アイアンエンジェル~あの日の旋律

夏目奈緖

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 午前7時35分。

 今から学校に行く。黒崎が運転する車に乗り込んだ後、お互いに無言になった。また喧嘩をしているからだ。数時間前に仲直りをしたところだというのに、さっきまで言い合いをしていた。

 喧嘩が始まったのは朝ご飯の時だ。原因は俺の荷物に入っていた物だ。同級生からもらったドーナツが入った紙袋に手紙が入っているのを、俺より先に黒崎が発見した。それには付き合ってもらいたいという言葉が書かれていた。告白された時は、黒崎がいるからと言って断っている。でも、最近では荷物の中に手紙を入れられることがあり、帰った後で気がつくことがある。もちろん、気がついた後で差し出し本人に会いに行き、付き合えないことを伝えている。それを黒崎は知っている。この間は黒崎のスーツに入っていた女性からのメッセージカードにやきもちをやいていた。今回は反対の立場になってしまった。

「手紙は知らないうちに入っていたんだってば~っ」
「隙を見せるな。この間も同じことがあった。頻繁にあるんじゃないのか?」
「そ、そ、そんなことっ」
「……白状しろ」
「たまに勝手に入ってる……。本人へ断りに行ってるよ」
「それが狙いだ。人が良すぎるのも考えものだ」
「うっ。でも、あんただって……」
「すまなかった」
「黒崎さん……、俺も……」
「ほら、謝ったぞ。さっさと本人へ断って来い。前に教えた対策を復唱しろ」
「何だよ、その言い方 !?」
「”黒崎さんしか生涯愛せない”。この一言でカバーが出来る」
「黒崎さんしか……。黒崎さんを愛さない!」
「何だと?」
「バカヤロウーー」

 喧嘩をしても、学校へ送ってもらっている。俺としては一人で電車に乗りたかった。

「帰りは何時だ?今日は1教科だけだったな?」

 黙っていると、黒崎から声が掛けられた。窓の外を見ているから、彼の表情は分からない。たぶん平然としていると思った。俺の方はイラついているのに。彼の方がずっと大人だと思った。

「電車で帰るから迎えはいいよ」
「こら……」
「黒崎さんは忙しいもん。たまには一人で帰るから」
「俺の顔を見たくないのか?それなら早瀬に頼む」
「迷惑かけたくないから」
「夏樹」
「学校が終わるのは11時半だよ」
「分かった。あの手紙の主とは、帰りに正門で話せ。俺が見ている」
「信用してないわけ?」
「そうじゃない」
「……心配してる?」
「……分かるだろう?」
「あ……」

 妬いてくれているんだと思った。いつもと立場が逆だ。こうして不機嫌になっているから、気持ちが分かる。黒崎のことが可愛らしく思えてきた。思っていると、学校に着いた。仲直りしたいから、黒崎の手を握ろうと思って手を伸ばした。

「プルルルル……プルルルル……」

 するとその時だ。黒崎の携帯に電話が掛かってきた。彼が正門の近くに車を停めすと、スピーカーから相手の声が聞こえてきた。仕事の電話だった。

「黒崎さん。行ってくるよ」
「ああ」

 黒崎が後で折り返すと行っていたけれど、電話の会話が続いている。一言だけ声をかけて、車から降りた。黒崎からは視線を向けられただけだった。急ぎの時は、いつもそうだ。普段なら気にならないのに、今日は寂しかった。

「行ってきます。あーあ。喧嘩しちゃった。黒崎さんの言い方がヒドイからだよ。隙を見せた俺も悪いけど……」

 車のフロントガラス越しに、会話をしている黒崎の姿を見た。手を振ったのに、俺のことに気づいてもらえなかった。そして、走り去っていく車を名残惜しく眺めた。
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