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自分が立っている空間には、高校生の時に来たレストランでの光景が広がった。そして、同じ系列のレストランだと教えてもらった。だから面影があったのか。将来への不安が漠然とした頃で、心の中では、余裕と無邪気な心が棲んでいた。
自然と嬉しさと懐かしさが込み上げた時、4人の姿が目の前に現れた。新しい環境に不安を抱えて大学へ入学し、聡太郎から誘われて、4月にバンド加入した。心強い仲間だと思いながら一緒に過ごしているうちに、誰かとツルむのが好きになっていた。
あの経験がなければ、今の自分は存在しない。悠人と出会っていても、TDDのボーカル、ギタリストとしての関係ではなかったかもしれない。彼が加入したバンドのコンサートを、観客席から観ていただろう。あのステージに立ちたいと、心の隅で願いながら。
そして、俺達のことを新しい岸へ導いてくれた久弥が笑っている。一人で平気だと強いふりをしていた俺が、心から笑えるようになった。
「夏樹。みんなが呼んでいるぞ」
「うん……っ。ありがとう……」
「泣いたら歌えないだろー?そっか。俺が歌えばいいね。ふむふむ」
「ぎゃははは。夏樹はタンバリンで参加だ。ギター、弾けるだろ?コードなら」
「ええ?知ってたの?」
悠人が弾いている時に練習させてもらった。初心者向けのものだ。まさかここで披露するのだろか。
すると、夏樹君。そう呼びながら、聡太郎がそばへ来た。手にはサポーターを着けてある。普段の生活と仕事に支障がない程度まで、腱鞘炎から回復した。せっかく良くなっているのに、弾くと痛むのではないか?弾けないのが辛いからと、ギターから遠ざかっているのに。
「聡太郎君。いいの?せっかく治ってきたのに」
「俺も弾きたいもん。新しい仕事を担当させてもらえるから、初心に還る意味での景気づけ」
「さあ座ってくれ。ボーカル兼ギタリストだぞ」
「うひゃひゃ……」
今度は並川さんから促されて、椅子に座らされた。そして悠人が使っているギターを持たされた。準備が整い、今夜のメンバーが、改めて司会者から紹介された。
すでに2曲を披露した後で、観客の心がほぐされていた。温かい拍手と笑顔に迎えられて、お辞儀をした。悠人がタンバリンを持っている。後ろにはハンドベルもある。今夜の担当楽器だ。多才な子だ。
「……IRON ANGELの演奏をお楽しみください。ボーカルはナツキ&ユート。ギター、聡太郎、藤沢。ベース、久弥。ドラム、並川」
俺に楽曲名を告げる大役を任された。讃美歌をイメージした楽曲であり、今夜はカントリー調で披露することを、マイクを通して観客へ伝えた。そして拍手が起きた後、楽曲名を伝えた。
「ありがとうございます。……resurrection、復活、聴いてください……」
TDDの楽曲には、resumption、再開がある。これと対になるものだ。今夜の俺達にピッタリだと笑い合った。
あの頃の気持ちを復活させよう。それを観客へ宣言するように、ギターコードを奏でた。そして、歌声をあげた瞬間から、悠人と俺の歌声が溶け合い、フロア内へ響き渡った。
俺のギターコードが問題だ。歌いながらだから、全然指がおぼつかない。あたふたと焦っていると、聡太郎がカバーしてくれた。さらに藤沢のギターが華を添えた。
楽しくなり、示し合わせて歌詞をアレンジしたくなった。久弥がニヤリと笑ったから、OKだと解釈した。急にコードを変えたからだ。どうにでもなるぞという合図だ。
小学生のような替え歌を口ずさみながら、バンド練習をした頃を思い出して、悠人と歌声をあげた。
「 forgive us our ーー」
「as we forgive them ……、俺達の罪ーー」
「悪いことなどないーー」
「仏壇のーー、お菓子を食べたー」
「おばあちゃんがー、怒ったーー」
「 we forgive them……、許してよー」
「in earth as it is in heaven --!」
