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2-10(黒崎視点)
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22時。
仕事が終わり、これから家に帰るところだ。夏樹とは喧嘩中だ。こういう日こそ早く帰りたいが、遅くなってしまった。至急の用件を済ませて、オフィスを出た。車の後部座席にはラッピングされた紙袋をへ置いてある。夏樹の機嫌を取るためだ。自分のことを棚に上げて、些細な事で妬いてしまった詫びだ。このままでは彼の息が詰まることが分かっているが、この独占欲が収まらない。
マンションのロビーへ入ると、ガラス壁に打ち付ける雨音が強くなった。さらに雷鳴も鳴り響いている。夏樹は雷が苦手だ。今頃怖がっているだろう。さっそく電話をかけたが、一向に出る様子がなかった。風呂に入っているのだろうか。
エレベーターを降りた直後、通路の電気が消えた。このマンションには珍しく、停電が起きたようだ。この分では、部屋も同じ状況だろう。
玄関のドアを開けると真っ暗だった。さっきは近くで雷が落ちた音がした。その際のものだろう。リビングへ入り、夏樹の名前を呼んだ。
「夏樹!どこにいる?」
キッチン、リビング、寝室も探したが見当たらない。どうやら勉強部屋にいる様子だ。あの子は夜目が利かないから、この暗闇では動かない方がいい。雷の音が怖くて隠れているのか。すると、アンが夏樹の部屋から出て来て、小さく鳴いた。
「ただいま。夏樹はどこにいる?」
彼女が出てきた方向へ視線を向けると、ドアが開いていた。俺のことを急がす様にアンが向かったから、背中に冷や汗が流れた。
「倒れているのかもしれない。連絡すれば良かった……」
まだ平気だろうと、先に用件を済ませた結果だ。ほんの一言だけの会話でも違っただろう。嫉妬から大人げない振る舞いをしたことに、自分自身に腹を立てた。まだ雷鳴が続いている。
室内へ入ると姿がなかった。さらに冷たい汗が流れた。バスルーム、トイレ、バルコニー。ウォークインクローゼット、キッチンの物置。どこにもいない。
ふと、玄関で感じた違和感を思い出した。夏樹の靴がなかった気がした。すぐに携帯へ電話をかけると、夏樹の部屋から着信音が聞こえて来た。さっきは居なかったはずだ。
「夏樹!……倒れているのか」
すぐに部屋へ行くと、奥にあるクローゼットの中から聞こえてきた。わずかに開いた扉を開けたが姿が無かった。アンの鳴き声に、さらに心拍数があがった。この部屋にいるはずだと思った。
「夏樹!……ここに居たのか」
クローゼットと絵本の棚にスペースがあり、そこに彼がいた。目を閉じている。眠っているようだ。座り込んだ体を抱きかかえるようにして、首筋に手を当てた。脈が打っているし呼吸もしている。大丈夫だと思ったが、全身の血が下がる思いがした。
「すーー、す……」
夏樹は寝ていた。規則正しい寝息を立てているのが分かり、抱きかかえたままで座り込んだ。俺の方が呼吸が止まった気がする。アンが尻尾を振って寄り添い、同じようにホッとしている気がした。
「すまない。怖かったな?大人げなかった。アンにも心配をかけた」
電気がつかない懐中電灯が落ちている。目元や額に唇を押し当てたところで、夏樹が目を開いた。さらに全身の力が抜けた。
「ん、黒崎さん?ふぁーー」
「そのまま寝ていろ……」
「おかえり~……」
「怖くて隠れたのか?」
「うん。アンも一緒に居たから安心して眠くなったよ。おかげで怖さが半減したんだ」
「どうして電話を掛けて来なかった?喧嘩中だからか?」
「邪魔をしたくなかったんだ。早く帰って欲しくて。びっくりさせた?こんな場所で」
「当たり前だ。バカヤロウ」
「ば、ばかやろう?こういう時に言う言葉かよ?……心配してくれたのは分かっているよ。俺の方こそごめんね」
「謝るな。俺の方が全面的に悪い」
「黒崎さん。汗が出ているよ。ごめんね……」
「温かいものを飲め。淹れてやる」
「自分でするよ。あんたがやるとキッチンが散らかるから。俺がいないとだめだよね」
「今朝はすまなかった。気が気じゃなかった。誰かに盗られそうで怖かった」
「……もう一回言ってよ」
「何のことだ?」
照れくさそうな夏樹のことを見つめて、せめて機嫌を取ろうと決めた。いや、取らないのを止める。全く自分らしくないばかりか、不安定な気持ちにさせている。これからは機嫌を取ることを伝えた。そして、つまらない意地を張っていたことを白状すると、大きな目を見開かれた。そう驚くことではないだろう。
「夏樹。機嫌を取らせてくれ」
