上弦の月の天使~結ばれた約束の夜

夏目奈緖

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 一階へ降りた後、秘書室へ連絡を入れた。今からオフィスへ戻ることを。夏樹も連れて行き、落ち着かせた後で家に帰す。どうも心配だからだ。

 ロッカールームから出てきた夏樹が、子ども扱いするなと唇を尖らせてきた。本気で拗ねている様子だ。こういう子供っぽい姿なら大歓迎だ。そして、頭に浮かんだのは朝陽のことだ。

(夏樹とはたった1歳違いだ。伊吹君は今年で25歳だぞ……)

 母にはこう話してある。朝陽を叱る際には、二葉と比べるキーワードを出すなと。本人が意識していないわけがない。しかし実際には、俺自身が比較している。20歳の弟と、中山兄弟のことを。

「どうしたんだよ?もう拗ねないからさ……」
「そのまま拗ねておけ。これからオフィスへ連れて行く。午後になったら帰させる」
「平気だよ~。……分かった、言うことを聞くよ」
「聞き分けが良くなったのか。どうしたんだ?」
「黒崎さんが悩んでいるからだよ」

 早く話せよと唇を尖らせてきた。遠慮なく下唇を引っ張り、朝陽のことだと話した。不真面目が祟り、単位を落としそうだと。

 すると、そうなのかと頷き、それ以上は聞いてこなかった。オフィスへ戻るまで、普段通りの会話をした。俺が話すまで待つ。いつでも聞かせてね。控えめに笑っている夏樹から、その思いを受け取った。
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