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午前1時。
息苦して目が覚めた。室内は照明が落とされていた。うちの部屋は18階で外からの目が気にならないから、今日のような満月の夜は、窓のロールスクリーンを上げている。ベッドには、窓からの月明かりが差し込んでいた。
「黒崎さん……。どこかな?」
サイトテーブルには、水の入ったポットが置かれていた。ティッシュの箱もあった。近くにはゴミ箱が置かれていて、のど飴も置いてくれていた。本当に黒崎は優しい人だと思った。そして、水が飲みたくなり、寝室のドアを開けた。
リビングのピアノの前に黒崎の姿があり、ちょうど演奏が始まったところだった。黒崎の演奏を聴くのが日常の一部になり、それがないと落ち着かない。
タタタターン……タタタターン……タタタ……。
懐かしい曲だ。50年代のアメリカで流行ったもので、今でも人気がある。恋人を友達に紹介した結果、二人が恋に落ちた話だ。演奏に合わせて和訳を口にすると、俺のことに気づいた。話しかけると、黒崎が微笑んだ。
「さすがは10代だな。もう声が元通りになっている。俺とは回復力が違う」
「別の意味の回復力には負けるよ」
「こら、ガキが何を言っている。まだ早い」
「そのガキに、何をやっているんだっけ?」
「誘惑するのか?」
黒崎の背後に回った。耳たぶをつまんで、息を吹きかけて囁いてやった。黒崎さん、一緒に寝ようと言った。でも、黒崎からの返事が無いから続けてやると、鼻をつままれてしまった。
「んんーー」
「誘惑するな。抱きたいのを我慢している」
「一緒に寝ようって言っただけだよ~?……楽譜を見ているのって珍しいね?ほとんど暗譜しているのに」
「しばらく弾いていなかったからだ」
「結婚式で弾くの?」
「いや違う。父から電話がかかってきた。話しているうちに、この曲の話題が出て懐かしくなった。もう寝ろ。トイレに起きたのか?」
「ううん。起きたら居なかったから、どこかなって探したんだよ」
「そばにいるから探す必要はない」
「うん……。見えるところに居てほしいよ……」
「分かった。寝室で書類を読む。ほら、ベッドへ帰るぞ」
後ろから抱きついているうちに、眠気が起きてきた。抱きかかえられて、ふわっと身体が軽くなった。ゆらゆら身体が揺れた。いつもの体温、匂い。心臓の鼓動を感じて安心した。まるで、ゆりかごのようだ。
黒崎から抱き上げられて寝室に戻り、ベッドに降ろされた。ぼんやり目を開けると優しく見つめられて、頬を突かれた。子ども扱いされても腹が立たないのは、お互いに寂しいからだ。
黒崎が仕事をすると言い、書類をめくり、パソコンのキーを操作し始めた。せっかく時間が取れたなら、もっとピアノを弾きたかっただろうにと思った。でも、俺がピアノを弾いてきて良いよと言ったけれども、黒崎はここに居ると言った。
「いつも面倒をかけて、ごめんね」
「当然のことをしているだけだ」
優しく頬にキスをしてくれた。黒崎の両目が充血していた。疲れているのが分かった。そして、遠慮がちにするなと意地悪そうに笑われた。
「治ったら覚悟しておけ」
「すけべじじい。いろんな場所を舐めるなよ~」
「どこでも舐めたい。キスもしたい。俺の体だ。言っただろう?」
「強引、変態男……」
「寝る前に白湯を飲んでおけ。用意してくる」
パタン。静かに寝室を出ていく後ろ姿を、名残惜しく見つめた。
息苦して目が覚めた。室内は照明が落とされていた。うちの部屋は18階で外からの目が気にならないから、今日のような満月の夜は、窓のロールスクリーンを上げている。ベッドには、窓からの月明かりが差し込んでいた。
「黒崎さん……。どこかな?」
サイトテーブルには、水の入ったポットが置かれていた。ティッシュの箱もあった。近くにはゴミ箱が置かれていて、のど飴も置いてくれていた。本当に黒崎は優しい人だと思った。そして、水が飲みたくなり、寝室のドアを開けた。
リビングのピアノの前に黒崎の姿があり、ちょうど演奏が始まったところだった。黒崎の演奏を聴くのが日常の一部になり、それがないと落ち着かない。
タタタターン……タタタターン……タタタ……。
懐かしい曲だ。50年代のアメリカで流行ったもので、今でも人気がある。恋人を友達に紹介した結果、二人が恋に落ちた話だ。演奏に合わせて和訳を口にすると、俺のことに気づいた。話しかけると、黒崎が微笑んだ。
「さすがは10代だな。もう声が元通りになっている。俺とは回復力が違う」
「別の意味の回復力には負けるよ」
「こら、ガキが何を言っている。まだ早い」
「そのガキに、何をやっているんだっけ?」
「誘惑するのか?」
黒崎の背後に回った。耳たぶをつまんで、息を吹きかけて囁いてやった。黒崎さん、一緒に寝ようと言った。でも、黒崎からの返事が無いから続けてやると、鼻をつままれてしまった。
「んんーー」
「誘惑するな。抱きたいのを我慢している」
「一緒に寝ようって言っただけだよ~?……楽譜を見ているのって珍しいね?ほとんど暗譜しているのに」
「しばらく弾いていなかったからだ」
「結婚式で弾くの?」
「いや違う。父から電話がかかってきた。話しているうちに、この曲の話題が出て懐かしくなった。もう寝ろ。トイレに起きたのか?」
「ううん。起きたら居なかったから、どこかなって探したんだよ」
「そばにいるから探す必要はない」
「うん……。見えるところに居てほしいよ……」
「分かった。寝室で書類を読む。ほら、ベッドへ帰るぞ」
後ろから抱きついているうちに、眠気が起きてきた。抱きかかえられて、ふわっと身体が軽くなった。ゆらゆら身体が揺れた。いつもの体温、匂い。心臓の鼓動を感じて安心した。まるで、ゆりかごのようだ。
黒崎から抱き上げられて寝室に戻り、ベッドに降ろされた。ぼんやり目を開けると優しく見つめられて、頬を突かれた。子ども扱いされても腹が立たないのは、お互いに寂しいからだ。
黒崎が仕事をすると言い、書類をめくり、パソコンのキーを操作し始めた。せっかく時間が取れたなら、もっとピアノを弾きたかっただろうにと思った。でも、俺がピアノを弾いてきて良いよと言ったけれども、黒崎はここに居ると言った。
「いつも面倒をかけて、ごめんね」
「当然のことをしているだけだ」
優しく頬にキスをしてくれた。黒崎の両目が充血していた。疲れているのが分かった。そして、遠慮がちにするなと意地悪そうに笑われた。
「治ったら覚悟しておけ」
「すけべじじい。いろんな場所を舐めるなよ~」
「どこでも舐めたい。キスもしたい。俺の体だ。言っただろう?」
「強引、変態男……」
「寝る前に白湯を飲んでおけ。用意してくる」
パタン。静かに寝室を出ていく後ろ姿を、名残惜しく見つめた。
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