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15分後。
掃除機をかけ終わったところだ。ふうっと息吐き、しゃがみ込んだ。疲れてしまったからだ。キッチンダイニング、リビング。書斎、勉強部屋、寝室。ウォークインクローゼット。トイレ、洗面所、玄関、バルコニーに掃除機をかけた。この間は風邪を引いて寝込んでいたから、掃除する場所が多かった。
「お掃除ロボを買ってもらおうかな。新しい引っ越し先は、もっと狭い部屋がいいな。でも、ピアノがあるしな。それに、あの人の威圧感で部屋が狭く感じる時があるから、広い方がいいかも」
黒崎が都内で暮らすための新居を探しているところだ。候補を絞った後で、俺の意見を聞くと言っていた。お互いの価値観が違い過ぎるから、そうした方が良いと思った。それに、最初から話し合って決めていると、色んな意見が出て、候補を絞るまでが大変だと思ったからでもある。
「俺は土地勘がないからね~。仕方ないな。あれ?まだ帰って来ないな?何をやっているんだろう?」
黒崎の帰りが遅い。ここを出てから15分経った。リビングには携帯が置きっ放しだ。さっき着信があったから、教えてあげたいと思った。店が混んでいるのかも知れない。
するとその時だ。玄関から物音がした。さっそく迎えに行くと、黒崎の手には5つの紙ぶくろが下げられていた。そして、隣には同じ階の細川さんがいて、じゃがいもや玉ねぎが入った段ボールを持っていた。
「女性に持たせてしまいました」
「いいのよ~。こんなに沢山あるんですもの。あら、夏樹君。おはよう」
「おはようございます。その荷物って……」
「黒崎さんは人気者ね。クリーニング店で一緒になったのよ。ここへ上がってくる間に、みんなから渡されたのよ。私もそうなんだけどね。うちの弟が農業をやっているの。毎年野菜を送って来てくれるけど、食べ切れないから、毎年、知り合いに配っているの。夏樹君はお料理が好きだから、使ってもらえるかと思って。じゃあ、私はこれで」
「ありがとうございました。お返しはまた……」
「いいから。貰ってくれて助かったわ」
細川さんが玄関を出た後、頂き物をテーブルに並べた。全て同じマンションに住んでいる人から貰った物だ。県外のお土産や遠くのパン屋の袋もある。こんなに貰っていいのだろうか。わざわざ用意してくれた気がした。
「誰から貰ったのか覚えてる?」
「全員、覚えている」
「さすがだね。お返しを用意しないとね」
「8人からだ。うちでドレッシングの詰め合わせを発売したところだ。明日、手配しておく」
「ありがとう」
「携帯を置きっ放しだった。着信はあったか?」
「あれ?何をやっているんだよ?」
黒崎の手がTシャツの中に入って来た。わき腹を撫でて胸まで上がってきたから、両方の耳たぶをつまんで、横に引っ張ってやった。それなのに笑っている。ますます腹が立て、今度は頬をつねってやった。けっこう強く引っ張ったのに、楽しそうだ。
「何がそんなに可笑しいわけ?」
「可愛いからだ」
「上から目線~~!」
「見ていて飽きないぞ。もっと力を込めてみろ」
けっこう力を込めたはずなのに、両手首を握られて容易く阻まれてしまった。何とか振りほどこうとしても、大きな力の差があるから出来ない。さらに腰を抱かれて身動きすら出来なくなった。顔を見るまでもなく、意地悪そうに笑っているに違いない。そういう顔を見るのは癪にさわるから、黒崎のことを叩いた雑誌で彼の顔を隠した。
「夏樹。今朝はすまなかった」
「ふん……」
「心を込めて触らせてもらう。キスをさせてくれ」
「いいよ……」
キスをされた後、今朝のことを何度も謝られて許した。黒崎が俺にやったのは、玄関の掃除をしているとき、マンションの廊下で体を触ってきたからだった。そういう理由で喧嘩をするなんて、平和だと思った。そして、結婚披露パーティーの前に仲直りができてよかったと思った。
