アイアンエンジェル~あの日の旋律

夏目奈緖

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10-1 出発

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 3月24日、火曜日。午前8時。

 今日は生まれ育った街を発つ日だ。これからタクシーに乗って、空港へ行く。タクシーが到着するまでの間、このマンションで親しくなった人達から見送られている。細川さんからはドーナツを貰った。高坂さんからは手作りマフィンだ。それぞれを大切に受け取って、紙袋に入れて抱え込んだ。別れるのが寂しい。まだタクシーが着ていないのに、早くも視界がぼやけてしまった。

「黒崎さん。夏樹君。身体に気をつけてね」
「2人とも元気でね。ラインを送るから……」
「うん。みんな元気でね。ここに住んでよかったよ。着いたらラインを送るよ。ゴールデンウィークには帰れるかもしれないからね。ここに来るよ」
「楽しみにしているよーー」
「うん。うん……っ」

 細川さんと高坂さんとで抱き合った。黒崎は女性に取り囲まれている。普段なら腹が立つが、今回ばかりは仕方がないと思った。するとその時だ。俺達が乗り込むタクシーが停車した。

「そろそろ時間だ」
「うん。みなさん、ありがとうございました!」

 大きく手を振って、タクシーに乗り込んだ。後部座席の窓から振り返ると、みんなが手を振ってくれた。その姿が見えなくなるまで手を振り返した。そして、アンが寂しそうに鳴いた。俺もバッグで顔を隠して泣いた。
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