上弦の月の天使~結ばれた約束の夜

夏目奈緖

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 次の曲もカントリー調にしてある。聡太郎のギターからは、軽快なリズムが流れてきた。物静かなタイプなのに、演奏では正反対だ。

(大丈夫かな?けっこうテンポが速いのに……)

 心配して振り向くと、全く痛くないよと目配せされた。本当にそうだと分かるのは、ギターを持って立ち上ったからだ。重みがかかるのに。

 無理をするなと並川さんが声をかけたことで、観客から笑いが起こった。難しいことをするなと解釈したようだ。聡太郎が舌を出して笑っているから、また笑いが起きた。

「次は俺達だよ。久弥ーー」
「吸血鬼はハンドベル係をするぞ。粋だろう?」

 悠人がタンバリンを手に取り、久弥がハンドベルを持った。ベースは誰だろう?なんと藤沢に交代した。

(器用貧乏だなあ。本当にそうだよ。俺が言えることじゃないけど……)

 今度はベースが弾けるようになったのか。簡単なコードを奏でているのが恥ずかしくなった。悠人から笑われて、バレたことが分かった。

「2曲目は、夏椿の天使でーす!手拍子をお願いしまーす」
「なつきー、ソロでやってよー」
「ヒャーーッ」

 ギターを下ろして交代した。そして自由な歌唱法で、あの頃のように発声した。ただもう楽しいという、そんな気持ちでやっていた頃だ。

 高揚した気持ちが体を軽くさせて、普段よりも歌声が伸びている。観客側はどう聴こえるかな?テラス側へ向くと、黒崎が微笑みながら頷いてくれた。やっぱりそうなのか。

 あの日はコンサートホールだった。今夜はフロアだから抑えめにして、声を張り上げた。

「同じ空をみてー、Angel of ――!」
「かいまくーー!あああ……」

 悠人が始まりを告げる掛け声を上げた。そして思い切り間違えたことに狼狽えて、タンバリンで顔を隠し始めた。当時のコンテストを思い出したからだろう。まだ約2年前のことだ。
  
 あの日、バンドという船が岸に到着した。大海原へ出発した船が岸に辿り着き、3人のメンバーが降り立った。そして2人で漕ぎだした。 

 この先、誰と出会うだろう?この船に乗る人は、どこにいるのだろう?きっと素敵な人だろう。不安など無くて、未来への期待しかなかった。

 そして、素敵な出会いがあった。その人はハンドベルを鳴らしている、吸血鬼スタイルの佐伯久弥だ。そして、仲間との出会いがあった。

 今日の思い出を共有しようと、また力を合わせて漕ぎ出した。
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