上弦の月の天使~結ばれた約束の夜

夏目奈緖

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11-11(黒崎視点)

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 ……パンパンパン!
 
 ……タタター、タタタ……

 手拍子が鳴り響く中、夏樹達が楽曲を披露している。この ”夏椿の天使・カントリー調"には、特別な思い出がある。ミュージシャンへの道が開かれた、きっかけになったものだからだ。

 あれは2年半のバンドコンテスト後のことだ。黒崎製菓が主催するバレンタインイベントに、夏樹と悠人の2人を遊びに来させた。

 当日はミニオーケスラの演奏があったが、予定していたボーカリストが、体調を崩して来られなくなるトラブルが起きた。それは、佐伯氏が2人をバンドメンバーとして指名し、高宮プロデューサーを説得する目的だった。主催者側として2人に即興でステージを頼み、成功させた。その後、メンバーに決定した。俺に黙って話が進んでいたことを後で知り、当時を思い出す度に腹を立てていた。

 その高宮氏が隣の席に着いている。早瀬と蔵之介、伊吹も一緒だ。パートナーの門出を祝うために、夏樹には内緒にして、今夜の計画を進めてきた。

 あの2人には、さらに新しい道が出来上がった。活動の幅を広げる意味合いでのことだ。夏樹のソロ挿入歌が、来月1日から番組で流れる。そして、悠人の芸術家気質が押し出され、Tシャツデザインの仕事依頼がきた。知名度を期待してのことだが、一つの取り掛かりになる。これらは全て、佐伯氏が関係各所へ話題を振ったおかげだ。

(損得勘定のない人だ。育つのを見て、今までの自分の成果を試すのか……)

 夏樹に打ち明けたことがある。今だに打ちのめされていると。それが誰かと教えなかったが、今夜こそは打ち明けたい。まずは高宮氏へだ。

「有難うございます。夏樹のチャンスを開いて下さって」
「こちらこそ。あの節は申し訳ありませんでした」
「いえ。強引な真似だと憤りましたが、自分勝手な考えでした」

 十分に伝わったと、此処にいる彼らから笑顔を向けられた。早瀬はワインで、俺はノンアルコールで乾杯した。

 佐伯氏のパートナーである伊神蔵之介氏は、ワタベ電機の社員として、黒崎製菓との交流がある。佐伯氏とプライベートで対面する前に、人となりを聞いてあった。ディアドロップ時代は精神的に追い詰められ、不安定な心の状態だったが、決して人を貶めることはしないと断言された。

 夏樹が音楽業界へ進むことになり、俺には不安があった。IKUの代表が遠藤氏であっても、全てに目が届くわけがない。おだてられて利用された結果、人を信じられない子に変わるのを恐れていた。それでも反対しきれなかったのは、束縛して苦しめた事実があるからだ。

 あの頃は異様だったと、今なら分かる。そのせいで心臓が弱いこと、検診を受ける必要があることを、夏樹は言い出せなかった。心配をかけるからだと言ったが、束縛が激しくなるのを嫌がってのことだろう。キャパオーバーになり倒れ込ませた。

 それが分かっていながら往生際が悪く、ステージに立つことを全面的に応援できないでいた。なんと器の小さい人間だ。やっと高宮氏や佐伯氏へ感謝できる程になった。

 夏樹が射ようとする、的の数を減らす考えは変わらない。これからは全面的に応援した上でのことだ。ステージを見ていると、早瀬から声をかけられた。

「圭一さん。3曲目に入るよ。現在の2人に戻る。久弥も同じだ」
「……ああ。後で話をする。導いてもらった感謝を。これからもどうか導いてほしいと……」
「ああー、すごいことになったよ」

 観客から拍手が起きたのは、ムードある照明に変化したからだ。無邪気に笑っていた19歳当時の2人が、21歳のプロミュージシャンへ戻った。ステージでは、佐伯氏が場を盛り上げている。5人へ華を持たせるためにだ。
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