アイアンエンジェル~あの日の旋律

夏目奈緖

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10-4(黒崎視点)

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 午前10時半。

 予定時刻どおりに羽田空港に到着した。到着ロビーは賑やかだ。今日は新しい道を歩き始めた日だ。記念になるものを用意しておいた。夏樹に渡すプレゼントだ。展望デッキへ連れて行き、そこで渡すことにしている。今回はカジュアルなデザインのブレスレットを選んだ。

 夏樹の手を握り直すと、嬉しそうに笑って振り始めた。何度か名前を呼ばれる度に、返事をしてやった。可愛いと思っている。

「こら。子供か……」
「いいじゃん。周りに人がいないし。とうとう来たんだね」
「緊張しているのか?」
「うん。遊びに来ているのとは違うからね。これから頑張る土地に来たんだよ。簡単には帰れないから」
「もう帰ることを考えているのか?」

 到着ロビーを過ぎて、中央のエスカレーターの近くに来た。どうも夏樹が寂しそうな顔をしているから、頭を撫でてやった。すると、緊張していた体から力が抜けたのを感じた。

「黒崎さん。大好きだよ」
「俺もだ……」
「まだ時間に余裕がある。展望デッキへ行かないか?」
「うん。行こうよー」
「ご機嫌になったな」
「うん……。ああ、電話だ」
「誰からだ?」
「お義父さんからだよ。……もしもし。迎え?いいよ、ゆっくりしていてよー」

 嫌な予感がした。父が迎えに来そうだと思った。今日の迎えは断っておいた。父は飛行機が到着する時間は知っている。遅れて迎えに来るわけがない。その時、人の気配を感じた。振り向いて確認するまでもない。父だ。

「……夏樹ちゃん」
「……んん?隆さん?」
「待ちきれなかった。断られたから勝手に来たよ」
「久しぶりだね!」

 父が夏樹の両手を取った。そして、夏樹が肩に掛けてあるバッグを見た後、俺の方に視線を向けてきた。

「圭一。夏樹ちゃんの荷物を持ってあげなさい」
「ああ……」
「気の利かない子だ」
「おい……」

 父が眉をひそめた。俺もにらみ返した。夏樹からバッグを受け取ると、父が彼の手を引いて、エントランスへと歩き始めた。これからのことを考えると頭が痛かった。夏樹のことは可愛がるが、俺のことは遠ざけていくつもりではないかと思ったからだ。しかし、夏樹が落ち着けるのならそれでもいいかと思いながら、俺もエントランスへ向かった。
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