上弦の月の天使~結ばれた約束の夜

夏目奈緖

文字の大きさ
78 / 514

9-7

しおりを挟む
(過保護がマシになったのかな?こっちに来ないし……)

 東の方の花壇を眺めて、こっちすら見ていない。どうも寂しくなり、わざと視界に入った。それでも見ようとしない。いつもなら視線を返すはずなのに。

「黒崎さーん。こっちだよー」
「お前の言動に惑わされている。怖いなら見ないようにしてやる」
「そうだけど。束縛と関心は別ものだし。意地悪するなよ~」

 先回りをして進行方向を塞ぐと、黒崎が吹き出した。楽しそうな笑顔を見て、胸がキュンとした。束縛を嫌がる説得力が無さすぎると、ツッコまれた。こんな時間も大好きだ。心の中でニヤついていると、左手を取られて指先に触れられた。手入れをしたばかりなのに。いつもの独占欲の発動かな?

「綺麗に整えてくれたじゃん。ささくれも良くなったよ?ほら……」
「……あの頃が嘘のようだ」
「ありがとう。やってもらって良かった」

 高校生の頃は、指の爪がいびつな形をしていた。コルクボードを傷つけた結果だ。俺の爪先を見ても、黒崎から理由を聞かれたことがなかった。
 
「節の目立ない、真っ直ぐな指をしている。これからも大切にしろ」
「うん。ああいうのは嫌だよ。叱られまくっても止めなかったし」
「いい子だ。お前は叱られ慣れている分、安心している。叱られても反動が少ない。音楽の仕事で叱られることがあるだろう」
「その面は自信があるよ。問題児としては……、誰か来ているの?」
「ここから動くな。……そういうことか」
「ええ?わあーー」 

 オリーブの木の下で、一貴さんが藤沢へ迫っていた。緊迫した空気だ。言い合いになっているようだ。

 藤沢が今日ここへ来ることを知らなかった。一貴さんとはあくまでも仕事関係としての付き合いであり、それ以外で会う時も線を引くと聞いている。俺達が食事に誘った時だけ、一貴さんと同席する。その他は仕事として会う。そういう関係なのに、反対の光景が広がっている。よっぽどの事が起きたに違いない。藤沢の顔が引きつっているのが、遠目でも分かる。

「夏樹、俺が行くから放っておけ」
「今から行こうよ。もう……」
「決めつけるのはまだ早い。ああ、向こうから来たじゃないか」
「え?藤沢……」

 藤沢が顔を赤くして怒っているから驚いた。普段から本音を隠さないが、あえて怒り出そうとしない。現状が変わるわけでもなしと、飄々としている。16歳から大人の世界で仕事をして来た分、大人びている。そんな彼なのに、一貴さんへ声を荒げている。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

サラリーマン二人、酔いどれ同伴

BL
久しぶりの飲み会! 楽しむ佐万里(さまり)は後輩の迅蛇(じんだ)と翌朝ベッドの上で出会う。 「……え、やった?」 「やりましたね」 「あれ、俺は受け?攻め?」 「受けでしたね」 絶望する佐万里! しかし今週末も仕事終わりには飲み会だ! こうして佐万里は同じ過ちを繰り返すのだった……。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

【完結】お義父さんが、だいすきです

  *  ゆるゆ
BL
闇の髪に闇の瞳で、悪魔の子と生まれてすぐ捨てられた僕を拾ってくれたのは、月の精霊でした。 種族が違っても、僕は、おとうさんが、だいすきです。 ぜったいハッピーエンド保証な本編、おまけのお話、完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! トェルとリィフェルの動画つくりました!  インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのWebサイトから、どちらにも飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

没落令息はクラスメイトの執着に救われる

夕月ねむ
BL
突然父親の爵位がはく奪され、帰る屋敷も家名も失ったローレンス。貴族が集まる学院の寮からも放り出されるところだった彼を、クラスメイトのアルフレッドが引き留める。 「侯爵家の私であれば、従者をひとり授業に同席させることができる」と言って。 アルフレッドの従者となったローレンス。けれどその二年後、彼らの関係は再び大きく変わることとなった。 ※FANBOXからの転載です。 ※他サイトにも投稿しています。

処理中です...