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4-1 風邪を引いた夏樹
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12月12日、月曜日。13時。
昨日から俺は風邪を引き、熱を出して寝込んでいる。病院から帰って来た後、汗ばんだ身体を軽くシャワーで流して、パジャマに着替えた。全て黒崎が手伝ってくれている。寒空の下で歩かせたからだと言い、彼が悔やんでいる。
園内で冷えたかもしれない。大ごとじゃないから心配するなと言ったのに、黒崎はおろおろして落ち着かない様子だ。月に2度は熱を出しているから、俺自身は慣れている。今日は休みを取って看病してもらえる。それは嬉しいと思ったけれど、申し訳ない気持ちになった。
病院では俺のことをからかったくせに、今は別人のように項垂れている。熱が下がらないからだ。病院で喧嘩にならなかったのは、体調が悪かったからだ。何があったかというと、俺が注射を打たれるときに、注射針を見ることができなかったからだ。いつもなるべく反対方向を見ている。それを黒崎がからかってきた。
「夏樹。汗をもう一度、着替えさせる」
「いいよ。書斎に行ってね」
「仕事の資料に目を通しておきたい。ここで構わない」
「今晩、ちゃんと寝てよ……」
「いいから」
額の汗をタオルで拭われた。サイドテーブルには、サンドイッチとサラダがある。お気に入りの店のものだ。
「栄養があるものを買って来る。これだけじゃ体力がつかない」
「あっさりしたものが食べたいんだ。これだと胃もたれしないし」
「料理を覚えた方がいいな」
「黒崎さんがキッチンに立つ日が楽しみだよ」
一口サイズのサンドイッチを口に運んだ。ダイニングで食べると言ったのに、却下されてしまった。トイレか歯磨き以外では、ベッドから出るなと命令された。
普段はお湯も沸かさないのに、今日は黒崎が俺に紅茶を淹れてくれた。本当はできるのにやらないだけだ。お義父さんからもこう聞いている。黒崎は黒崎製菓で副社長の秘書をやっていたとき、お茶の入れ方を叩き込まれていたそうだ。だから今でも珈琲や紅茶を用意できるという話だった。
ベッドのそばにはアンがいて、ボールを投げてもらって遊んでいる。そして、カレンダーに書いている予定に黒崎が視線を向けた。
「明日は、アンの美容院の日だな」
「うん。キャンセルを入れておくよ」
「俺が連れて行く」
「え?」
「このマンションの3階に店があるんだぞ?俺でも出来る」
「うわ~……」
ビックリした。黒崎はアンのことを可愛がりすぎて、美容院へ連れていけない。店の人に預けられる時に、寂しそうな目を向けてくるのが耐えられないと言っていた。犬種はシーズーで毛が深くて長いからトリミングが必要だ。先月連れて行ってもらったら、何もせずに帰って来られたことがある。アンが嫌がったからだそうだ。
フィラリアの予防薬を受け取りのために、動物病院へ連れて行った時も同じだった。抱き上げているのに、自動ドアの前で嫌がられたから入れなかった。説得を試みたと聞き、吹き出して笑ったことがある。
「本当に預けて来られるわけ?スタッフさんから笑われるよ?」
「問題ない。いつか乗り越える必要がある。それが早いか遅いかの差だ」
黒崎から真剣に答えられから、思わず吹き出してしまった。
「ぷっ。くくくく……」
「何がおかしい?」
「真剣に答えることかよ?アンはスタッフさんに懐いているんだよ?終わった後なんか、名残惜しそうに店を出ているんだよ?預けられる時は寂しそうでも、平気だってば」
「どんな目で俺のことを見たか知らないから言えるんだぞ?」
「どんな目で見られたんだよ?」
「……パパ、行かないで。私を置いて行くの?……そういう泣きそうな目だった」
「……」
「なんだ?」
「親ばか……。ごほっ、ごほっ」
「もう寝ておけ。アンの世話は俺がやる」
「大丈夫?」
「いいから」
黒崎から強引に肩まで毛布を掛けられて、部屋の電気を消された。俺は静かに目を閉じて、寝ることにした。
昨日から俺は風邪を引き、熱を出して寝込んでいる。病院から帰って来た後、汗ばんだ身体を軽くシャワーで流して、パジャマに着替えた。全て黒崎が手伝ってくれている。寒空の下で歩かせたからだと言い、彼が悔やんでいる。
園内で冷えたかもしれない。大ごとじゃないから心配するなと言ったのに、黒崎はおろおろして落ち着かない様子だ。月に2度は熱を出しているから、俺自身は慣れている。今日は休みを取って看病してもらえる。それは嬉しいと思ったけれど、申し訳ない気持ちになった。
病院では俺のことをからかったくせに、今は別人のように項垂れている。熱が下がらないからだ。病院で喧嘩にならなかったのは、体調が悪かったからだ。何があったかというと、俺が注射を打たれるときに、注射針を見ることができなかったからだ。いつもなるべく反対方向を見ている。それを黒崎がからかってきた。
「夏樹。汗をもう一度、着替えさせる」
「いいよ。書斎に行ってね」
「仕事の資料に目を通しておきたい。ここで構わない」
「今晩、ちゃんと寝てよ……」
「いいから」
額の汗をタオルで拭われた。サイドテーブルには、サンドイッチとサラダがある。お気に入りの店のものだ。
「栄養があるものを買って来る。これだけじゃ体力がつかない」
「あっさりしたものが食べたいんだ。これだと胃もたれしないし」
「料理を覚えた方がいいな」
「黒崎さんがキッチンに立つ日が楽しみだよ」
一口サイズのサンドイッチを口に運んだ。ダイニングで食べると言ったのに、却下されてしまった。トイレか歯磨き以外では、ベッドから出るなと命令された。
普段はお湯も沸かさないのに、今日は黒崎が俺に紅茶を淹れてくれた。本当はできるのにやらないだけだ。お義父さんからもこう聞いている。黒崎は黒崎製菓で副社長の秘書をやっていたとき、お茶の入れ方を叩き込まれていたそうだ。だから今でも珈琲や紅茶を用意できるという話だった。
ベッドのそばにはアンがいて、ボールを投げてもらって遊んでいる。そして、カレンダーに書いている予定に黒崎が視線を向けた。
「明日は、アンの美容院の日だな」
「うん。キャンセルを入れておくよ」
「俺が連れて行く」
「え?」
「このマンションの3階に店があるんだぞ?俺でも出来る」
「うわ~……」
ビックリした。黒崎はアンのことを可愛がりすぎて、美容院へ連れていけない。店の人に預けられる時に、寂しそうな目を向けてくるのが耐えられないと言っていた。犬種はシーズーで毛が深くて長いからトリミングが必要だ。先月連れて行ってもらったら、何もせずに帰って来られたことがある。アンが嫌がったからだそうだ。
フィラリアの予防薬を受け取りのために、動物病院へ連れて行った時も同じだった。抱き上げているのに、自動ドアの前で嫌がられたから入れなかった。説得を試みたと聞き、吹き出して笑ったことがある。
「本当に預けて来られるわけ?スタッフさんから笑われるよ?」
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黒崎から真剣に答えられから、思わず吹き出してしまった。
「ぷっ。くくくく……」
「何がおかしい?」
「真剣に答えることかよ?アンはスタッフさんに懐いているんだよ?終わった後なんか、名残惜しそうに店を出ているんだよ?預けられる時は寂しそうでも、平気だってば」
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