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控え室には誰もいなかった。お互いに微笑み合って、駅でのことを報告し合うのだと思っていた。だから高揚する気持ちを抑えるようにして、短い呼吸をした。
それは一瞬のことだったのか、息ができないほど抱きしめられた。黒崎は2月なのに熱い体をして、首筋の汗ばんだ感触を頬に受けた。それはベッドで感じているもので、すごく安心する。それなのに、黒崎の息遣いが乱れているから心配になった。
「黒崎さん。熱が出ているんじゃないの?」
「夏樹。おいて行くな」
「おいて行ったのは、あんたの方だよ?追いかけても出口に居なくてさ。ホームで見つけて……」
「いつから待っていたんだ?沙耶が来る前か?」
「ふうん。気づいていたなら……」
ここは白状しよう。懐かしそうな顔をしていたから、邪魔しなかったことを。俺がそばへ行くと現実に帰って来ること。思う存分に、思い出の部屋へ遊びに行ってもらいたかったことを。あんまり遅かったら、その部屋のドアを開けて迎えに行ったことも。
「沙耶さんが来たじゃん。めぐりあわせだね。俺も悠人が迎えに来てくれたんだ。あれでよかったんだよ」
「おいて行くな。寂しい。離れないと約束しただろう」
「それとこれとは別だよ。ここへ戻る時だって、構内で合流できたもん。3メートル離れだって、悠人が言ってたぐらいだし」
「……距離は関係ない。左側に居ろ。家の中でも、黙って2階に行くな。俺が下に居るときは下に居ろ。庭に出るなら見える場所に居ろ」
「むちゃくちゃなことを言うなよー」
「……約束を破ったからだ。気が済むまでそうさせる。いいな?」
いつまで?そう言い返そうとした言葉は飲み込まれた。激しくも深くもない、押し当てるだけのキスによって。胸がきゅうっと痛くなり、待っていたよと呟いてしまった。俺まで気弱になったことがバレた。
広い背中に両腕を回して抱きついた。抱きしめられて密着しているから、大して距離は変わらない。息が出来なくなって押し戻す仕草をすると、少しだけ離れてくれた。息を吸うと元通りになり、動けなくなり、喋れなくて、キスの合間に呼吸をしている状況になった。
「……あの時も置いて行こうとしたぞ?噴水のそばで。着物姿の時だ」
「あれは昔のことだよ。3年前だけど」
「……最近のことだ」
「あんたはそうでも。俺達の年代は、もっと前なんだよ」
「……俺が最近だと言っている。お前の意見は聞かない」
「強引だね~。降参してあげるよ」
黒崎の気が済むまで、やりたい放題にしてあげた。何かするわけにはいかず、キスと抱擁を繰り返した。そして、本当に熱を出しているのだと分かった。忙しい中を駆け抜けてきたからだ。そして駅での出来事で、何かが吹っ切れたのかも知れない。
「今夜は満月だよ。何を手放したんだよ?」
「初恋の思い出だ。沙耶のことだ」
「ふうん。知っているよ。沙耶さんから聞いたもん。多分私のことが好きだったって。中学の時だけどって……」
「おい」
3カ月年上のお姉さんだから、かないっこないよ。そう話すと、頬やこめかみにキスをされた。
「16歳年下のお前にもかなわない。だからそばにいろ。俺の面倒をみろ」
「だったら俺のことを守ってよ。それでおあいこだよ。……そうだ。EDENの歌詞に付け足したんだ。18歳当時のあんたに贈る意味だよ。……”人の気持ちは不思議だ。恋愛は厄介だ。なくても普通の生活は送れる。こんな想いをするのなら、もう要らないよ”。……この後をね。こうやって書いたんだ。“とめどない魂を破壊しないで。迷子になって怖かったあなたの心”って」
どうやら気に入ったようだ。ありがとう。落ち着いた声で、そう返事をされた。
それは一瞬のことだったのか、息ができないほど抱きしめられた。黒崎は2月なのに熱い体をして、首筋の汗ばんだ感触を頬に受けた。それはベッドで感じているもので、すごく安心する。それなのに、黒崎の息遣いが乱れているから心配になった。
「黒崎さん。熱が出ているんじゃないの?」
「夏樹。おいて行くな」
「おいて行ったのは、あんたの方だよ?追いかけても出口に居なくてさ。ホームで見つけて……」
「いつから待っていたんだ?沙耶が来る前か?」
「ふうん。気づいていたなら……」
ここは白状しよう。懐かしそうな顔をしていたから、邪魔しなかったことを。俺がそばへ行くと現実に帰って来ること。思う存分に、思い出の部屋へ遊びに行ってもらいたかったことを。あんまり遅かったら、その部屋のドアを開けて迎えに行ったことも。
「沙耶さんが来たじゃん。めぐりあわせだね。俺も悠人が迎えに来てくれたんだ。あれでよかったんだよ」
「おいて行くな。寂しい。離れないと約束しただろう」
「それとこれとは別だよ。ここへ戻る時だって、構内で合流できたもん。3メートル離れだって、悠人が言ってたぐらいだし」
「……距離は関係ない。左側に居ろ。家の中でも、黙って2階に行くな。俺が下に居るときは下に居ろ。庭に出るなら見える場所に居ろ」
「むちゃくちゃなことを言うなよー」
「……約束を破ったからだ。気が済むまでそうさせる。いいな?」
いつまで?そう言い返そうとした言葉は飲み込まれた。激しくも深くもない、押し当てるだけのキスによって。胸がきゅうっと痛くなり、待っていたよと呟いてしまった。俺まで気弱になったことがバレた。
広い背中に両腕を回して抱きついた。抱きしめられて密着しているから、大して距離は変わらない。息が出来なくなって押し戻す仕草をすると、少しだけ離れてくれた。息を吸うと元通りになり、動けなくなり、喋れなくて、キスの合間に呼吸をしている状況になった。
「……あの時も置いて行こうとしたぞ?噴水のそばで。着物姿の時だ」
「あれは昔のことだよ。3年前だけど」
「……最近のことだ」
「あんたはそうでも。俺達の年代は、もっと前なんだよ」
「……俺が最近だと言っている。お前の意見は聞かない」
「強引だね~。降参してあげるよ」
黒崎の気が済むまで、やりたい放題にしてあげた。何かするわけにはいかず、キスと抱擁を繰り返した。そして、本当に熱を出しているのだと分かった。忙しい中を駆け抜けてきたからだ。そして駅での出来事で、何かが吹っ切れたのかも知れない。
「今夜は満月だよ。何を手放したんだよ?」
「初恋の思い出だ。沙耶のことだ」
「ふうん。知っているよ。沙耶さんから聞いたもん。多分私のことが好きだったって。中学の時だけどって……」
「おい」
3カ月年上のお姉さんだから、かないっこないよ。そう話すと、頬やこめかみにキスをされた。
「16歳年下のお前にもかなわない。だからそばにいろ。俺の面倒をみろ」
「だったら俺のことを守ってよ。それでおあいこだよ。……そうだ。EDENの歌詞に付け足したんだ。18歳当時のあんたに贈る意味だよ。……”人の気持ちは不思議だ。恋愛は厄介だ。なくても普通の生活は送れる。こんな想いをするのなら、もう要らないよ”。……この後をね。こうやって書いたんだ。“とめどない魂を破壊しないで。迷子になって怖かったあなたの心”って」
どうやら気に入ったようだ。ありがとう。落ち着いた声で、そう返事をされた。
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