上弦の月の天使~結ばれた約束の夜

夏目奈緖

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3-8(夏樹視点)

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 18時半。

 黒崎が定時で帰って来た。岩野洋菓子店のフルーツタルトをお土産にして。ワタベ電機の社長との話がスムーズに出来たから、ひと安心したと言った。今度は副社長として会うそうだ。

 会社の車寄せからタクシーに乗り込むまで、寝転んでおけ、庭に出るな、昼寝をしろと、色んなことを言われた。今もこうして話を聞かれている。絵本の連載の仕上げをして、夕方まで過ごしたと話したのに。

「昼寝はしたのか?シチューは煮込んであったのか。休んでいたのか?」
「寝ていないけど。のんびり原稿を用意していたよ。アンも寝てたし。明日は天気がいいから、シーツを干すよ」
「大学があるだろう?……3時限で帰るのか。外食にするか。鹿門はどうだ?」
「久しぶりだね~。お刺身が食べたいよ。お鍋もあるよね?」
「予約しておく。一貴も一緒にか?次の機会にする。……こっちにおいで」

 シャツを放り出した後、俺のことを呼んだ。何だろう?と見上げると、不意打ちで唇が重なった。啄むようなものが繰り返されて、深くなり、頬を撫でられた。呼吸の合間に見つめ合ったら、背中がきゅうっと痛くなった。

 一緒にお風呂へ入る約束をしたから、準備が出来ている。あとはバスボムを選ぶだけだ。黒崎は別の目的があるようで、俺の服を脱がしにかかった。

「黒崎さん。脱ぐからさ……。先に入っててよ」
「焦らされたくない」
「バムボムは?どれがいい?柑橘系がいいよね……」
「ああ」

 湯船へバスボムを放り込んだ。柑橘系の爽やかな匂いのなか、お互いの体を洗い合った。体が火照っているのに、風邪を引くからと湯船へ誘われた。バスタブのふちに背中を預けて、キスを受け取った。激しさは無い分だけ、甘さが倍増している。

「おつかれさま……、んん……」
「やっと帰って来れた。可愛い顔を見たかった。……口を閉じてくれ」
「ん、ヒョ……」

 感極まって声を上げる前に、唇で口を塞がれた。もう少しでムードが台無しになるところだった。それが濃密な時間を迎える合図だった。心配かけた分だけ、お前のことを寄越せと囁かれながら。

 その結果、すっかり晩ご飯が遅くなった。俺の方はぐったりしてソファーへ寝転がり、黒崎はビールを美味しそうに飲んでいた。一日が終わったと言いながら。
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