掃除機をかけ終わったところだ。ふうっと息吐き、しゃがみ込んだ。疲れてしまったからだ。キッチンダイニング、リビング。書斎、勉強部屋、寝室。ウォークインクローゼット。トイレ、洗面所、玄関、バルコニーに掃除機をかけた。この間は風邪を引いて寝込んでいたから、掃除する場所が多かった。
「お掃除ロボを買ってもらおうかな。新しい引っ越し先は、もっと狭い部屋がいいな。でも、ピアノがあるしな。それに、あの人の威圧感で部屋が狭く感じる時があるから、広い方がいいかも」
黒崎が都内で暮らすための新居を探しているところだ。候補を絞った後で、俺の意見を聞くと言っていた。お互いの価値観が違い過ぎるから、そうした方が良いと思った。それに、最初から話し合って決めていると、色んな意見が出て、候補を絞るまでが大変だと思ったからでもある。
「俺は土地勘がないからね~。仕方ないな。あれ?まだ帰って来ないな?何をやっているんだろう?」
黒崎の帰りが遅い。ここを出てから15分経った。リビングには携帯が置きっ放しだ。さっき着信があったから、教えてあげたいと思った。店が混んでいるのかも知れない。
するとその時だ。玄関から物音がした。さっそく迎えに行くと、黒崎の手には5つの紙ぶくろが下げられていた。そして、隣には同じ階の細川さんがいて、じゃがいもや玉ねぎが入った段ボールを持っていた。
「女性に持たせてしまいました」
「いいのよ~。こんなに沢山あるんですもの。あら、夏樹君。おはよう」
「おはようございます。その荷物って……」
「黒崎さんは人気者ね。クリーニング店で一緒になったのよ。ここへ上がってくる間に、みんなから渡されたのよ。私もそうなんだけどね。うちの弟が農業をやっているの。毎年野菜を送って来てくれるけど、食べ切れないから、毎年、知り合いに配っているの。夏樹君はお料理が好きだから、使ってもらえるかと思って。じゃあ、私はこれで」
「ありがとうございました。お返しはまた……」
「いいから。貰ってくれて助かったわ」
細川さんが玄関を出た後、頂き物をテーブルに並べた。全て同じマンションに住んでいる人から貰った物だ。県外のお土産や遠くのパン屋の袋もある。こんなに貰っていいのだろうか。わざわざ用意してくれた気がした。
「誰から貰ったのか覚えてる?」
「全員、覚えている」
「さすがだね。お返しを用意しないとね」
「8人からだ。うちでドレッシングの詰め合わせを発売したところだ。明日、手配しておく」
「ありがとう」
「携帯を置きっ放しだった。着信はあったか?」
「あれ?何をやっているんだよ?」
黒崎の手がTシャツの中に入って来た。わき腹を撫でて胸まで上がってきたから、両方の耳たぶをつまんで、横に引っ張ってやった。それなのに笑っている。ますます腹が立て、今度は頬をつねってやった。けっこう強く引っ張ったのに、楽しそうだ。
「何がそんなに可笑しいわけ?」
「可愛いからだ」
「上から目線~~!」
「見ていて飽きないぞ。もっと力を込めてみろ」
けっこう力を込めたはずなのに、両手首を握られて容易く阻まれてしまった。何とか振りほどこうとしても、大きな力の差があるから出来ない。さらに腰を抱かれて身動きすら出来なくなった。顔を見るまでもなく、意地悪そうに笑っているに違いない。そういう顔を見るのは癪にさわるから、黒崎のことを叩いた雑誌で彼の顔を隠した。
「夏樹。今朝はすまなかった」
「ふん……」
「心を込めて触らせてもらう。キスをさせてくれ」
「いいよ……」
キスをされた後、今朝のことを何度も謝られて許した。黒崎が俺にやったのは、玄関の掃除をしているとき、マンションの廊下で体を触ってきたからだった。そういう理由で喧嘩をするなんて、平和だと思った。そして、結婚披露パーティーの前に仲直りができてよかったと思った。
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