アイアンエンジェル~あの日の旋律

夏目奈緖

文字の大きさ
77 / 283

11-3

しおりを挟む
 店に到着した。初めて入る店は緊張するだろうか。どきどきしながら暖簾をくぐると、温かい笑顔の女将さんに迎えられた。さっそく挨拶をすると、可愛らしい方だと言って微笑まれて、顔が真っ赤になった。

 個室へ案内された後、小さな器に入った、あんみつが運ばれて来た。それを食べている間に、次々と料理が運ばれて来た。コース料理だから一品ずつ運ばれてくるかと思ったのに、料理が一度にテーブルに並んだ。好きな物ばかりだ。お義父さんが頼んでくれたそうだ。

「ありがとう。俺、この方が食べやすいよ」
「そうだろうと思った。行儀が悪いだと?圭一の言うことは、放っておきなさい。甘鯛と、ちりめん山菜ごはんが美味しいよ」
「好きなんだよ。黒崎さん……、今日はあれこれ言わないでよーー」
「もう言わない。口の周りを汚しても構わないから、思いきり食べてくれ」
「うんっ。甘鯛のお刺身から食べるよ」

 黒崎が肩の凝らない店を選ぶようになったのは、俺にたくさん食べて欲しいからだと言っていた。そして、家庭的な雰囲気が好きになったのも理由だそうだ。刺身とご飯を食べていると、黒崎とお義父さんから微笑まれた。今、二人が打ち解けている。その様子を見て、ほっとした気持ちになった。

 すると、お義父さんが席を立った。お店の人に声を掛けた後、俺達の方に振り向いた。また仕事の電話が入ったのだと言い、席を立った。

「……すまない。電話を掛けてくるよ」
「……うん。気を付けてね」

 パタン。引き戸が閉まった後、むずがゆい空気が生まれていた。黒崎から優しく見つめられているからだ。しゃぶしゃぶ鍋から小さな気泡が立っているkれど、まだ肉を放り込むタイミングではなくて、手持ち無沙汰になった。

「ど、どうしたんだよ?」
「分からないのか?」
「うん……?」
「嬉しいからだ。俺には出来ないことだ。父があんなに楽しそうに笑っている。自分が蒔いた種とはいってもな。ありがとう……」
「え……」
「結婚してよかった」
「ヒャーーーーッ」

 嬉しさのあまり、声を上げてしまった。周りに聞こえて驚かれたかもしれない。黒崎が俺の口を塞ごうとした時、店の人から声をかけられた。それはそうだ。この静かな雰囲気の中で悲鳴が上がれば、驚かれるに決まっている。

 黒崎が笑い声を立てながら引き戸を開き、店の人に謝ってくれた。料理の美味しさに、テンションが高くなりましたと言っていた。そして、茶椀蒸しのおかわりを頼んでくれた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

雪を溶かすように

春野ひつじ
BL
人間と獣人の争いが終わった。 和平の条件で人間の国へ人質としていった獣人国の第八王子、薫(ゆき)。そして、薫を助けた人間国の第一王子、悠(はる)。二人の距離は次第に近づいていくが、実は薫が人間国に行くことになったのには理由があった……。 溺愛・甘々です。 *物語の進み方がゆっくりです。エブリスタにも掲載しています

ある日、友達とキスをした

Kokonuca.
BL
ゲームで親友とキスをした…のはいいけれど、次の日から親友からの連絡は途切れ、会えた時にはいつも僕がいた場所には違う子がいた

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

純白のレゾン

雨水林檎
BL
《日常系BL風味義理親子(もしくは兄弟)な物語》 この関係は出会った時からだと、数えてみればもう十年余。 親子のようにもしくは兄弟のようなささいな理由を含めて、少しの雑音を聴きながら今日も二人でただ生きています。

追放されたおまけの聖女♂は冷徹王太子の腕の中から離してもらえない〜今さら戻れと言われても、もうこの人の魔力しか受け付けません!〜

たら昆布
BL
聖女のおまけで召喚されたと思われて追放された不憫受けが拾われて愛される話

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※表紙をAI君に描いてもらいました。(2026.2.21) ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。

若頭と小鳥

真木
BL
極悪人といわれる若頭、けれど義弟にだけは優しい。小さくて弱い義弟を構いたくて仕方ない義兄と、自信がなくて病弱な義弟の甘々な日々。

はじまりの朝

さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。 ある出来事をきっかけに離れてしまう。 中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。 これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。 ✳『番外編〜はじまりの裏側で』  『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。

処理中です...