アイアンエンジェル~あの日の旋律

夏目奈緖

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 20時。

 今から食事をする。レストランへ移動すると、オーシャンビューの席へ案内された。ステージでは司会者からの紹介の後、クラシックの演奏が始まった。周りでは、お洒落な格好をしたカップルや、女性同士のグループが料理を楽しんでいる。もちろん俺達も。

「今夜はご機嫌だな」
「黒崎さんがカッコいいからだよ」

 今夜の黒崎もかっこいい。女性客からの熱い視線が向けられている。見せるのは惜しいが、こんなに素敵な人がいたら、仕方がないと思う。今夜のヤキモチは控えめにすることにした。

「今夜の服が似合っている。それを選んでよかった」
「そ、そう?」
「誰にも見せたくないぐらいだ」
「え……」
「本心だ」
「ヒョーーッ」
「ばかやろう……」
「ば、ばかやろう!?」

 声が大きかったようだ。黒崎から注意されてしまった。優しい人は、どこに行ったのだろうか。黒崎が俺からの視線を気にすることなく、平然として料理を口にしている。ムードが壊れてしまい、彼の足を蹴ってやった。そして、心の中で文句を呟いていると、急に天井の照明が暗くなった。俺達の上だけが消えていた。

「これも意地悪なの?ふん!」
「ああ……」

 黒崎が目を合わせてくれない。ホタテの香草焼きにナイフを入れた時、小さな歓声が起きた。次の演奏が始まるのだろう。今夜は楽しもうと思っていたのに喧嘩してしまい、少しだけ後悔した。

 静かに食べていると、俺達の周りがざわめきだした。一体どうしたのだろう。そして、急に照明が強くなり、きょろきょろした。

「夏樹、振り向いてみろ」
「なに?わああ~」

 後ろを振り向くと、シャルロットとジュリエットの着ぐるみが立っていた。マイクを持った司会者から微笑みかけられた後、向こうからシェフがやって来た。シェフが持っているトレーの上には、ケーキが乗せられている。俺の誕生日を祝うということだった。

 ぼんやりしていると、着ぐるみの2匹が歌いながら軽くダンスを踊り、お客さんからの笑いと拍手が起こった。そして、2匹がシェフと一緒に、俺のそばにやって来た。

「はっぴ~ばーすでー。ナツキ~」
「るんるんるん~」

 彼らが歌を歌ってくれた。俺の目の前にホールケーキが置かれて、ローソクが立てられた。そして、せーの!と、司会者がマイクで合図をした後、ローソクの火を吹き消した。

「おめでとうございます!」
「ありがとうございます……」

 温かい拍手に包まれて、涙がにじみ、視界がぼやけて来た。俯いたたままだと、ケーキが濡れてしまいそうだ。黒崎へ声を掛けようとすると、2匹が何かを差し出して来た。それは、『夏樹へ』と書かれた箱だった。

「圭一君からの贈り物だよ!」
「これ一つしかないよ!」
「たくさんプレゼントすると、夏樹に叱られるからって」
「受け取ってね」
「う、うん。何かな?」

 そっと箱を開けると、ブレスレットが入っていた。カッコいいデザインのものだ。さっそく使いたい。そう思っていると、2匹がステージの方へ戻っていった。彼らに手を振って見送った後、もう一度、ブレスレットを見つめた。

「わあ、カッコいいね!」
「気に入ったか?」
「うん。これは鍵だよね?」
「ああ……」

 ブレスレットには、鍵が通されていた。何だろう。アクセサリーには見えない。じーっと見つめていると、黒崎が答えを教えてくれた。

「あの家の鍵だ。今は新しい鍵になっている。それは前の鍵だ。思い出に取ってあったそうだ」
「まさか住んでいいの?」
「誕生日の贈り物だ。受け取ってもらえるのか?」
「もちろんだよ!ありがとう」
「どういたしまして。家の中の雰囲気を変えずに、リフォームをする。住み始めるまでには、日数がかかるぞ」
「勿体ないと思う。少々のことは気にならないよ」
「ますます家が傷む。父と俺からのプレゼントだ。父は車を選ぼうとしたぞ。どっちがいい?」
「家がいいよ!すごい……。森の中の一軒家だね。これで賑やかになるよ」
「これで決まりだ。祝ってくれた人達に、お礼のステージを披露しよう。俺の伴奏で歌え」
「練習していないよ……」
「家で歌っているだろう?バンドも始めただろう。……ステージに行くぞ」
「あ……」

 ステージにはピアノがあった。そして、ヴァイオリニストが準備をしていた。生演奏ステージで披露するのかと思い、緊張した。そして、司会者から俺達のことが紹介されて、お客さん達から拍手が贈られた。
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