悠人の額からは汗が流れていた。衣装が暑いからだと言った。そして、胸もとの雫型ペンダントが輝いた後、2曲目に移った。
自然と嬉しさと懐かしさが込み上げた時、4人の姿が目の前に現れた。新しい環境に不安を抱えて大学へ入学し、聡太郎から誘われて、4月にバンド加入した。心強い仲間だと思いながら一緒に過ごしているうちに、誰かとツルむのが好きになっていた。
あの経験がなければ、今の自分は存在しない。悠人と出会っていても、TDDのボーカル、ギタリストとしての関係ではなかったかもしれない。彼が加入したバンドのコンサートを、観客席から観ていただろう。あのステージに立ちたいと、心の隅で願いながら。
そして、俺達のことを新しい岸へ導いてくれた久弥が笑っている。一人で平気だと強いふりをしていた俺が、心から笑えるようになった。
「夏樹。みんなが呼んでいるぞ」
「うん……っ。ありがとう……」
「泣いたら歌えないだろー?そっか。俺が歌えばいいね。ふむふむ」
「ぎゃははは。夏樹はタンバリンで参加だ。ギター、弾けるだろ?コードなら」
「ええ?知ってたの?」
悠人が弾いている時に練習させてもらった。初心者向けのものだ。まさかここで披露するのだろか。
すると、夏樹君。そう呼びながら、聡太郎がそばへ来た。手にはサポーターを着けてある。普段の生活と仕事に支障がない程度まで、腱鞘炎から回復した。せっかく良くなっているのに、弾くと痛むのではないか?弾けないのが辛いからと、ギターから遠ざかっているのに。
「聡太郎君。いいの?せっかく治ってきたのに」
「俺も弾きたいもん。新しい仕事を担当させてもらえるから、初心に還る意味での景気づけ」
「さあ座ってくれ。ボーカル兼ギタリストだぞ」
「うひゃひゃ……」
今度は並川さんから促されて、椅子に座らされた。そして悠人が使っているギターを持たされた。準備が整い、今夜のメンバーが、改めて司会者から紹介された。
すでに2曲を披露した後で、観客の心がほぐされていた。温かい拍手と笑顔に迎えられて、お辞儀をした。悠人がタンバリンを持っている。後ろにはハンドベルもある。今夜の担当楽器だ。多才な子だ。
「……IRON ANGELの演奏をお楽しみください。ボーカルはナツキ&ユート。ギター、聡太郎、藤沢。ベース、久弥。ドラム、並川」
俺に楽曲名を告げる大役を任された。讃美歌をイメージした楽曲であり、今夜はカントリー調で披露することを、マイクを通して観客へ伝えた。そして拍手が起きた後、楽曲名を伝えた。
「ありがとうございます。……resurrection、復活、聴いてください……」
TDDの楽曲には、resumption、再開がある。これと対になるものだ。今夜の俺達にピッタリだと笑い合った。
あの頃の気持ちを復活させよう。それを観客へ宣言するように、ギターコードを奏でた。そして、歌声をあげた瞬間から、悠人と俺の歌声が溶け合い、フロア内へ響き渡った。
俺のギターコードが問題だ。歌いながらだから、全然指がおぼつかない。あたふたと焦っていると、聡太郎がカバーしてくれた。さらに藤沢のギターが華を添えた。
楽しくなり、示し合わせて歌詞をアレンジしたくなった。久弥がニヤリと笑ったから、OKだと解釈した。急にコードを変えたからだ。どうにでもなるぞという合図だ。
小学生のような替え歌を口ずさみながら、バンド練習をした頃を思い出して、悠人と歌声をあげた。
「 forgive us our ーー」
「as we forgive them ……、俺達の罪ーー」
「悪いことなどないーー」
「仏壇のーー、お菓子を食べたー」
「おばあちゃんがー、怒ったーー」
「 we forgive them……、許してよー」
「in earth as it is in heaven --!」
悠人の額からは汗が流れていた。衣装が暑いからだと言った。そして、胸もとの雫型ペンダントが輝いた後、2曲目に移った。
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