アイアンエンジェル~あの日の旋律

夏目奈緖

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 19時。

 お義父さんの迎えが到着し、さっそく店へ出発した。車の窓から、湾沿いの景色を眺めた。お義父さんと黒崎が言い合いしているが、放置している。これでいいと思うからだ。一通りの会話が済んだらしく、お義父さんから声をかけられた。

「夏樹ちゃん。体の具合はどうだい?」
「平気だよ。黒崎さんが大変だったよ。何か重いものを持とうとしたら、その度に持ってくれたから。おかげで腰痛が起きたんだ。軽めだったけど……」
「多少のことでも平気だ。もっと使ってくれ」
「あのなあ……」

 黒崎から文句の声が上がった。お義父さんがそれを無視して、俺が着ているシャツを眺めた。こういうところも、黒崎と似ている。

「今日のシャツ、よく似合っている。どこの店のものだい?」
「えーっと……、ルイボスティーかな?黒崎さーん?」
「ルイジボレッタだ」
「ほう。オーダーだね。良い仕立てだ。ズボンは?」
「ピーチティーだよ。ね、黒崎さん?」
「ピーティ・ウーノだ」
「ほう。イタリアブランドが似合うんだね」
「そうなんだ?お義父さんも黒崎さんも、清潔感を大事にしているよね。でも、生活感はゼロだよね?」
「ははは。……電話が入った。すまない」

 お義父さんが楽しそうな笑い声を立てた。何か言うたびに笑ってくれている。お義父さんの周りに居合わせた人たちは驚いていた。さっきも同じ光景があった。エントランスを出ている間、黒崎親子に対して視線を向けていた。会社が合併することが報道されていたし、密着取材も放送されたからだろう。

 こういう人がそばにいることに、気負わないようにしている。でも、俺まで注目を浴びていることは、少しだけ居心地が悪いとけれど、これから慣れていけばいいとも思っている。

「休みの日に、ドライブしようよ」
「ああ、そうしよう。運転する機会が減りそうだ」
「自由に出歩きたい人なんだもんね。誰かの運転で行動する発想がないよ」
「ある程度は自由にしていた。これからは使われる側だ。それが大きな違いだ」
「そっか……」

 これから変化が起こる黒崎に対して、俺はどんなことが出来るだろう。家に帰ってきたら、ゆっくり休める環境を作ることができると思った。難しいかも知れないけれど、頑張ろうと思った。自分のためでもある。美味しい食事と、綺麗に掃除をされた部屋。たまにスイーツの匂いを漂わせておきたい。

「黒崎さん。頑張ろうね」
「ああ、頑張ろう。お前は手を抜け」
「努力するよ~」

 黒崎から頭を撫でられた後、車が大通りから奥の道へ入った。その先にある日本料理店が見えて来て、俺の好きなものが揃っていると、お義父さんが教えてくれた。今夜の美味しい食事が待っている。そう思っていたらお腹が鳴り、黒崎が笑っていた。
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