上弦の月の天使~結ばれた約束の夜

夏目奈緖

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 玄関を出ると冷たい風が吹いてきた。サーっと木の葉が揺れる音が聞こえて、何だか眠くなくなる。日当たりのいい場所へ出たことで、風が気持ちよく感じたからだ。この先には広い花壇があり、プリミラ、ビオラ、クリスマスローズが咲いている。晴海さんプロデュースの花壇は、去年よりもイメージが変わった。

「やっぱり専門家は違うねえ。彩りのバランス、世話のしやすさ。……春の植え替えも手伝ってくれるんだ。一緒にお店で選びたいから、連れて行ってよ」
「もちろんだ。来月の終わりだろう?TDDが始まる前だな」
「うん。とうとうだよ。歌えるから良かった」

 実際の活動は4月下旬からだ。黒崎が副社長へ就任する時期と重なっている。黒崎の方は忙しさが落ち着くから、タイミングがいい。示し合わせたかのようなスケジュールだと思った。

 最近もずっと体調が良くて、検診結果も変わりない。今だからかも知れない。もしも危ないと思ったら、遠慮せずに話すことが約束だ。その時には、臨機応変に悠人がボーカルを務めて、ステージだったら観客の笑いを取る計画だ。俺としては情けないのが、正直な気持ちだ。

「悠人君たちの気持ちを大切にしろ。IKUの方もバックアップ体制を敷いている。……黒崎製菓のバックがあるからか?当たり前だ。その分、風当たりも強いぞ。……いい子だ」
「撫でなくていいよ。子ども扱いするなって。……ええ?変なことをするなよ。スケベじじいー」

 腰に当てられた手を叩いた。わざとやったのは分かっている。ネガティブな気持ちが浮かんだのを気づいたようだ。

 ツインボーカルの理由を、活動の最初から説明することに決まった。ステージで交代する時に驚かせることがないし、周りの人も楽だ。それには、悪い反応もあるだろうと予想される。同情や注目を集めていると受け取る人がいる。それでもいいから、俺たちは一緒にやっていく。

 佐久弥がこんな事を話してくれた。”俺は笑いを取るのが得意だ。悠人というリアクション男がいる。キミの天然ボケもいい感じだ。万事上手く回すから任せておけ。真骨頂を見せてやる”とまで言い切られた。

「わっ」

 ぼんやりしていたから、足元を見ていなかった。何かにつまづいた後、黒崎から身体の前に腕を添えられて、転ぶのを防いでくれた。ヒヤッとした背中が落ち着いた。

「カゴは俺が持つ。アンに話しかけてやれ」
「いい子だねー。黒崎さんの顔が怖いことに気づいたんだね?我慢していたのかな?」
「思いふけっていろ」
「いてててて……、引っ張るなよ。優しくしろよー。性欲が関係するんだね」

 伸ばしてきた腕を避けて歩くうちに、どんどん先に進んで行った。普段なら追いかけて来るくせに、言葉だけで止められた。走るなとだけ。何だか違和感がある。
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