アイアンエンジェル~あの日の旋律

夏目奈緖

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 翌日、午前9時。

 今日も黒崎が休みを取ってくれた。書斎と寝室で仕事をしているから、看病とあわせて忙しいのが見ても分かる。俺が遠慮がちにしていると、黒崎から、かえって能率があがるのだと言われた。

 高校が自由登校になり、家で一人で過ごす日々が始まり、黒崎としては心配だという。もしも倒れた時にどうするかと考えると心配になるそうだ。だから、学校があると良かったと言っていた。

 黒崎がアイスティーを持って来てくれた。伊吹から送られたレシピを参考に用意したものだ。電話もかかってきていたそうだ。特に言い合いをすることもなく、義理の兄弟として根気よく伊吹の話を聞いたそうだ。

 その伊吹が、今日の午後、出張のついでにうちに寄ってくれる話になった。黒崎とは良い関係を作りたいと電話で言っていた。そこそこ悪くない人だと思っていることを正直に話してくれた。黒崎の返事は、もちろんOKだった。  
 
「熱はどうだった?」
「37.2だよ。けっこう下がったよ……」
「そうか。検査結果を見るか?」
「うん……」

 病院で血液検査を受けた。黒崎の反応を見ると良くなさそうだ。ベッドに腰掛けて、軽く頬をつねられた。

「血糖値が基準以下だそうだ。それに加えて、貧血気味だと説明を受けた。俺が遅い日は、大して食べていないだろう?」
「そんなことないよ。ちゃんと食べているよ」
「医者から聞いたぞ。風邪だけが理由じゃない。TAKU南天王寺から食事を運んでもらえることになった。しっかり食べておこう。昼食と夕食の分だ」
「それは悪いよ……」
「今回は我慢しろ。快く配達を引き受けてもらえた。体調が悪いと聞いて、バランスのいいものを用意してくれる」
「うん」
「俺も料理をする。何か作ってやる」
「レトルトのおかゆがいい。温めるだけだよ」
「体力がつかない。しっかり食べさせる。そろそろ着替えろ」
「うん……。ゴホッ。ありがとう……」

 黒崎に手伝ってもらいながら着替えをした。今日は彼が洗濯をしてくれていた。問題なく乾いているし、良い匂いがした。しばらく経つと、朝ごはんが出来たと呼ばれた。作り置きの厚焼き玉子とスープ、トーストが献立だそうだ。美味しそうだと思った。

 そして、ダイニングテーブルのそばに行くと、予想を超えたものが並んでいた。焦げたトーストと、レンジで温めすぎて爆発した厚焼き玉子、半分の量しかなくなったスープだった。スープは鍋で暖めているときに拭き溢したから量が減ってしまったそうだ。そして、床の上には、10個のオモチャを散らかして遊んでいるアンがいた。

 でも、ここで文句を言わないことにする。うちの母から教えてもらった通りにする。パートナーに家事を手伝ってもらうためには、大袈裟に褒めることと、感謝を伝えるのが大事なポイントだと教えてもらった。

「黒崎さん。ちゃんと出来たね!すごいよ~」
「そうか?時間がかかったぞ」
「これからどんどん時間短縮できるようになるよ。黒崎さんは何でも出来るからね。いつも助かっているんだ。ありがとう」
「そうか……」

 黒崎が嬉しそうにした。彼は雑誌の取材を受けるなど世間から注目を浴びている人だ。賞賛も嫉妬だって同じだけ浴びている分、小さなことで褒められたいものだと、父からも教えてもらった。

「今度は何をしようか?」
「靴下をたたんでもらえる?」
「ああ、やる」
「わあ~。たまには風邪を引くのもいいね」

 黒崎が上機嫌で頷いたから俺は嬉しくなり、心の中でガッツポーズをした。
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