上弦の月の天使~結ばれた約束の夜

夏目奈緖

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 翌日。午前10時。

 お互いに休日を満喫している。2人で情報番組を見て、あれやこれやと話した。俺と悠人と羽音さんが出演する番組 ”王妃様のブレックファースト"が流れているからだ。隠れ家的なカフェや、知る人ぞ知るベーカリーショップ。遠くからも買いに来る ”天ぷら” のお店などが紹介された。

 どこに行きたい?あの店に行きたい。そういう会話をしながら、左手を下した。そばには黒崎が座り、俺の手足の爪を整えてくれている。長年培った技術で、綺麗に仕上がる。彼自身が爪の先まで清潔感があるのは、細かい面から気をつけているからだ。

「次は足の爪だ。靴下を脱がせるぞ。……何がおかしい?テレビか?」
「違うよ。昨夜のことを思い出したからだよ。うへへ」
「……右足を上げてくれ。ここへ乗せていい」

 ぐいっと強引に足を取られた。黒崎の膝の上に踵を乗せると、黙ってヤスリを使い始めた。相づち代わりに指を動かしている。

 昨日のことで都合が悪いのか、こっちを見ようともしない。このギャップが面白いが、どうしてだろうと不思議に思い始めた。外で素っ気ないのは恥ずかしいからだ。からかうのがいけないのかな?しかし、纏わりついて来た時に冗談を向けると、ちゃんと返ってくる。

「黒崎さん。家の中でもギャップがあるんだけど。どうして?」
「遠慮がないからだ。外で素っ気ないのは、恥ずかしいからだ。お前の方もだろう」
「あんたの防衛手段だもんね。というか……、家族みんなだよね。一貴お兄ちゃんは大変だよ。恥ずかしいことばかりだよ。そう言えば、いろんな贈り物が届いたよね?お歳暮の時期じゃないのに……」

 一貴さんは関係各所との関係を直そうとしている。今までプラセルでの行いが悪すぎた。それをきっぱりと止めて、いい方法に向かっている。ただしそれには大きな反動が起きた。味方のような人が現れたが、舐めてかかって来た相手の方が多かった。業績が落ち込んでいた頃だから、ますますそうなった。しかし、味方からは応援の品が届いている。

「落ち着いてきたはずだ。一貴の顔色がいい」
「よく食べているもんね。ざるそば以外も進むようになったし」

 一貴さんと黒崎との年齢差を感じない。俺達の年代だと8歳差は大きいのに。それは”一貴が子供だからだ”と即座に返されて、笑いが込み上げた。

 悠人が好きな女の子向けのアニメの影響で、グッズを買ってきたことがある。主人公が持っている魔法のステッキだ。しかも、魔法までかけていた。

「”クルクルステッキ” を買うなんてさ……。お義父さんが呆れていたよ。……”クルクルー、オープン・ザ・ドアー!味噌汁の鍋の蓋よ、開け!”……だってさ~。さすがに二葉が笑ってた」

 悠人と仲がいいからなのか、違和感がないのが面白い。少年とのミックスで、面白い人になった。ムービーメーカーだと思う。

「気を遣った結果だ。取引先から贈られた口実で、二葉に家の模型と、ウサギの家族のセットを渡していた」
「そうだったね。僕が飾ると笑われるからって。二葉ちゃん、喜んでいたよね」

 万理も小さな頃に持っていた玩具だ。動物ファミリーの人形と、暮らしている家があった。ストーリーを考えては、あちこちへ動かしていたのを覚えている。黒崎も可愛いグッズが好きだが、二葉が受け取った時には、小さな女の子のように見えた。

 黒崎も同じことを言っていた。まずはこの家に慣れることが大事だから、似合うとは言わないようにした。そうなのか、面白そうだねーと、サラッと流した。

(優しい言葉は3年後でいいのか。そうしてやるって言ったけど、優しい言葉をかけてるんだよね……)

 二葉は朝陽の件でママと喧嘩した。堪らなくなり家を出ようとした時に、黒崎家の娘だと公表しないか?と、お義父さんから話があった。倉口の父へ自由に会いに行ける条件を出されて、YESと答えたそうだ。

 秘書を始めた後なら、黙って会いに行ける。そうしなかったのは、何が出来るわけでもないと分かったからだと言っていた。余計に寂しくなる。そういう部分もサポートすると、お義父さんが持ちかけた。自分の奥さんを奪った人なのにと、二葉の心が動かされた。
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