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16-1 夏樹の誕生日
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4月19日、木曜日。22時。
今日は黒崎が遅く帰ってきた。会食があったからだ。お腹が空いていると言うから、夜食を用意した。あっさりした具材のサンドイッチ、お茶漬け、お漬物、厚焼き玉子だ。そして、小さめの土鍋を置いた。出汁の香りが、ふんわりと漂った。湯豆腐だ。
柑橘系のボディーソープの匂いがした後、黒崎がダイニングに入って来た。Tシャツを着て、タオルで首筋を拭いている。濡れた髪の毛と上気した肌からは色気が漂っている。ドキッとした。つい顔が赤くなったのは、湯豆腐からの湯気のせいだということにした。
「夏樹、どうして赤くなっているんだ?」
「湯気のせいだよ……。ん……っ」
キッチンへ逃げようとする前に、腰を抱かれて引き寄せられた。咄嗟に胸元を押すと、手首を掴まれて笑われた。軽いキスで終わったのは、明日の予定があるからだ。
「もう……」
「我慢しておく。湯豆腐も用意してくれたのか。美味そうだ」
「うん。俺も食べるよ。就任祝いの中に、”穂のか”の出汁セットがあったんだよ。深川さんからだよ」
「料理が好きだからな。お前の話を聞いて、他にも勧めたいものがあるから持ってくると言っていた」
「楽しみだよ。鮭フレークも美味しかったよ。大きな違いがあるよ」
「お前に会いたがっていた。落ち着いたらオフィスへ連れて行く」
「俺も会いたいよ。明日のお返し選び、楽しみだね」
「いいのか?せっかくの誕生日なのに、用事に付き合わせて」
「あんただって、俺の病院に付き合ってくれるんだし」
「それは当然のことだ」
明日、俺は19歳の誕生日を迎える。心臓の検診後、クルーズ船で食事をして宿泊することになった。1泊2日の旅行だ。その前に、大事な場所へ行くことにした。拓海お兄さんのお墓参りだ。お墓は都内にある。お義父さんも一緒に行くものだと思っていたら、毎年一人で行っているから、今年もそうするそうだ。そう言っていたから、何度も誘わないことにした。拓海さんとの大切な時間だと思ったからだ。
黒崎が湯豆腐を口に運び、美味いと言って笑った。どうやら豆腐が気に入ったようだ。黒崎は豆腐にうるさくて、スーパーで買う時はあれやこれやと指図してくる。こっちは価格と味を吟味して選んでいるのに、このメーカーがいいと言って譲らない。彼はいつも高級豆腐を選ぶ。普段使いをするには、俺としては手が伸びない。
黒崎が厚焼き卵を食べた。すると、卵を見て不思議そうな顔をした。いつも使っている卵が売り切れだったから、今日は違う卵を買ってきて使ったからだろう。
「いつもの卵じゃないな」
「うん。売り切れていたよ。雑誌で紹介された翌日だったからさ。我慢して食べてよ。これでも良いやつを選んだんだよ?359円だったよ。いつもの卵は398円だし。大して差がないからいいかなって……」
「価格で選ぶな。生産者とメーカーだ」
「吟味した結果だよ」
「このネギは?」
「スーパーのやつだよ。うちの家庭菜園で収穫したやつじゃないよ」
「収穫には日がかかりそうか?」
「あと3日ぐらいだよ」
「そうか。明日、買いに行こう。いい物を選べ」
「あのねえ。ちょっとぐらいは我慢しろよ~」
「食事は大事なんだぞ?」
「分かっているよ。でもさ~」
いつもの言い合いが始まろうとしたら、黒崎が口をつぐんだ。するとその時だ。付けっぱなしにしていたテレビから、ニュースが流れた。
今日は黒崎が遅く帰ってきた。会食があったからだ。お腹が空いていると言うから、夜食を用意した。あっさりした具材のサンドイッチ、お茶漬け、お漬物、厚焼き玉子だ。そして、小さめの土鍋を置いた。出汁の香りが、ふんわりと漂った。湯豆腐だ。
柑橘系のボディーソープの匂いがした後、黒崎がダイニングに入って来た。Tシャツを着て、タオルで首筋を拭いている。濡れた髪の毛と上気した肌からは色気が漂っている。ドキッとした。つい顔が赤くなったのは、湯豆腐からの湯気のせいだということにした。
「夏樹、どうして赤くなっているんだ?」
「湯気のせいだよ……。ん……っ」
キッチンへ逃げようとする前に、腰を抱かれて引き寄せられた。咄嗟に胸元を押すと、手首を掴まれて笑われた。軽いキスで終わったのは、明日の予定があるからだ。
「もう……」
「我慢しておく。湯豆腐も用意してくれたのか。美味そうだ」
「うん。俺も食べるよ。就任祝いの中に、”穂のか”の出汁セットがあったんだよ。深川さんからだよ」
「料理が好きだからな。お前の話を聞いて、他にも勧めたいものがあるから持ってくると言っていた」
「楽しみだよ。鮭フレークも美味しかったよ。大きな違いがあるよ」
「お前に会いたがっていた。落ち着いたらオフィスへ連れて行く」
「俺も会いたいよ。明日のお返し選び、楽しみだね」
「いいのか?せっかくの誕生日なのに、用事に付き合わせて」
「あんただって、俺の病院に付き合ってくれるんだし」
「それは当然のことだ」
明日、俺は19歳の誕生日を迎える。心臓の検診後、クルーズ船で食事をして宿泊することになった。1泊2日の旅行だ。その前に、大事な場所へ行くことにした。拓海お兄さんのお墓参りだ。お墓は都内にある。お義父さんも一緒に行くものだと思っていたら、毎年一人で行っているから、今年もそうするそうだ。そう言っていたから、何度も誘わないことにした。拓海さんとの大切な時間だと思ったからだ。
黒崎が湯豆腐を口に運び、美味いと言って笑った。どうやら豆腐が気に入ったようだ。黒崎は豆腐にうるさくて、スーパーで買う時はあれやこれやと指図してくる。こっちは価格と味を吟味して選んでいるのに、このメーカーがいいと言って譲らない。彼はいつも高級豆腐を選ぶ。普段使いをするには、俺としては手が伸びない。
黒崎が厚焼き卵を食べた。すると、卵を見て不思議そうな顔をした。いつも使っている卵が売り切れだったから、今日は違う卵を買ってきて使ったからだろう。
「いつもの卵じゃないな」
「うん。売り切れていたよ。雑誌で紹介された翌日だったからさ。我慢して食べてよ。これでも良いやつを選んだんだよ?359円だったよ。いつもの卵は398円だし。大して差がないからいいかなって……」
「価格で選ぶな。生産者とメーカーだ」
「吟味した結果だよ」
「このネギは?」
「スーパーのやつだよ。うちの家庭菜園で収穫したやつじゃないよ」
「収穫には日がかかりそうか?」
「あと3日ぐらいだよ」
「そうか。明日、買いに行こう。いい物を選べ」
「あのねえ。ちょっとぐらいは我慢しろよ~」
「食事は大事なんだぞ?」
「分かっているよ。でもさ~」
いつもの言い合いが始まろうとしたら、黒崎が口をつぐんだ。するとその時だ。付けっぱなしにしていたテレビから、ニュースが流れた。
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