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4-1 黒崎の誕生日
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12月10日、火曜日。午前10時。
今日は動物園に遊びに来た。空は快晴、気温は普段通りだ。正面ゲートを入り、目の前に広がる自然と、動物の鳴き声に気持ちがほぐれた。マフラーを巻き付けて歩き進んだ。
今日は黒崎の、37歳の誕生日だ。あっという間にこの年齢だと、感慨深そうにしている。休日は混雑するからと、黒崎が会社の休みを取った。毎年の楽しみだと話している。ぶらぶらと出かけるだけが、幸せだと笑っていた。
車の中では大笑いをして、ここまでやって来た。ネタは一貴さんとユリウスの様子だ。俺達が出会った頃は、こうして大笑いすることはなかった。そういう意味で俺も感慨深い。もしかすると、黒崎も同じことを思っているかもしれない。
クエーー、キュキュキューー。
鳥の鳴き声が響き渡り、風に乗って、笑い声や会話が聞こえてきた。すると、アシカのコーナーに、人だかりが出来ている。
「黒崎さーん。カワウソと、アシカを観ようよ」
「ああ。おやつをあげなくていいのか?」
「あるんだねー。ふむふむ……」
そばにある自販機へ歩いて行った。おやつが売っている。さっそく百円玉を2つ入れて買い、小あじが2匹ずつ乗ったトレーを持って、柵の方へ向かった。全部で6匹ある。ちょうど人だかりが消えて、二人で並んでアシカを眺めた。
すると、アシカが俺たちに気づいて、見えやすい位置までやって来た。ジャンプしてだ。器用だと思っていると、前足で合図を送って来た。キャッチしやすい方に工夫して投げると、頭の方を向けて食べていた。それを見た黒崎が感心している。
「器用だ。お前とは反対だな」
「ふん。一度に二つ以上のことが出来ないって?料理以外はそうだよ……」
「そういう事じゃない。下を見てみろ」
そこにはアシカの名前と、プロフィールが書かれていた。ナツキという子がいるそうだ。食いしん坊で、食べすぎ注意とある。さっきの子が”ナツキ”だと分かった。他のアシカは泳いでいるからだ。
「うひゃひゃ。小食のアシカはいるのかな?ユートって名前だと面白いね」
「いるぞ。一覧にある。大人しいそうだ」
「マジで ? ホントだ~。写真を撮るよ」
さっそくスマホを向けて撮り、悠人へ送った。寝ているアシカがそうだろうか?すると、黒崎が小あじを見つめていた。いい魚だと言って。美味しいものを食べてきただけあり、目も肥えている。魚料理をする時は、決まった店で買っている。黒崎がうるさいからだ。
「ブリ大根が食いたい。まだだったろう?」
「いいよー。久しぶりだね。存在を忘れてたよ」
そういう事にしていた。アラだけを買えばいいのに、黒崎は丸ごと一匹を欲しがる。さばくのは俺なのに。気づいたなら仕方ないと思っていると、手間が無いようにしろと言った。
「一匹は面倒だろう。刺身も焼き魚も、店で食べればいい。……どうしたんだ?」
「年を取ると違うんだね?……いててて」
変わっていないじゃないか。言い合いをしながら、トラがいる方向へ歩いて行った。お互いに吼えないで済むように。この会話が楽しい。
園内を歩き進んだ。トラが寝ていたから後ろ姿だけ見つめて、アジアゾウへ会いに行った。その間、さり気なく手を繋いで歩いた。手袋ごしが勿体なくて、暑くなったからと、脱いだ。直に温もりを感じて満足した。
「わああ……」
「こっちへ来い」
水浴びしているゾウを見ていると、水しぶきが飛んできた。くすぐったい程度のものだからと油断していると、強めに飛んできて慌てて逃げた。
手を繋いだままだから転びそうになり、黒崎に抱き留められた。自然と見つめ合ったから顔がニヤけた。照れ隠しの攻撃を阻止して逃げていくと、動物園医療センターの看板を見つけた。
「黒崎さん。先月のこと覚えてる?アンを連れて、病院へ行った時だよ」
「あのことか。ハムスターに噛まれた人だったか……」
「そうそう。飼い主さんが来たけど、先生が”人間用の病院へ行ってください”って、説明してた。パニックになったんだよねー?」
「お前も似たようなことがあったぞ。途中で転んで擦りむいて、”人間用の薬はありますか?”と言っただろう。笑うことはできないぞ」
「慌ててたんだよ~。忘れろよ……」
背中を小突いてやり返していると、この先にカフェがあるのを見つけた。たしかパンダ系のスイーツがあったはずだ。ウサギもある。
