上弦の月の天使~結ばれた約束の夜

夏目奈緖

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 12時半。

 昼休憩の時間に入り、オフィス内が静かになった。ほとんどの者が、社員食堂か社外へ出ているためだ。

 後ろには小さめのデスクがあり、夏樹が食堂のランチを食べている。シャルロットキッチンとの共通メニューがあり、彼が考案したものが入っていた。パッと顔を輝かせたことで分かった。

「黒崎さん。このチキンはね……、悠人が教えてくれたんだ。がっつり系があるといいって……」
「そうか。きのこソースが美味い。……悠人君とは、ボーカルレッスンを一緒にやらないのか?」
「もちろんやるよ。次の回だよ。あれ?電話が鳴ってない?」
「ああ、こっちの方だ……」

 一貴からの、私用の連絡先からだった。何か聞きたいことがあるのか、それとも朝陽の配属先が決まったのか?電話に出ると、前者の方だった。夏樹へ説明した後、話を続けた。

「……配置先を考える上で必要だ。圭一は、朝陽君にどうなってほしいんだ?根性を叩き直すなら手っ取り早いだろうが、目標地点がないと本人が戸惑う」
「舐めた根性を自覚すれば、それでいい。医学の道へ戻るのか別を選ぶのかは、本人次第だ」

 医学部を目指した理由を聞いた際には、的を得た答えが返ってこなかった。ハードだと話には聞いたことがあるだろうに。

「……一生懸命にやれない本人を責めるのか?素行が悪いのは直させても、話を聞いてやってくれ。お前しか兄貴がいない」
「朝陽とは3度も話したが、直さなかった。俺の方がイラつく……、ああ……」

 俺の方も問題ありだ。子供時代に嫌だと思っていた記憶の通りに、俺は動いているのか。まるで父のようだ。父は人が変わったようになったが、俺にしっかりと受け継がれたのか。この反応を見せたことで、一貴が安心したと言った。同じフロアにある企画部で朝陽のことを預かるそうだ。

 通話を終えた後、夏樹から見つめられていた。入って来た際とは違う、控えめな笑顔を浮かべている。

「食べ終わったよ。ご馳走でした。今夜は定時で帰れるんだよね?新しいバスボムがあるから、一緒にお風呂へ入ろうよ。わああ……」
「誰も聞いていない。すまなかった。そろそろ支度をしよう」
「うん。シチューと、九条ネギの酢味噌えだからね。晩ご飯は……」

 個性的な組み合わせだなと聞き返すと、唇を尖らせて笑っていた。本当は帰したくないが、会議で不在が続く。留守の間の注意事項を話すと、37歳の親父だと言い返されてしまった。
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