68 / 283
9-5
しおりを挟む
目を覚ますと、部屋の中にいた。まだ寝ぼけている。寝転んだままで夢の様子を思い出すようにした。男の子達はどうなっただろう。たしか、お爺さんが迎えに来たはずだ。
「どこだろう……」
「夏樹」
「ん?」
そっと目を開くと、黒崎がそばにいて、微笑んでいた。視線を巡らせても、男の子達とお爺さんがいない。そして、だんだんと体の感覚が戻って来て、さっきの光景は、やっぱり夢だったのだと実感した。
「……ただいま。何か夢を見ていただろう?」
「……うん。俺達に似ている子が出て来たんだ。片方が絵本のストーリーを書いて、もう片方が挿絵を描く約束をしているそうだよ」
まだ頭がぼんやりしている。黒崎がTシャツに着替えていたから、しばらく前に帰っていたようだ。窓の外は真っ暗だ。今から月食に間に合うだろうか。起き上がろうとすると、黒崎が俺のことを抱きかかえるようにして座らせてくれた。
「黒崎さん……。子供の頃に、絵とピアノの両方を習っていた?夢に出てきた子が話していたんだ」
「いや、ピアノだけだ。どちらかに決める必要があった」
「誰かに言われたの?」
「俺がそう決めていた。二兎を追う者は一兎をも得ずという言葉がある」
「あ……」
あの男の子は、黒崎の本当の気持ちを表していたのかもしれない。自分で決めたと言っているが、そうではないと思う。だんだん夢の内容が薄れてきたから、うまく言葉にすることが出来ない。
「あのさ。夢を見ていたんだ。ウサギの御使いが現れたんだよ。桜の木の下で、ウサギを連れた男の子に会ったんだ。ピアノと絵の両方を習いたいけど、お父さん達から一つに決めて頑張りなさいって言われたそうだよ。でも、男の子の友達が出てきて、その子に、頑張ることと、欲張りは違う意味だよって言っていたんだ。……ピアニストになりたい夢を諦めていないんだよね。でも、会社経営もしたいんだよね。……お爺さんになった時に、両方が叶えられているかもしれないよ。やってみたらどうかな?」
「そうか。会いに来たのか……」
「どういうこと?」
黒崎が笑い声を立てて、大きな紙袋を持って来た。その中からは、ウサギのヌイグルミが出てきた。クリーム色の毛並みをしていて、長い耳が垂れている。まるで笑っているかのように見えた。
「一足先に会いに来たんだろう。さすがは、おとぎの国の少年だ。……黒崎製菓の新しいマスコットキャラクターだ。シャルロットとは姉妹にしてある。俺が考えたものだ」
「ええ?」
「どうしたんだ?名前はジュリエットだ」
「えーっと……」
黒崎が持っているのはとても可愛いヌイグルミだった。こういう可愛らしい人形を生み出す黒崎こそが、おとぎの国の少年だと思えた。心の中に住んでいるのだろう。
「黒崎さんも、おとぎの国の少年だよ。あんたは悪い魔法使いかと思っていたんだけど、実は夢のある少年だもんね。カモメの御使いも呼べたし……」
「ありがとう。ピアノのことは努力する」
「黒崎さん……」
「ウサギの御使いの友達は、桜の花の妖精だったんじゃないのか?」
「そうかもしれないね。コンビなんだって。2人でいるから、強い風が吹いても平気だって言っていたよ。俺たちと同じだねーー」
ジュリエットを抱えたままの黒崎に抱きつくと、起きてくれて助かったと彼が言った。一緒に月食を眺めたいけれど、ゆっくり寝てほしいから、俺を起こしたくなかったそうだ。優しくなったり素っ気なくなったりと、なんて忙しい人だろう。さっそく彼の腕を引いて、バルコニーへ行った。
「どこだろう……」
「夏樹」
「ん?」
そっと目を開くと、黒崎がそばにいて、微笑んでいた。視線を巡らせても、男の子達とお爺さんがいない。そして、だんだんと体の感覚が戻って来て、さっきの光景は、やっぱり夢だったのだと実感した。
「……ただいま。何か夢を見ていただろう?」
「……うん。俺達に似ている子が出て来たんだ。片方が絵本のストーリーを書いて、もう片方が挿絵を描く約束をしているそうだよ」
まだ頭がぼんやりしている。黒崎がTシャツに着替えていたから、しばらく前に帰っていたようだ。窓の外は真っ暗だ。今から月食に間に合うだろうか。起き上がろうとすると、黒崎が俺のことを抱きかかえるようにして座らせてくれた。
「黒崎さん……。子供の頃に、絵とピアノの両方を習っていた?夢に出てきた子が話していたんだ」
「いや、ピアノだけだ。どちらかに決める必要があった」
「誰かに言われたの?」
「俺がそう決めていた。二兎を追う者は一兎をも得ずという言葉がある」
「あ……」
あの男の子は、黒崎の本当の気持ちを表していたのかもしれない。自分で決めたと言っているが、そうではないと思う。だんだん夢の内容が薄れてきたから、うまく言葉にすることが出来ない。
