上弦の月の天使~結ばれた約束の夜

夏目奈緖

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7-7(夏樹視点)

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 今、ママのいる着物店に来ている。この店へバーテルスさんを連れて行った時、ママの荷物をひっくり返してしまった。タイミングが良いのか悪いのか、片づけていた最中に黒崎が入って来た。

 他のお客さんに当たっていないし、展示物も大丈夫だ。それでもお小言を聞かされると思って身構えたら、反対に笑い声を立てられた。バーテルスさんが着物を見ているからだ。

 何度も日本へ滞在しても、着物に囲まれることがない。日本に住んでいる俺でもそうだ。そういうわけで、御所車や桜、銀糸が織り込まれたウサギ柄の着物地を見て、バーテルスさんの表情が輝いた。

「うっうっ。引率者の責任を感じたよ。普通に見ていたんだよ?ちょうどお客さんがいなくて良かった~」
「その点は迷惑をかけていない。ユーリーも分かっている。……興奮しすぎだな」
「笑えるレベルで良かったよ。おーーい、バーテルスさん!聞いてるの?」
「聞こえているよ。ごめんね。これも楽しみの一つだった。レイ・クワゾノのブランドに興味があった。もしかしたら展示があるのか期待した」
「それは来年の話だ。その時は真っ先に紹介する」
「ありがとう。忙しい人だろう?イタリアに滞在中なら……」
「いや帰国している」

 今、バーテルスさんを友達のところへ送りに行っている。こうして歩いている間も、視線を返されては微笑まれている。

「どうして笑ってたんだよ?今もそうだけど」
「面白かったからだ。気が合ったようだな。……ああ、連れの人が待っている。ユーリー。こっちだ……」

 男性たちから手を振られた。さっそく社交が始まり、俺は黒崎のそばに立ち、笑顔を保った。

(細かい話は聞き取れないよ。英語の授業、いっぱい受けたのに……)

 歌手活動の話題が出た後、一人から声が上がった。俺とよく似ている男性を知っているそうだ。なんだか嫌な予感がした後、やっぱりと心の中で項垂れた。伊吹のことを知っている人だった。ドイツへ出張した時に会ったそうだ。細かい内容は、あとで教えてもらうことにした。よっぽどインパクトがあったのには違いない。

 バーテルスさんから、ディナーの後で、ラウンジで飲まないかと誘われた。それを黒崎が丁寧に断り、彼らから笑いが起きた。カップルの邪魔をするなと言われている。

(黒崎さん。ここではやめろよ……)

 さり気なく腰を抱き寄せられて、寄りかかる姿勢になった。不意打ちのことなのに、イチャついていると受け取られてしまった。

 黒崎に軽く視線を向けると、平然として微笑まれた。さらに抱き寄せられたから、大人しくするしかない。幸せそうだなという問いにも、YESだと答えていた。胸がキュンとしたら、バーテルスさんが笑っていた。

 明日は海岸公園へ初日の出を観に行く。彼らも同じ予定だ。向こうで会いましょうと、手を振って別れた。そして、ママが待つロビーへ降りて行った。関係者との話が終わった頃だからだ。
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