アイアンエンジェル~あの日の旋律

夏目奈緖

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 ステージサイドに戻ってきた。ぜえぜえと肩で息をしているうちに、目の前が霞んで来た。背中に汗をかいているし、足元から体が冷えて来た。そして、頭がぼんやりして、ふらつきが起こった。

「すごい……、どうしよう……」
「夏樹君!?」
「夏樹!」

 悠人と聡太郎から声を掛けられた。肩で息をしていると、藤沢から体を支えられた。そして、並川さんが走って行った。

「担架はありますか!?」
「平気だよ……っ」

 本当に平気だ。息苦しいのは、歌い切った達成感と、たくさんの声援に感動したからだ。それなのに、足元がフラついてきた。ますます誤解を生んでしまった。藤沢に支えながら、ステージ脇へ引っ込んだ。

「すごい顔色だよ……」
「担架を運び込みます!」
「いえ、ほんとに……。黒崎さんのところに行かないと……」
「夏樹君、聞こえる?」
「うん……」

 聡太郎がそばに来て、一緒に呼吸をしようと言われた。

「長く吐くんだよ。ふううーーー、短く吸ってーー」
「ふうーー……、すーー」
「そうだ、ふうーー」
「ふうーー……」

 ステージが終わった後、黒崎とは控え室で待ち合わせすることになっている。今頃、向かってくれているはずだ。観客席A8ブロックを見ると、その姿がなかったからだ。聡太郎のリズムに合わせて呼吸を繰り返すと、だんだんと落ち着いていった。

 ザワザワ……。

 ステージ脇のスペースに行くと、椅子と毛布が用意されていた。そして、医療スタッフが走って来るのが見えた。このイベントは誰が倒れてもおかしくないから、毎回待機しているそうだ。その中に、会いたくてたまらない人の姿を見つけた。

 その人は焦った表情をしている。平気だよ。そう言いたいのに、名前を呼ぶだけで精一杯だ。さっきまで観客の顔が見えていたのに、2メートル先に立っている姿が、ぼやけて見えている。

「……夏樹!」
「黒崎さん……っ」
「そのまま動くな!」
「黒崎さん……っ」
「こら、動くな!」
「黒崎さーーーん!」
「なつきーー、ひいいっ」
「ああ、間に合わない……っ」

 悠人達の悲鳴が聞こえた。息苦しさやフラつきなど、どこかへ飛んでいった。両足に力を入れて助走をつけた。そして、黒崎へ思い切りダイブした。

「黒崎さーん!」
「……っ」

 ゴン!!

 しっかりと抱き留められたが、勢いがつき過ぎたようで、後ろの壁に俺の頭が当たってしまった。俺達の足元には、うちわが落ちている。周りから笑いが起こったが、決して黒崎は笑っていなかった。俺は叱られる覚悟をして目を閉じた。
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