上弦の月の天使~結ばれた約束の夜

夏目奈緖

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 5番ホームに立ち、到着する電車を眺めて過ごした。もっと混雑しているかと思っていたが、意外とホームには人がいなかった。当時よりも経路や同線の流れが良くなり、人がスムーズに流れているのか。

 先ほど朝陽からラインが入り、次の便で到着すると書いてあった。待つ間、夏樹へ連絡を取ることが出来ない。イベント会場での撮影に入っている時間だからだ。

 そして思わず左側へ手を伸ばして、空を掴んだ。ここには夏樹が居ないのだと気づき、胸が痛くなった。それは心配だからだ。いやそうではない。寂しいからだ。いっそう胸の痛みが増していく。休憩時間を待ち、連れて来ればよかった。

(情けない。俺は子供か……)

 浮かんだ考えを打ち消して、沙耶の到着を待った、あの当時のことを思い出した。とにかく人が多くて、探すのに手間取った。やっと見つけた時には驚かれて、迎えに来たかった理由を必死に誤魔化していた。

 せっかく話しているのに、アナウンスの声に弾かれて、気持ちばかりが高揚した。しかし、それは消え去った。”大学でカレシができそうなの”と、その報告を聞き、軽くショックを受けたからだ。そして駅を出た瞬間から、”親友としての立ち位置”を保つことを決めた。

 あの判断は正解だった。そう思った時にドアが開き、懐かしい光景が現実となった。どういう巡り合わせなのか、沙耶が降りて来たからだ。俺に驚く様子がなく、すぐに事情を知った。駅の近くで朝陽を見つけて、ここまで付き添って来たことを。その本人が決まり悪そうにしている。

「母親離れをした後は、お姉さんか?」
「あの……、沙耶さんに会ったからだよ……」
「ごめんなさい。クライアントのところから戻る途中で見かけたの。タクシーには乗らないって言うから、電車で来たのよ。私が勝手について来ただけ。叱らないでね」
「冗談だ。どうだ?つらくないか?」
「え?どういう……、ことですか?」
「仕事はつらくないかと聞いている。先輩の指示を守っているのか?」
「いえ。舐めています……」
「自覚があるなら一歩前進だ。……夏樹?」

 目の錯覚ではない。ホームの端の方に、帽子をかぶった子を見つけた。さっき別れたばかりの服装をしている。遠めからでも分かるほど、涙ぐんでいる。

 やはり置いて来たことを後悔し、すぐに向かおうとして足を止めた。夏樹の方へ歩いて来た人影が視界に入ったからだ。ヒマワリのような笑顔で夏樹のことを迎え、タオルで顔を拭いてやっていた。いい子だね、頑張ったね。悠人がそう話しかけているようだ。

(今日だけは別々にするか……。褒めてもらいたい……)

 ただ静かに見送っていると、沙耶から肩を叩かれた。真っ先に彼女から褒められた。よく出来ましたと。夏樹を悠人に任せて、距離を取ったことを言っているのだろう。

「お前は黙っていろ」 
「何ですって?悪いことを言うのは、この口かしら?」
「助かった。後で礼をする」
「いいのよ。朝陽君が驚いているじゃない。ねえ?」
「とんでもありません!ありがとうございました!」
「成長したじゃないか」

 今日はいい日だが、夏樹を泣かせたのが大減点だ。二人を急かして会場へ向かった。途中で夏樹たちに会わないように気を遣いながらだ。

 しかし、すぐにプライドが崩れ去り、夏樹へラインを入れた。俺のことを迎えに来ていただろう?声を掛けなかったお叱りは、帰宅後に受けると。そして、すぐに返信が入り、ウサギのスタンプが一つだけが返って来た。

 --待っているよ!

 泣いてなどいない、グッドポーズをしたウサギだった。
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