そう話しかけると、黒崎がAED設置場所のマークへ視線を向けていた。有難いと思いながら、気づかないふりをして、腕をグイグイ引っ張り、カフェに連れて行った。
今日は動物園に遊びに来た。空は快晴、気温は普段通りだ。正面ゲートを入り、目の前に広がる自然と、動物の鳴き声に気持ちがほぐれた。マフラーを巻き付けて歩き進んだ。
今日は黒崎の、37歳の誕生日だ。あっという間にこの年齢だと、感慨深そうにしている。休日は混雑するからと、黒崎が会社の休みを取った。毎年の楽しみだと話している。ぶらぶらと出かけるだけが、幸せだと笑っていた。
車の中では大笑いをして、ここまでやって来た。ネタは一貴さんとユリウスの様子だ。俺達が出会った頃は、こうして大笑いすることはなかった。そういう意味で俺も感慨深い。もしかすると、黒崎も同じことを思っているかもしれない。
クエーー、キュキュキューー。
鳥の鳴き声が響き渡り、風に乗って、笑い声や会話が聞こえてきた。すると、アシカのコーナーに、人だかりが出来ている。
「黒崎さーん。カワウソと、アシカを観ようよ」
「ああ。おやつをあげなくていいのか?」
「あるんだねー。ふむふむ……」
そばにある自販機へ歩いて行った。おやつが売っている。さっそく百円玉を2つ入れて買い、小あじが2匹ずつ乗ったトレーを持って、柵の方へ向かった。全部で6匹ある。ちょうど人だかりが消えて、二人で並んでアシカを眺めた。
すると、アシカが俺たちに気づいて、見えやすい位置までやって来た。ジャンプしてだ。器用だと思っていると、前足で合図を送って来た。キャッチしやすい方に工夫して投げると、頭の方を向けて食べていた。それを見た黒崎が感心している。
「器用だ。お前とは反対だな」
「ふん。一度に二つ以上のことが出来ないって?料理以外はそうだよ……」
「そういう事じゃない。下を見てみろ」
そこにはアシカの名前と、プロフィールが書かれていた。ナツキという子がいるそうだ。食いしん坊で、食べすぎ注意とある。さっきの子が”ナツキ”だと分かった。他のアシカは泳いでいるからだ。
「うひゃひゃ。小食のアシカはいるのかな?ユートって名前だと面白いね」
「いるぞ。一覧にある。大人しいそうだ」
「マジで ? ホントだ~。写真を撮るよ」
さっそくスマホを向けて撮り、悠人へ送った。寝ているアシカがそうだろうか?すると、黒崎が小あじを見つめていた。いい魚だと言って。美味しいものを食べてきただけあり、目も肥えている。魚料理をする時は、決まった店で買っている。黒崎がうるさいからだ。
「ブリ大根が食いたい。まだだったろう?」
「いいよー。久しぶりだね。存在を忘れてたよ」
そういう事にしていた。アラだけを買えばいいのに、黒崎は丸ごと一匹を欲しがる。さばくのは俺なのに。気づいたなら仕方ないと思っていると、手間が無いようにしろと言った。
「一匹は面倒だろう。刺身も焼き魚も、店で食べればいい。……どうしたんだ?」
「年を取ると違うんだね?……いててて」
変わっていないじゃないか。言い合いをしながら、トラがいる方向へ歩いて行った。お互いに吼えないで済むように。この会話が楽しい。
園内を歩き進んだ。トラが寝ていたから後ろ姿だけ見つめて、アジアゾウへ会いに行った。その間、さり気なく手を繋いで歩いた。手袋ごしが勿体なくて、暑くなったからと、脱いだ。直に温もりを感じて満足した。
「わああ……」
「こっちへ来い」
水浴びしているゾウを見ていると、水しぶきが飛んできた。くすぐったい程度のものだからと油断していると、強めに飛んできて慌てて逃げた。
手を繋いだままだから転びそうになり、黒崎に抱き留められた。自然と見つめ合ったから顔がニヤけた。照れ隠しの攻撃を阻止して逃げていくと、動物園医療センターの看板を見つけた。
「黒崎さん。先月のこと覚えてる?アンを連れて、病院へ行った時だよ」
「あのことか。ハムスターに噛まれた人だったか……」
「そうそう。飼い主さんが来たけど、先生が”人間用の病院へ行ってください”って、説明してた。パニックになったんだよねー?」
「お前も似たようなことがあったぞ。途中で転んで擦りむいて、”人間用の薬はありますか?”と言っただろう。笑うことはできないぞ」
「慌ててたんだよ~。忘れろよ……」
背中を小突いてやり返していると、この先にカフェがあるのを見つけた。たしかパンダ系のスイーツがあったはずだ。ウサギもある。
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