弟)な物語》 この関係は出会った時からだと、数えてみればもう十年余。 親子のようにもしくは兄弟のようなささいな理由を含めて、少しの雑音を聴きながら今日も二人でただ生きています。

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※表紙をAI君に描いてもらいました。(2026.2.21) ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。

処理中です...