「あのさ。夢を見ていたんだ。ウサギの御使いが現れたんだよ。桜の木の下で、ウサギを連れた男の子に会ったんだ。ピアノと絵の両方を習いたいけど、お父さん達から一つに決めて頑張りなさいって言われたそうだよ。でも、男の子の友達が出てきて、その子に、頑張ることと、欲張りは違う意味だよって言っていたんだ。……ピアニストになりたい夢を諦めていないんだよね。でも、会社経営もしたいんだよね。……お爺さんになった時に、両方が叶えられているかもしれないよ。やってみたらどうかな?」
「そうか。会いに来たのか……」
「どういうこと?」
黒崎が笑い声を立てて、大きな紙袋を持って来た。その中からは、ウサギのヌイグルミが出てきた。クリーム色の毛並みをしていて、長い耳が垂れている。まるで笑っているかのように見えた。
「一足先に会いに来たんだろう。さすがは、おとぎの国の少年だ。……黒崎製菓の新しいマスコットキャラクターだ。シャルロットとは姉妹にしてある。俺が考えたものだ」
「ええ?」
「どうしたんだ?名前はジュリエットだ」
「えーっと……」
黒崎が持っているのはとても可愛いヌイグルミだった。こういう可愛らしい人形を生み出す黒崎こそが、おとぎの国の少年だと思えた。心の中に住んでいるのだろう。
「黒崎さんも、おとぎの国の少年だよ。あんたは悪い魔法使いかと思っていたんだけど、実は夢のある少年だもんね。カモメの御使いも呼べたし……」
「ありがとう。ピアノのことは努力する」
「黒崎さん……」
「ウサギの御使いの友達は、桜の花の妖精だったんじゃないのか?」
「そうかもしれないね。コンビなんだって。2人でいるから、強い風が吹いても平気だって言っていたよ。俺たちと同じだねーー」
ジュリエットを抱えたままの黒崎に抱きつくと、起きてくれて助かったと彼が言った。一緒に月食を眺めたいけれど、ゆっくり寝てほしいから、俺を起こしたくなかったそうだ。優しくなったり素っ気なくなったりと、なんて忙しい人だろう。さっそく彼の腕を引いて、バルコニーへ行った。
0
あなたにおすすめの小説
若頭の溺愛は、今日も平常運転です
なの
BL
『ヤクザの恋は重すぎて甘すぎる』続編!
過保護すぎる若頭・鷹臣との同棲生活にツッコミが追いつかない毎日を送る幼なじみの相良悠真。
ホットミルクに外出禁止、舎弟たちのニヤニヤ見守り付き(?)ラブコメ生活はいつだって騒がしく、でもどこかあったかい。
だけどそんな日常の中で、鷹臣の覚悟に触れ、悠真は気づく。
……俺も、ちゃんと応えたい。
笑って泣けて、めいっぱい甘い!
騒がしくて幸せすぎる、ヤクザとツッコミ男子の結婚一直線ラブストーリー!
※前作『ヤクザの恋は重すぎて甘すぎる』を読んでからの方が、より深く楽しめます。
死ぬほど嫌いな上司と付き合いました【完結】
三宅スズ
BL
社会人3年目の皆川涼介(みながわりょうすけ)25歳。
皆川涼介の上司、瀧本樹(たきもといつき)28歳。
涼介はとにかく樹のことが苦手だし、嫌いだし、話すのも嫌だし、絶対に自分とは釣り合わないと思っていたが‥‥
上司×部下BL
とある執事の日常 ~お嬢様の中身は恐らくギャル~
冬兎
ファンタジー
うちのお嬢様は絶対におかしい。
「道路やばくない? 整備しよ」
「孤児院とか作ったら?」
「困ってる人助けるのなんか当たり前っしょ」
貴族令嬢らしからぬ口調で突拍子もない提案を次々とぶつけてくるお嬢様、レティシア・リオネール。執事の俺、クラウスは今日も彼女の無茶振りに振り回される。
不思議なことに、お嬢様の理想論は必ず実現し効果を発揮する。
孤児院は完成し、医療制度は整い、領地は驚異的に発展していく。
元勇者の伯爵様、脳筋騎士団長、くのいちメイド長、双子の妹たち――
濃すぎる面々に囲まれながら、俺は今日もお嬢様の思いつきを形にしていく。
気づけば、振り回されることに悦びを感じ始めている俺はもう手遅れかもしれない。
R8.1.20 投稿開始
イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話
タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。
瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。
笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
純白のレゾン
雨水林檎
BL
《日常系BL風味義理親子(もしくは兄弟)な物語》
この関係は出会った時からだと、数えてみればもう十年余。
親子のようにもしくは兄弟のようなささいな理由を含めて、少しの雑音を聴きながら今日も二人でただ生きています。
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。
紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※表紙をAI君に描いてもらいました。(2026.2.21)
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる