上弦の月の天使~結ばれた約束の夜

夏目奈緖

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 こういう場面では、背筋を伸ばすことを意識する。後ろ指はさされないのだと。何とかして進めているから、そう思える。いつか大きな壁にぶち当たって、それを思い知る。大学の子に少し言われたぐらいで、身を守る術を知らないことに打ちのめされた。今までの言い返し方が通用しなくて、ジレンマを抱えている。ギフトとしてハードルを与えられたのなら、やってみよう。そして黒崎からの言葉も思い出した。

 ーー俺もいまだに打ちのめされている。まだまだ甘い。

 すると、悠人の悲鳴が聞こえて来た。ひいいいいっと。ファンがいたようで、”すごい。ヒイイ兄さんだぞ!” という声も聞こえて来た。

「ゆうとー、大丈夫?」
「なつきー、社員さん達が呼んでいるよ。ねえ、気にするなよ……」
「なるほどねえ。俺って、お飾り決定なのか……」

 悠人は何も言わなかった。俺達のことを笑顔で迎えているのは、学食でビデオ通話をしていた時に見かけた、二葉に嫌な視線を向けて、こそこそと囁き合っていた人たちだった。今はどうか知らないけれど。

 今日のことは偶然だろうか。イベントに出すことで、”競争相手ではない末息子”として、迎え入れるための準備だと思った。守られていることを嫌がりはしない。それでもいいと今は思っている。地位が欲しいからだ。

 伊吹のように図々しくなりたい。彼らの背後で、もっと向こうから、黒崎が微笑みかけてきた。軽く頷いているから、手を振って応えた。そして、悠人が近くに来ている社員さん達が居ることを教えてくれた。

「夏樹、こっちだよー」
「こんにちは!お世話になっています。今日はありがとうございます」
「……いえいえ。久しぶりに会ったから、嬉しくって」
「……受付で会えるなら、お客さんが詰めかけていたなー」
「賑やかで楽しいですねー」

 控えめな笑顔を浮かべて、彼らの方へ向かった。悠人が俺の背中を叩いた後、一緒に歩いて来た。ほらね。俺も一人ぼっちはツラいよ。常に誰かの手を必要としている。自分自身にそう吐露した。

 彼らの元へたどり着いた時、浮かんでいた風船が落ちてきた。真っ白な物で、”HAPPY”とプリントされていた。すぐに現場へ指示が出されて、スタッフが見回りに行った。そして入れ替わるように黒崎がやって来て、この風船を取った。

「危なくないよ?」
「……可愛い、似合うと言われたからだ。悠人君、そうだろう?」
「へへへ……」

 なんて人だ。呆れてものが言えなくて、口元がウズウズしてきた。ほんの少しだけ見つめ合い、沙耶さんとの思い出を持ち出してやった。懺悔すると言っていたことも。

「ふうん?どういうことだよ?」
「秘書の初給料……、……」
「なに?……ん?」

 ちょうど会場のアナウンスが重なり、黒崎の声が弾かれてしまった。そして終わった時には、教えないと言い出した。意気込んだ気持ちが空振りになり、別の意味で何も言えなくなった。だから唇を尖らせた。

「ウーーーッ」
「あの判断で正解だった。動き回っている現実がある」

 俺の方を見て、ため息をついていた。たぶん良いことだ。だから、許してあげた。こうして1日が過ぎていった。
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