アイアンエンジェル~あの日の旋律

夏目奈緖

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 夢を見ているようだ。マンションの近くにある公園の中を、一人で歩いている。ぽかぽかして暖かい。向こうの方に桜が咲いている場所を見つけて、そこを目指した。

 とても大きな公園だと思った。すると、桜並木の下にいる、小さな子供を見つけた。しゃがみ込んでいるのは、小学生の男の子だ。心配になり声を掛けると、彼が抱いているウサギが俺のそばに飛んで来た。

「おっと……」
「あ、ごめんなさいっ」
「いいんだよ。ウサギと散歩しているの?」
「うん。お爺ちゃんを待っているんだよ。そこの病院だよ」

 その子が指した方向には、整形外科があった。ここまで歩いて来たそうだ。スケッチブックと、色鉛筆の缶が置いてあった。

「絵を描くんだねー?」
「うん。ここの桜の木を描きに来たんだよ。見る?」
「うん。見せてよ」
「はい。さっき描き終わったやつだよ」

 スケッチブックが広げられた。そこには、満開の桜の木が描かれていた。とても上手だったから、思わず声を上げてしまった。

「リアルだね!上手だよ。絵を習っているの?」
「ううん。ピアノを習っているから。絵とピアノ、習うのは、どちらか一つしか選べなかったんだ」
「そっか。ピアノの方が好きなんだね」
「どっちも好きだよ。最初は両方の教室に通ったんだよ。ママがピアノ演奏を褒めてくれたんだ。だから、ピアノを選んだよ」

 ピアノの楽譜も見せてくれた。男の子が描いた絵は、景色だけではなかった。いい匂いが漂ってきそうな、マフィンの絵があった。

「スイーツが好きなんだね」
「うん。今から来る友達も好きなんだよ」
「ふうん」
「あ、来たよ!おーい!こっちだよー」

 向こうの方へ手を振ると、茶色の髪の毛をした男の子が走ってきた。すると、男の子が慌てて彼に声をかけた。走ったらだめだと。具合が悪いのだろうか。

「走っちゃだめだよ!」
「平気だよーー」
「だめだって!お兄ちゃんに叱られるよ?」
「もう元気だよーー」
「冬休みに手術したばかりだろ。少しずつ運動する約束だよ?」
「うん……」

 男の子が塞ぎ込んだ。元気にさせてあげたいと思った。そこで、トートバッグの中に、マリーズカフェのドーナツがあるのを思い出した。2人に食べてもらおう。それなら元気が出そうだと思った。

「良かったら、ドーナツを食べない?マリーズカフェを知っている?」
「うんっ。知ってる。食べたことがあるよ」
「はい、どうぞ」
「わあーーっ。美味しそう」
「いただきまーす」

 オールドファッション、レモンピール入りの2種類を彼らに渡すと、半分ずつに分けて食べ始めた。その姿を見て、ほっこりした気分になった。
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