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するとその時だ。お義父さんが戻って来た。困った顔をしている。そういうお義父さんを見て、黒崎の方から、やっぱりあの話なのか?と声をかけると、お義父さんが頷いた。さっきの電話は、モデル事務所からの誘いだったそうだ。俺にモデルをやらないかという誘いだ。
「モデルをやらせたらどうだ?」
「夏樹がやりたがっていない」
「何事も経験だ。夏樹ちゃん。人前に出てみないか?」
「うん……」
お義父さんから、モデルを経験してみようと言われた。そして、カメラテストだけでも受けてみよう。引っ込み思案なところは直さなくてもいいけれど、人前に出ることに慣れておくといいというアドバイスをもらった。でも、黒崎が首を縦に振らない。
「夏樹を表に出す気はない」
「好きなことをやらせてあげなさい。ひとつのキッカケだ。一度やってみて、次は断ればいい。私が話を通しておく」
「あんたがそれを言うのか?」
黒崎を取り巻く空気が剣呑なものに変わった。お義父さんは表情を変えずに黒崎のことを見つめている。黒崎はお義父さんから音大の推薦入学を勝手に取り消されただけではなく、ママも強引なことをされている。ママは妊娠をきっかけにモデル活動を引退したけれど、出産後もモデルをやらないかという声が掛かったそうだ。ママの意志で復帰しなかったのだと思っていたけれど、お義父さんが辞退したそうだ。黒崎はお義父さんのことを許せるだろうか。とっくに許していると言っていたけれど、実際にお義父さんと話すとなると、雰囲気が変わり、大丈夫だろうかと思って、心配になった。
すると、お義父さんの方から黒崎に声をかけた。謝りたかったと言っている。黒崎がため息をつき、軽く首を振った。もう解決したことだと答えていた。
「音大入学の邪魔をした。すまなかった」
「俺のことは構わない。納得の上で選んだからだ。ママのことを忘れたのか?出産後も、業界に関わる仕事をしたがっていたはずだ。あんたが阻止しただろう」
「後悔している」
「お父さん……」
「後悔している。私の元から離れていくようで怖かった。圭一まで、私と同じにならないでほしい」
テーブルの上に置かれたお義父さんの手を見ていると、お義父さんが緊張しているように感じた。俺とは隣同士で座っているから、お義父さんの表情が分からない。黒崎とお義父さんが無言で見つめ合ううちに、黒崎の表情が和らいでいった。その後に出した声は、呆れ半分、優しさ半分だと感じた。
「夏樹。親父。俺は親父のことを苛めていない。仕事で仕返しをされそうだ」
「圭一……」
「分かった。モデルを経験させる。夏樹、やってみろ」
「やりたくない」
「経験してみろ。老舗の事務所だ。怖いことは起きない。……カメラテストは30分で終わる。記念写真を撮るだけだ。どうだ?」
どくん。胸の鼓動が高鳴った。これほど推してくるのは、俺の写真嫌いを無くしたいからだと思う。万理の事件が起きた後、週刊誌記者から写真を撮られたことがある。その思い出が嫌だった。だから、知らない人からカメラを向けられたくない。そして、このままでは前に進めない事も分かっている。だからこそ、勇気を出してみようと思った。
「うん。やってみるよ!写真館で撮影する感じだよね?」
「俺も付き添う」
「よく頼んでおく。私も一緒に写らせてもらう」
「うんっ。ありがとう」
ここまでされたら頷くしかない。無理やりではなくて、自分の為にそうする。本当に自分の意志だよと言ったのに、お義父さんが狼狽えた。俺がため息をついたからだ。そして、黒崎もため息をついた後、お義父さんに日本酒を注いであげていた。
そんな二人のことを邪魔しないようにと、俺は静かにしておこうと思い、運ばれて来た数々のデザートを食べ始めた。小さなお饅頭には、うさぎの刻印がしてあり、黒崎が喜びそうだと思い、微笑みが浮かんだ。こうして夜が更けていった。
「モデルをやらせたらどうだ?」
「夏樹がやりたがっていない」
「何事も経験だ。夏樹ちゃん。人前に出てみないか?」
「うん……」
お義父さんから、モデルを経験してみようと言われた。そして、カメラテストだけでも受けてみよう。引っ込み思案なところは直さなくてもいいけれど、人前に出ることに慣れておくといいというアドバイスをもらった。でも、黒崎が首を縦に振らない。
「夏樹を表に出す気はない」
「好きなことをやらせてあげなさい。ひとつのキッカケだ。一度やってみて、次は断ればいい。私が話を通しておく」
「あんたがそれを言うのか?」
黒崎を取り巻く空気が剣呑なものに変わった。お義父さんは表情を変えずに黒崎のことを見つめている。黒崎はお義父さんから音大の推薦入学を勝手に取り消されただけではなく、ママも強引なことをされている。ママは妊娠をきっかけにモデル活動を引退したけれど、出産後もモデルをやらないかという声が掛かったそうだ。ママの意志で復帰しなかったのだと思っていたけれど、お義父さんが辞退したそうだ。黒崎はお義父さんのことを許せるだろうか。とっくに許していると言っていたけれど、実際にお義父さんと話すとなると、雰囲気が変わり、大丈夫だろうかと思って、心配になった。
すると、お義父さんの方から黒崎に声をかけた。謝りたかったと言っている。黒崎がため息をつき、軽く首を振った。もう解決したことだと答えていた。
「音大入学の邪魔をした。すまなかった」
「俺のことは構わない。納得の上で選んだからだ。ママのことを忘れたのか?出産後も、業界に関わる仕事をしたがっていたはずだ。あんたが阻止しただろう」
「後悔している」
「お父さん……」
「後悔している。私の元から離れていくようで怖かった。圭一まで、私と同じにならないでほしい」
テーブルの上に置かれたお義父さんの手を見ていると、お義父さんが緊張しているように感じた。俺とは隣同士で座っているから、お義父さんの表情が分からない。黒崎とお義父さんが無言で見つめ合ううちに、黒崎の表情が和らいでいった。その後に出した声は、呆れ半分、優しさ半分だと感じた。
「夏樹。親父。俺は親父のことを苛めていない。仕事で仕返しをされそうだ」
「圭一……」
「分かった。モデルを経験させる。夏樹、やってみろ」
「やりたくない」
「経験してみろ。老舗の事務所だ。怖いことは起きない。……カメラテストは30分で終わる。記念写真を撮るだけだ。どうだ?」
どくん。胸の鼓動が高鳴った。これほど推してくるのは、俺の写真嫌いを無くしたいからだと思う。万理の事件が起きた後、週刊誌記者から写真を撮られたことがある。その思い出が嫌だった。だから、知らない人からカメラを向けられたくない。そして、このままでは前に進めない事も分かっている。だからこそ、勇気を出してみようと思った。
「うん。やってみるよ!写真館で撮影する感じだよね?」
「俺も付き添う」
「よく頼んでおく。私も一緒に写らせてもらう」
「うんっ。ありがとう」
ここまでされたら頷くしかない。無理やりではなくて、自分の為にそうする。本当に自分の意志だよと言ったのに、お義父さんが狼狽えた。俺がため息をついたからだ。そして、黒崎もため息をついた後、お義父さんに日本酒を注いであげていた。
そんな二人のことを邪魔しないようにと、俺は静かにしておこうと思い、運ばれて来た数々のデザートを食べ始めた。小さなお饅頭には、うさぎの刻印がしてあり、黒崎が喜びそうだと思い、微笑みが浮かんだ。こうして夜が更けていった。
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