「いいよ」
夏樹が笑顔を浮かべて抱きついてきた。土産があることを伝えると、彼が微笑んだ。これで仲直りができた。そう思って、心の底からホッとした。
仕事が終わり、これから家に帰るところだ。夏樹とは喧嘩中だ。こういう日こそ早く帰りたいが、遅くなってしまった。至急の用件を済ませて、オフィスを出た。車の後部座席にはラッピングされた紙袋をへ置いてある。夏樹の機嫌を取るためだ。自分のことを棚に上げて、些細な事で妬いてしまった詫びだ。このままでは彼の息が詰まることが分かっているが、この独占欲が収まらない。
マンションのロビーへ入ると、ガラス壁に打ち付ける雨音が強くなった。さらに雷鳴も鳴り響いている。夏樹は雷が苦手だ。今頃怖がっているだろう。さっそく電話をかけたが、一向に出る様子がなかった。風呂に入っているのだろうか。
エレベーターを降りた直後、通路の電気が消えた。このマンションには珍しく、停電が起きたようだ。この分では、部屋も同じ状況だろう。
玄関のドアを開けると真っ暗だった。さっきは近くで雷が落ちた音がした。その際のものだろう。リビングへ入り、夏樹の名前を呼んだ。
「夏樹!どこにいる?」
キッチン、リビング、寝室も探したが見当たらない。どうやら勉強部屋にいる様子だ。あの子は夜目が利かないから、この暗闇では動かない方がいい。雷の音が怖くて隠れているのか。すると、アンが夏樹の部屋から出て来て、小さく鳴いた。
「ただいま。夏樹はどこにいる?」
彼女が出てきた方向へ視線を向けると、ドアが開いていた。俺のことを急がす様にアンが向かったから、背中に冷や汗が流れた。
「倒れているのかもしれない。連絡すれば良かった……」
まだ平気だろうと、先に用件を済ませた結果だ。ほんの一言だけの会話でも違っただろう。嫉妬から大人げない振る舞いをしたことに、自分自身に腹を立てた。まだ雷鳴が続いている。
室内へ入ると姿がなかった。さらに冷たい汗が流れた。バスルーム、トイレ、バルコニー。ウォークインクローゼット、キッチンの物置。どこにもいない。
ふと、玄関で感じた違和感を思い出した。夏樹の靴がなかった気がした。すぐに携帯へ電話をかけると、夏樹の部屋から着信音が聞こえて来た。さっきは居なかったはずだ。
「夏樹!……倒れているのか」
すぐに部屋へ行くと、奥にあるクローゼットの中から聞こえてきた。わずかに開いた扉を開けたが姿が無かった。アンの鳴き声に、さらに心拍数があがった。この部屋にいるはずだと思った。
「夏樹!……ここに居たのか」
クローゼットと絵本の棚にスペースがあり、そこに彼がいた。目を閉じている。眠っているようだ。座り込んだ体を抱きかかえるようにして、首筋に手を当てた。脈が打っているし呼吸もしている。大丈夫だと思ったが、全身の血が下がる思いがした。
「すーー、す……」
夏樹は寝ていた。規則正しい寝息を立てているのが分かり、抱きかかえたままで座り込んだ。俺の方が呼吸が止まった気がする。アンが尻尾を振って寄り添い、同じようにホッとしている気がした。
「すまない。怖かったな?大人げなかった。アンにも心配をかけた」
電気がつかない懐中電灯が落ちている。目元や額に唇を押し当てたところで、夏樹が目を開いた。さらに全身の力が抜けた。
「ん、黒崎さん?ふぁーー」
「そのまま寝ていろ……」
「おかえり~……」
「怖くて隠れたのか?」
「うん。アンも一緒に居たから安心して眠くなったよ。おかげで怖さが半減したんだ」
「どうして電話を掛けて来なかった?喧嘩中だからか?」
「邪魔をしたくなかったんだ。早く帰って欲しくて。びっくりさせた?こんな場所で」
「当たり前だ。バカヤロウ」
「ば、ばかやろう?こういう時に言う言葉かよ?……心配してくれたのは分かっているよ。俺の方こそごめんね」
「謝るな。俺の方が全面的に悪い」
「黒崎さん。汗が出ているよ。ごめんね……」
「温かいものを飲め。淹れてやる」
「自分でするよ。あんたがやるとキッチンが散らかるから。俺がいないとだめだよね」
「今朝はすまなかった。気が気じゃなかった。誰かに盗られそうで怖かった」
「……もう一回言ってよ」
「何のことだ?」
照れくさそうな夏樹のことを見つめて、せめて機嫌を取ろうと決めた。いや、取らないのを止める。全く自分らしくないばかりか、不安定な気持ちにさせている。これからは機嫌を取ることを伝えた。そして、つまらない意地を張っていたことを白状すると、大きな目を見開かれた。そう驚くことではないだろう。
「夏樹。機嫌を取らせてくれ」
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